20-16
湖の上空には紫色のマナが広がっていた。骸竜の領域であることを示すかのように、光と風を遮り、他者を拒絶していた粒子の渦。
ファルコンは翡翠色のスラスターからエーテルを放ち、マナの粒子を吹き飛ばしながら直進する。
左腕のガトリングからシールドを解除し、右腕に装備。コックピット内でユートは装備の持ち替えが無事に完了したことを確認すると、火器の解放を行う。
機関砲がうなりをあげ、砲弾を骸竜の顔に集中して叩きつける。右側からの一方的な攻撃を重ねていく。
目に見えるダメージはない。損傷は確認できない。だが、質量がぶつかる時の衝撃は完全に殺すことが出来ず、徐々に首が動いていく。
「攻撃が通じてなかったとしても、衝撃そのものは殺しきれないだろ!」
爪が動く。邪魔な虫を潰すかのように迫って来る。
だが、その軌道はファルコンを捉えない。
『マスター、腕は本機に任せてください』
エールの操るファイターにユニットはユートの背後で旋回しつつ、腕に対して攻撃を加える。
降り抜こうとした一撃は衝撃に阻まれて軌道をずらされる。それだけではあるが、相手にとっては鬱陶しいことこの上ない。
フロラフールは口にエーテルをためる。街ではなく妨害をしてくる敵に向けた一撃を放とうとする。
だが、その攻撃は何度も観測されてものであった。
(確かに強力な一撃だ。だが、必ず正面にしか放っていない)
それがこの竜の種族特有のものであるか、はたまた操られているが故の不自由かは判断が出来ない。
だが、その過程を示すように、フロラフールから放たれた光線を口からまっすぐに放たれる。
ユートは予想された軌道を悠々と回避する。空をきった一撃は、ロゼルロンの張る障壁にぶつかるとマナの光になって消えていく。
大気が震えた。既に肉の失われた竜の口から衝撃が放たれる。
怒りの咆哮――少なくともユートはそう感じ取った。
「何かが変わる……何かが来る」
その予感は正しかった。
脚部の骨が胴体から離れる。それぞれが5メートルほどの塊に分割されると、紫色のエーテルを纏った。
骨の欠片はユートへと向かってくる。
ファルコンのスラスターからエーテルの光が放たれて飛翔する。直進してくる骨の欠片を回避するためだが、骨はファルコンを追いかけるように軌道を変えた。
「なるほど、自在に操れるって訳だな」
ユートはファルコンの右腕に構えたシールドを機体の前面に出すと、そのまま突撃。
耐エーテル処理がされたシールドは攻撃を受け止めると、エーテルによる防壁を貫通して衝撃を直接伝える。
肉体から分離し、さらにエーテルによる防御も出来なくなった欠片は更に砕ける。周囲を覆っていたエーテルが拡散し、力を失った落ちていった。
(そろそろか……)
ユートはファルコンを機動させつつも、眼下を確認する。
ロゼルロンの足元には、二機のハウリングがビーム・カノンの砲身をフロラフールに向けていた。
『クレオ、砲身を支えて!』
『うん!』
クレオによる補助により、照準は完全に定まった。
パトラは意識を集中させると、自身の発動する魔法をイメージする。
『イメージするのは石の矢じゃない』
それよりももっと強い力。石を爆発させるだけでなく、エネルギーそのものをぶつける。
熱――それを宿した石――
つながったのは、熱により姿を変えた岩。灼熱のマグマであった。
ビーム・カノンの銃口にマナが集中する。ロゼルロンの影響を受けた炎の力は、パトラの意志によって形となる。
『溶けたドロドロの岩――行けえ! マグマ砲だぁっ!!』
マグマの如き熱を持ったエーテルが放たれる。その一撃はフロラフールの左翼を直撃する。
膨大な熱が放たれる。骸竜の失われた咆哮が、音もなく衝撃となって広がる。
湖に、巨大な物体が落ちた。
溶解された翼が落ち、胴体には赤熱化した痕跡が残る。
フロラフールの顔が動いた。
致命的な一撃を放ったパトラに、敵意を向けていた。
(まずい、パトラが『見られてる』)
敵の照準が、完全に変わった。
その圧倒的なプレッシャーに、パトラはコックピットの中で怖気を覚える。




