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7-7

 

 大地の裏側――

 遥か西側から太陽が降りてくる。すると、夜の冷めていた空気が徐々に温められていく。

 徐々に白む景色の中、プロペラが旋回する音が大地の裏側に響いていた。


 地上では夜。大地の裏――コロニーでは朝になるその時、VTOLパックを装備したファルコンのファイターユニットはコロニーの外壁をゆっくりと飛んでいる。

 機体の胴体からは太いワイヤーが伸び、エクステンションマッスルを吊るしていた。

 足が大地につかない不安定な機械の体の中、ユートは慎重に制御をしながらモニターを確認している。


『アニキィィ! そろそろ目標のポイントですぜ!』


 威勢のいい声が通信機から聞こえて来た。

 モニターには張り切るアッカが映っている。飛翔中のファイターユニットを操作と言う大役を任されて悦び勇むコマンドは、カメラアイを爛々と輝かせている。


「了解、こっちもデータの確認をした」


 コンソールの表示を切り替えるとユートはコントローラーの確認をする。強く握りしめると、神経接続を通して風の勢いが伝わってくる。


(眼下は徐々に白んでいく星の海)


 太陽の光を浴びて、星空であった景色は空の色に変わっていく。


「ここから落ちたらどうなるんだろう……どこまで落ちていくんだろう」

『破滅的な想像は、感心しませんよ』


 ふと呟いた言葉に、シーナはぴしゃりと釘を刺す。ユートは苦笑いをすると、分かっていると返事をした。


「さすがに自殺願望はないよ。今だって、やることは残っているんだから」


 ユートはコックピットの中で長く息を吐いた。

 目を瞑り、自分の中の鼓動を確認する。


(……大丈夫、いつもと変わらない)


 目を見開き、コンソールの表示を切り替える。


「アッカ、ファイターユニットはここで固定」

『でもアニキ、まだ距離はあるよ』

「ワイヤーを揺らしてコロニーの外壁に張り付く。これ以上接近したら操作次第でそっちが外壁に接触しちゃうだろ」


 ワイヤーは大地の下を渡る強風で激しく揺れている。もちろん、エクステンションマッスルを支えるファイターユニットも同じ場所で静止できていない。


『分かってるぜアニキ! 信じてるからな!』

『ええ、ユート、貴方なら簡単な任務でしょう』

「当たり前だ! いくぞ、ミッション開始だ!」


■■■■■■■

■作戦『ロゼ・マナタイト回収』


概要:

 ライカの師匠であるケラウスを治療するためには、『ロゼ・マナタイト』と呼ばれる鉱石が必要になる。

 幸いにして、コロニーの外壁に該当の鉱石が存在することが確認できた。

 ユートはエクステンションマッスルを使用して、ただちに回収すること。


作戦目的:

 ロゼ・マナタイトの回収。

 周辺には敵性反応もなく、障害となるのは位置のみ。


■■■■■■■


 ユートはエクステンションマッスルを起動すると四肢の動きを確認する。

 腕を開き、足を上げ、そしてスラスターの起動を確認する


「アッカ、現状の維持は任せたからな!」

『了解っす! 思いっきりやってくれ!』


 エクステンションマッスルの背部のスラスターを噴かせる。

 ファルコンは一気に加速をすると、ユートの眼前にコロニーの外壁が映る。


「リキッドメタルブレード! リキッド化!」


 右腕に装備したバックラーから液体金属が展開すると、外壁に絡みつく。即座に固体化し、ユートは外壁に飛びついた。


「よし、接続完了」


 コンソールを操作し、コックピットを解放する。

 胸部が上に展開すると、コックピットに風が吹きつけてくる。

 ユートは立ち上がり、コックピットから乗り出す。


 肉眼でも確認できる距離。コロニーの外壁の隙間に、赤い鉱石が見えた。


「あれか……」


 ユートはパイロットスーツに命綱が接続されていることを確認すると、ファルコンの胸部に飛び出る。


『重ね重ね言いますが、落ちないように注意してくださいね』

「わかってるって」


 器用にファルコンの腕を伝って外壁に近づいていく。

 一歩二歩。危なげなく歩いていく。


「よしっ」


 そして、外壁の隙間に手を伸ばす。


「回収完了」


 ずっしりとした重さが手の平にのっかる。

 外壁の隙間から取り出した手には、手のひら大の赤い宝石が収まっていた。

 眼下から噴きあがる光が宝石に吸い込まれると、深紅の光を拡散する。


「……治療に使う鉱石か、確かに、この光を浴びてると力が湧いてくる気がする」


 ――め――だ


 その光の中に、一瞬、黒い影が混ざる。


 ――め、だ……この男、抗魔力が高すぎる。


 声が聞こえた。

 音の波でもなく、直接『聞いた』ように『信号』がユートを撫でた。


「誰だ!?」


 接触はなかった、だが、ユートはぬめりとした違和感を覚えた。

 首筋に生ぬるい朝が流れる。それも、一瞬で風に吹き飛ばされる。

 周辺には誰も居ない。ただ、風の音だけが音を支配している。


『ユート、どうしましたか?』

「声が聞こえた……けど、この風の中だから聞き間違いかもしれない」

『そう考えるのが妥当でしょう』


 今も、ユートの耳には風の音が聞こえてくる。

 ごうごうと吹きつける音は、誰かの悲鳴にも聞こえる。


『アニキィ! そろそろエネルギーが少なくなってきた。戻ろうぜ!』

「そうだな。ライカも待っている」


 ユートは自分に言い聞かせるように言うと、ファルコンのコックピットへと戻っていく。

 未だに拭い去れない嫌悪感は残っているが、それもすぐに消えていった。


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