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7-1


 世界の果て、東の断崖絶壁から太陽が昇ってくる。

 大地の下から、黎明の空へと昇る太陽とともに、ユートは目覚めた。

 

(朝日と一緒に目覚める生活、か)


 ユートは着替えもそこそこに外に出る。太陽の光を浴びると、全身の細胞が目覚めるかのように温かくなる。


「太陽の力、か」


 大きく深呼吸。それがたまらない贅沢だと感じた。


◆◆◆


 ユートは簡単に朝食を済ませ、服を着替える。改めて外へと出ると、遠くから鳥の声が聞こえた。


「なんだかんだで、朝にちゃんと目が覚めるって気持ちがいいもんだな」

『そうでしょう、人間とはそういう物ですから。ドヤッ』


 胸につけた通信バッジからは、シーナの声が聞こえてくる。小さく、ドヤッとつけたことに、思わずユートの顔が綻ぶ


「う~ん」


 ユートは全身を伸ばしてリラックスをする。既に、拠点内はアッカたちオートマターコマンドたちが走り回っていた。その中には、ドリーの姿もある。


「ドリー、今日も周辺の探索か?」

「うん。でも今日は遠出しないで今まで調査した地点の再確認だって」

『ええ、もちろん無理はさせるつもりありませんよ』

「了解。でも油断するなよ」


 事故にあったのは昨日なのに、文句も言わず働くオートマトンたち。勤勉な姿を見送ると、ユートは改めて気持ちを入れ直す。


『それでは、作戦内容を転送します』


 手にしたタブレットに情報が転送される。


■■■■■■■

■作戦『協力者との接触』


概要:

 今後、ワンドガルドで活動を行う上で現地の人間との接触は避けられない。

 幸いにして、事情を知ったうえで好意的に接してくれる人間について、心あたりがある。

 雷の魔法使いライカ。

 今後も、彼女から協力を得るために、再度接触を行う。


作戦目的:

 ライカとの接触。および協力の取り付け。

 協力関係を築くことが目的であるが、相手の出方によってはどうなるかは分からない。

 今後、良好な関係を築ける人間が出現するかも分からないため、接触および交渉は慎重に行う事。


■■■■■■■


「よーし、今日はライカさんのところに行くぞ!」


 ユートはその言葉を発した時だった――


「へぇ~、来てくれるんだ」


 背後から。それも、声がハッキリと届く距離から女性の声が届いた。

 ユートは目を見開くと全力で振り返る。目の前にライカの顔があった。


「なっ!!」


 勢いよく飛び退くと腰に手を伸ばす。だが、銃も剣も装備していないので空を切るだけだった。


「なんで居るんだよっ!! この世界の魔法使いは背後に回り込むのが挨拶なのかッ!!」


 いつかのエインシアも似たような登場をしていた。

 ユートは焦りから声を荒げる。ユートは易々と背後に人を立たせるほどボンヤリとした人間ではない。

敵意があるのなら、近づいただけでも気が付く。そうでなくとも、人の気配を見逃さないように訓練もされている。


「ご、ごめんね、ビックリしちゃったね」


 申し訳なさそうにライカは答える。本当に困っている顔だった。


(……あー、もしかして敵意が無いから気が付かなかったのかな……まったく言い訳にならないけど)


 現に、目の前にいる人間からは攻撃的な意思は一切感じない。それどころか瞳には少し涙が浮かんでいる。逆に、ユートの方が申し訳なくなる。


「……それにしても、よく来ましたね」

「来るのは簡単だよ。だって、草原に轍が残ってたんだもん」

「あー、そりゃそうか」


 今、ユートたちが立っている地面にも、オートマトンが移動した後や車両の轍が残っている。人の気配の少ない広野であれば、痕跡は目立つだろう。


(うーん、完全にペース崩されたな……どう話を切り出すか)


 ユートが悩んでいると、地面を機械が叩く音が聞こえてくる。


「アニキィィィィィッ!! 離れてください、侵入者だ!」


 建設中のコンテナの影から、アッカが走り寄ってくる。


「わぁ、この子もドリーちゃんと同じ使い魔なの? うんうん、かわいいね」


 だが、勇敢にも突撃した赤い機体は、簡単にライカに捕まってしまった。


「離せぇぇぇぇっ! オレッチに触れるなぁぁぁぁっ!!」

「あはは、じたばたしてかわいいね」


 オートマタ―コマンドには戦闘力はない。手足をばたばたさせて必死に抵抗をするが、ライカの顔は涼し気なものである。


「ライカさん、嫌がってるから離してあげて。最悪自爆するからそいつ」

「あ、そうだよね。猫ちゃんだって突然触られたら嫌だもんね」


 慌ててアッカを地面に降ろす。されるがままに降ろされたアッカが少しバランスを崩して顔を伏せる。そのアイカメラが怒りのパターンを示していた。


(そう言うレベルの話なのかなあ……)


「オレッチは猫じゃねえよ!!」


 当然、不満なアッカは必死にボディを揺らして抗議をする。


「ねえユートくん、この子なんて言ってるの?」


 必死に抗議の声を出すが、その意思は全く伝わっていなかった。

 必死に腕を振り回し、地団駄を踏む。

 そうこうしている間に、ドリーとルーブがやってくると、アッカのボディを掴んで引っ張っていく。


「はいはい、アッカは仕事に戻ってね」

「おいィィィィィィ」

「お、落ち着いて」


 地面に丸いボディの痕跡が引かれていく。

 ライカはニコニコとしながら、手を振って見送った。

 ユートの通信バッジからは、小さく『ためいき』と聞こえて来た。


『ユート、とりあえず昨日の打ち合わせのとおりに』

「ああ、わかった」


 改めて話を切り出そう、としたのだが――


「ねえ、ユートくん。これって君が言っていた、水晶の部屋かな」


 それよりも早く、ライカは話を切り出す。

 指をさした先には、エインシアが作った水晶の神殿があった。


「ああ。あれがエインシアから貰った水晶で作った部屋だけど……」

「なるほどなるほど」


 ライカはぴょこぴょこと近づくと、外壁を触る。

 

「う~ん……ちょっといいかな」


 ライカはローブから何かを取り出した。

 掌大の鉱物で、透明。太陽の光を吸い込んで輝いている。

 ライカは目をつぶって鉱物を水晶の部屋の壁に当てる。

 すると、青い光が発生した。


「っ……」


 思わずユートは目をつぶる。

 光が収まった時、接触した箇所には木の扉が出来ていた。


「扉が出来た?」

「うん。やっぱりね。ユートくん、一緒に来てくれる?」


 どう答えるべきか、ユートは暫し迷った。

 だが、悪意のないライカの顔を見ると、警戒する必要はないと理解した。


「わかった。危険な場所じゃないよな」

「大丈夫、お姉ちゃんに任せてね」


 ポン、と胸を叩いて宣言する。


◆◆◆


 木の扉を開けると、中身はコロニーに通じる扉と同じように、水晶で出来た部屋になっていた。


「扉は木製だけど、内部構造は同じなんだ」

「うん、水晶の内包する世界自体は同じだからね。物質世界で分けられるのは、扉だけなんだ」


 ライカは扉を閉めると、すぐに開く。中身は歪んでいて、よく見えない。


「さ、行こう」


 ライカに促されるままに扉をくぐった。


(この扉を潜る時、目の前の景色には、霞がかかったようになるんだよな)


 扉を閉めると、その先の景色は見えなくなる。潜っている時は、霞に包まれたように何も見えなくなる。


(そして、肌にかかる冷たい粒子の気配……これが、ライカさんの言っていたマナなのかな)


 最初は漠然と理解出来なかったが、ライカからの説明で身に起こる現象について感じることは出来るようになった。

 徐々に視界が晴れてくる。

 目に入ったのは、物が所狭しと雑多に置かれている部屋。

 部屋の真ん中には大きな木のテーブル、隅には液体で満たされた釜がある。

 窓から朝陽が差し込んできている。


「なんだろう、この匂い……ハーブで誤魔化してるけど、薬や草の臭いが混じっている」


 ユートが最初に感じた違和感は臭いであった。

 ハーブの甘い匂いに混じって、刺すような香りが混ざっている。


「ごめんね、魔法使いのお家ってこんなものなんだ」


 ライカは扉を開ける。草原の風が入って来て、匂いを運んでくれる。

 ユートは開け放たれた扉の外に出た。目の前に広がっているのはハーブの畑。振り返ると、昨日ライカと別れた場所だった。


「ここは?」


 ライカは微笑むと、両手を広げる。


「じゃーん、私たちのお家だよ。君も、昨日外から見たでしょ」


 ユートは窓の外を見る。夕方と朝とで違うが、広野の景色にはどこか見覚えがある。


「うわーっ、空間転移なんて高度な技術はそう簡単に再現できないって言った矢先にコレかあ」


 相変わらず、魔法使いと言うのはユートたちの常識から外れた現象をポンポンと引き起こしてしまう。通信越しのシーナも、何やらブツブツと小声で言っていた。


「ううん。私の家に偶然、エインシアの水晶の破片があったから出来たことなの。お師匠様に感謝しないと」

「貴重なものなの?」

「うん。大昔にエインシアが残した扉と、行き先となる水晶。数に限りがあるからね」


 ユートは知らず知らずのうちに苦笑いをしていた。


「そんなもの簡単に使うなよ……」

「えーっ、だってユートくんのところに遊びに行くのに便利だもん」


 ユートは思わず頭を抱える、それでいいのか、と口から出かかった。


「さて、それより言ってたよね。私にお話があるんだよね。大丈夫、お姉ちゃんに出来ることなら、協力するからね!」


 それも、目の前に咲いた笑顔の前だと無粋に思えて、苦笑いは柔らかい笑顔に変わっていた。


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