表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/142

7-5


 朝日が東の果てから昇ってくる。この時、世界の果てに断崖絶壁には猛烈な上昇気流が発生する。

 夜の間、地表は太陽の光を失って徐々に冷めていく。対照的に、世界の裏側は日差しを受けて温められる。世界の裏側で温められた空気が一気に流れ込むことが原因である。


「と、言う訳で俺たちは世界の果てに、あーんな大きな風車を作って発電している訳です」


 昇る朝日の下、断崖絶壁に設置された風力発電施設を指さして、得意気に説明するユート。隣ではライカが口を開けて感心していた。


「ほぇ~、なんだかパリパリしてたのは雷を生み出してたからなんだね」


 ライカは何度も頷いている。メガネ越しの瞳は、クルクルと回る風車に釘付けだった。


「円の動きで雷を加速させるのは魔法の技術にもあるけど、生み出すことも出来るんだね」

「案外、雷の性質を生み出すときにマナの動きで発電を行ってるのかもね」


 返事をしながらユートはタブレットを確認する。

 表示された発電量が想定の量を満たしていることを確認すると、タッチして画面を消す。


『こちらでも承認を確認しました」


 胸元の通信機からはシーナからの事務的なメッセージが聞こえてくる。


「うん、ダブルチェックも大丈夫だな」

『ええ、数値の正確性をチェックするのはAIの仕事ですからね』


 タブレットを仕舞うと、大きく伸びをしてリラックスする。朝日も、いつの間にか高く昇っている。


「これで、コロニーの設備をフルで動かしても"みんな"が困ることはないかな」


 破壊したミラーで失われた発電能力を取り戻すことが出来た。居住区の整備にも手を回す余裕が出てくる。


(さて、次はどうしよう……)


 ユートは考える。次に何をするべきか。

 そこで、すぐに答えが出てこない。


(おかしいな、ライカ以外の現地の人との接触とか、魔法について知りたいとか、いろいろある筈だけど……何からしたらいいんだろう)


 漠然と、何をしていいのか決められなかった。


(やらないといけないことは沢山あるけど、やりたいことって何だろう)


 ユートは考え込む。

 地表に沈黙の時間が流れる。


「ねえ、ユートちゃん」


 そんな彼に、ライカが声をかけた。


「ユートちゃんは時々、"みんな"って言うけれど、君以外にも誰かいるの?」


 ふと、口にした言葉に対する疑問だった。

 純粋な言葉に、純粋な瞳。それを前に、ユートは答えるべきか迷う。


「それは……」


 "みんな"とは、コロニーで眠り続ける人たちのことだ。今も、コロニーのシャフト内で時を止めている。彼らの存在を明かしていいのだろうか、迷う。

 ユートはライカの顔を見る。瞳には、神妙なユートの顔がうつっていて、姉の顔は少し心配そうだった。


『ユート、そろそろ言ってもいいのではないですか。彼女は信頼できる人間です』


 助け舟を出したのは、シーナだった。


「そうだな、これ以上は不義理になる」

『はい、分かればよろしい』


 いつも通りのAIの言葉に、思わず苦笑いを浮かべる。


「そうだね……ライカ、ちょっとこっちに来てくれる?

「うん、もちろんっ」


 いつもの明るい声に、真剣みが混ざっていた。


◆◆◆


 ユートはライカを連れて地上の管制室に入る。

 管制室に入ると、シーナが用意していた映像を見せてくれた。


 それは、コロニーのシャフト内で眠り続ける人々の姿。


「俺たちのコロニーでは、病気が発生して――」


 ライカは真剣に口を結ぶと、ユートの説明を真剣に聞いてくれた。


「だから、ライカを大地の裏側にあるコロニーに近寄らせなかったのも、みんなを守るためだったんだ」

「うん、わかる……わかるよ」


 真剣に頷く様子を見て、ユートは胸の内が軽くなっていった。

 今まで自分たちが抱えていた秘密と状況を共有できる。その相手と出会えた幸運を噛みしめる。


「聞いてくれてありがとう」


 そうして、説明が終わるとライカはユートに向き直る。


「ユートちゃん。君も、私と同じだったんだね」

「同じ……?」


 普段の明るい口調とは違う、真剣で飾りのない……すがるような言葉。


「ユートちゃん、私と一緒に来て欲しい」


 その言葉を、ユートが断る理由がなかった。


◆◆◆


 水晶の部屋を通ってライカの家へ。

 普段は通して貰えない家の奥へと進む。

 よく掃除された廊下には、古めかしい木の臭いとは対照的に埃ひとつない。


「さ、ここ」


 廊下の奥、木の扉がゆっくりと開かれる。

 扉の先にあったのは誰かの部屋。机に本棚、曲がった足の小さな椅子。

 そして、『誰か』が眠っているベッド。


「……近づいても?」

「うん、お願い」


 ライカの了承を得ると、ユートは慎重に部屋に入る。

 そして、ベッドの前に立つ。

 ベッドで眠っているのは50代程の男性だった。血色は多少悪いが、静かに呼吸をして眠っている。

 男は、ユートが近づいてもまったく変化がない。


「……これはっ」


 ずっと、眠り続ているのだ。


「紹介するね。この人はケラウス様。偉大なる稲妻の魔法使いにして、私の魔法の師匠なんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ