表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/142

15-19


 真っ白な空間。金髪を揺らし、うっすらと微笑む長耳の女性――エインシア。

 ゆったりと歩いて来る。拒絶されることも、逃げられることも勘定に入れていないように、ただゆっくりと、まっすぐに。


「やあ、久しぶりだね」


 声と拳が届く距離。当然のように挨拶をした。


「……」

「無言で拳を握るのは止めてくれないかなあっ! 仮にも女性を遠慮なく殴るのもどうかと思うよ!」


 ユートはわざとらしく舌打ちをすると拳を解く。

 その様を見ていたケラウスは、額から汗を流していた。

 ケラウスは姿勢を正すと、深く頭を下げる。そして、恭しく言葉を放つ。


「私の名はケラウス・ラインボルト。雷閃雲の魔法使いと二つ名もあります」

「うん。キミからは確かに強い魔力を感じるよ。彼と同じでね」


 ケラウスは礼を崩さずに言葉を続けた。


「高位の魔法使いとお見受けします。よろしければ名を拝聴し、覚えることを許していただけないでしょうか」


 長耳の女性は唇に手を当てて僅かに考えこむ。

 やがて、僅かに口端を緩ませると、静かに名を名乗った。


「エインシア、とだけ」


 ケラウスが顔を上げ、目を大きく見開いた。


「エインシア……」


 耳にした言葉を確かめるようにつぶやき、ユートを見る。ユートはただ首を縦に振った。


「いや、しかし……『本当に』エインシアなのでしょうか」

「君の懸念はおそらくもっともだ。そして、その疑念を払拭する言葉を今の私が持っていない。エインシアと名乗る奇人と思ってもらえればけっこうだ。何せ、確かな記憶がないのだからね」


 冗談めかしてエインシアは言うが、ケラウスの顔は険しいままだった。


「君たちを呼んだのは……そうだね、ほんの興味だ」


 そう言うと、振り返り、歩きはじめる。


「ついて来てほしい――いや、ついて来るんだ」


 その言葉に、二人は従うしかなかった。


◆◆◆


 白い空間を歩く。ただ白い空間が広がっている。

 床は固くも柔らかくもない。足音もすぐに消えてしまい、どこか現実感がなかった。

 ユートはケラウスを見る。警戒するように、長耳の女性を後ろから見ている。

 そして、ある点に気が付いた。


「そう言えば、いつの間にか服着てるんだね」


 広野に居た時と違い、ちゃんと服を着ている。謎の光も当然消えていた。


「ああ、あの方と対峙する前に再生成出来て助かった……」

「あの方、か」


 ケラウスがエインシアの名を聞いた時、明らかに動揺をしていた。

 ライカが何度も口にし、エドンでも釘を刺されたように、エインシアと言う名はワンドガルドにおいて特別な意味を持つ。それは、魔法使いであるケラウスによって非常に、よく理解出来ることだった。


「ケラウスさんから見ても、この人の正体は分からないのか」

「ああ、ただ、高位の魔法使いではあるのは理解出来る。この時間が止まった空間に呼び寄せるだけの魔力があるのだからな」

「時間が?」


 思わずユートは周囲を見渡す。


「時間が止まってる? それなら俺たちは何で動いてるんだよ? それに、今喋ってる音だって伝わらないし、光だって止まってる筈だ」


 時間が止まる。一言で言われてもユートは到底受け入れることは出来なかった。


(確かに、宇宙で似たような状況になった時も時間の経過は殆どなかった……)


 理性とは逆に、状況が『時間停止』と言う現象を裏付ける状況に、ユートは焦る。

 それを前に、ケラウスは淡々と説明をする。


「この空間の中だけは、な。この真っ白な空間の外側ではマナの流れが完全に止まっている。

 停止した空間を作りだし、そこに他者を招き入れる。

 人間が時間を認識する刹那の間に『静止した世界』を創り出す……」


 ユートは思わず苦笑いをした。


「今まで聞いた魔法の説明の中で、一番デタラメだ」


 その愚痴を耳にした長耳の女性が振り返る。目を細め、どこか自慢げだ。


「おや、尊敬してくれるかい」

「……それは……」


 否定の言葉を出せないユートを前に、女性は笑う。


「その態度が答えだね。さて、着いたよ」


 女性が空間に手をかざす。すると、白い空間の先に人影が浮かんでる。

 人影は小さく、蹲っている。

 ワカメのようにねっとりとした髪の、よわよわしい姿の男


「あの、男の人は……」


 知らない筈だった。だが、漂ってくる気配は、ユートは覚えがあった。


(いや、違う……俺はあの気配を……魔力を知っている)


 ただ、直感に任せて口に出す。


「アッダマス……」


 男は――アッダマスは、無言で振り返った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ