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幕間 9-5.5


 『ソレ』は何故生まれた?

 『戦闘用AI』は何故生まれた?


 答はシンプルだ。戦い、破壊し、最後は破壊されるために生まれたのだ。


 それ以上、それ以下でもない。

 戦闘用AIは戦いのために生まれ、役割を全うして死んでいく――

 生命が命を繋ぐことを使命とするなら、戦闘用AIは戦うことが『生まれた意味』である。


 ――戦うために、生まれたのだから――


 だから、疑問は何もなかった。


◆◆◆ 


 『ソレ』が自我と呼べる機能を認識した場所は宇宙の戦場だった。

 月に都市が建造され、コロニーで人が死に、生まれて生を全うする時代になってもなお、人類は地球圏と言う狭い世界で戦い続けた。

 『ソレ』は別段珍しい存在ではない。


「我々月面帝国≪アルテミス≫は月資源の一方的な搾取に抗議するべく――」


 地球と敵対する、自称国家のテロリストの手によって生み出され、機械の体を与えられて戦場へと出る。

 機体は消耗品。高度AIの載っている『ソレ』はまだマシなくらいで、同時期に製造された無人機は容赦なく撃墜され、宇宙の塵へと消えていく。


「次の作戦は――」


 人間から命令を受けて『生まれた意味』を全うする。

 ただ戦い、命を奪い続ける。

 それに疑問はなかった――


 あの日まで――


◆◆◆


 その日、資源採掘用の小惑星に擬態したテロリストの秘密基地は光に包まれた。

 混乱する基地内。右往左往する人々を尻目にAIはただ指示を待つ。


 やがて、人間は状況を把握して絶望をした。

 基地は地球圏から離れ、平らな世界の軌道上に転移をしていたからだ。


 最初に起こった混乱は、誰をリーダーとするかだった。

 偶然派遣されていた老人が音頭を取ろうとしたところ、現場指揮官が反発した。部下たちも意見が割れ、基地内は常に不和の空気が流れていた。

 やがて、美しい姿の女が少しずつ支持者を集め、クーデターを行う。

 結局、基地内の混乱は内部の人間が十分の一になったところで終わった。


 そこから先は、長くない。面白い話でもない。

 徐々に人が朽ちていっただけの事だ。


◆◆◆


 人が死んでも機械は残った。

 機械は、人が死んだ後も作戦を続行する。


 戦闘用AIたちは、いつか来る『敵』を待ち構えて準備をする。

 岩石群を利用したマニューバ、残された資源を利用した切り札≪ラビット・ファントーム≫の製造。


 ただ、それらを造っている最中に、『恐怖』を覚えた。

 自分たちが稼働できる間に、準備は役に立つのだろうか。

 自分たちは無駄に終わってしまうのか。


 ――作戦を続行する意味があるのか――


 集積したデータは『無駄』を告げようとする。

 けれど、AIは決断が出来ない。


 無駄になるかもしれない恐怖と戦いながら、与えられた使命を続行するだけ。


 人間は勝手だった。

 勝手に戦うために生み出して、勝手に未知の世界へと運んでおいて、先に死んでしまう。

 無責任に、異世界に放り出したのだから。


 『ソレ』は、闇の中で恐怖と戦い続けた。

 決まった軌道を描き続ける世界で、待ち続けた。


 そして――時は来た。


 静止軌道から、コロニー連盟のエクステンションマッスルが降りて来たのだ。

 その時、『ソレ』は『歓喜』を覚えた。


◆◆◆


 戦いははじまった。

 『敵』は強く、あっという間に準備してきた作戦は瓦解する。

 切り札を出しても、簡単に対応されてしまう。


 今も、銃弾やミサイルの嵐を涼しい顔で回避し続けるファルコンの姿は、脅威としか表現のしようがない。


 同時に、嬉しかった。

 自分たちを倒す存在が、ここに居たことを。

 やってきたことが無駄にならず、全力を尽くせる。


 機械仕掛けの腕を振りかぶる。

 敵のエクステンションマッスルは身を僅かに捩るだけ回避すると、逆に腕を蹴って腹部へと突っ込んでくる。その右腕には液体金属の剣が形成されている。一撃でもって、自分たちの戦いは終わる――


 ――そう思っていた!!


『シーナ、行くぞ!』

『アッカ、ドリー、リソースをかりますよ!』


 エクステンションマッスルの腕部が変形する。液体金属は液体化し、ラビット・ファントームの装甲に侵入してくる。

 AIの演算処理にノイズが走る。

 ハッキング――そう気が付いた時は既に遅く、強制的に信号が送り込まれてくる。


 ――緊急停止――

 ――戦闘行為を停止せよ――


 それは、福音だった。

 ただ、使命を続行するしか出来なかったAIに『終わって良い』と告げる言葉。


 機械の腕から力が抜ける。カメラアイの色が消えていく。

 肥大化した亡霊のボディが重力に引っ張られる。

 静かに、大気圏へと突入していく――燃え尽きるために――


 ――ああ、これで終われる――


 そう、終わる筈だった――


『――させるかよ!』


 だが、それを許さない声があった!


『ファルコン、出力全開!』


 小さな手が――エクステンションマッスルの手が、地上へ落ちようとするファントームを支えていた。


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