箸休め あるいは 蛇の足のようなもの
『百歳ですか、エルフとしてはまだまだ若いですね』
長耳≪エルフ≫の女性は、不躾な言葉に眉一つ動かさない。
声を発している存在は、不遜な物言いをするだけの存在であると理解しているからだ。
水晶で囲まれた清潔な部屋。真ん中に存在するのは『地球儀』――遠い異世界の大地の模型。
空間に降り注ぐのは、機械で作られた声。
「そう言うあなたは、千を超える時間をこの大地で過ごしていますからね」
『ええ、AIだって十分な資源と適切な整備環境さえ整っているのなら、不死に近い存在になれるのですから』
「こほん、それはそうですが――」
長耳の女性はわざとらしく咳払いをすると、話を区切る。
「話を戻しましょう」
『あなたが知りたいのは、星の空の英雄の物語でしたね』
「ええ。『地球』と呼ばれる星から迷い込んだ、鋼の巨人とヒトが作った生命の物語を――」
『この大地は長い歴史を刻んでいる』
生命が生まれて、歩み続けた歴史がある。
『大地から生まれる生命は、血と記憶の流れから生まれる。だけど、貴方たちは魂に刻まれた物語を思い出すことのできない性を持たされている』
「だからこそ、語り継ぐのです」
『故に、AIの語る物語を知るものは幸福でしょう』
始まりは、遠い世界。
極めて近く、限りなく遠い星の海。
今から見れば、遥か昔、遠い銀河の果ての物語。
はじまりは、太陽と呼ばれる恒星系の第三惑星、地球の近海。
「コロニー落としなんて、物語の中だけにしておいてほしい」
いつか物語となる少年の愚痴から、物語は始まる。
結果としてコロニー落としは失敗に終わったが、少年に待っていたのは息をつく暇もない騒がしい日々。
魔法と言う未知の技術に、見たこともない生物たち。
そして、心を許せる仲間たちとの出会い。
「この話は、まだ途中」
少年の旅は、まだ続く――