表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/142

15-12


 ファルコンと魔導鎧の戦いは、未だに膠着していた。


 迫りくる雷撃をいなし、突撃を回避し、距離をとって旋回する。

 魔導鎧を前に何度も繰り返した挙動。その精度が徐々に落ちてくる。


「……っ」


 雷撃が脚部をかすめる。痛みの逆流は痒い程度のものであるが、自身のパフォーマンスが落ちていることをユートは感じ取っていた。

 額に浮かぶ汗を拭うことも出来ず、操縦を続ける。


(くそ……ダメだ、消耗はこっちの方が早い……)


 コンソールに表示されているエネルギー残量は既に半分近い。パイロットも機体も、稼働時間は有限である。


(どこかで見切りをつけないといけないのか……)


 自分の中に浮かぶ、『殺す』と言う選択肢。徐々にその存在が大きくなっていることをユートは感じ取る。

 向かい合う魔導鎧からマナが溢れる。何度目かも雷撃――


『天狗の風ッ!』


 雷撃が来るはずであった。

 雷撃を生まれる前に、風の塊がエーテルによって色付けられ、魔導鎧を吹き飛ばす。

 発信源に立っているのはクラマ。銅色の翼を展開している。

 悠々と飛ぶ彼女の下にはローバー。そして、ライカが居た。


『ユートちゃん、聞こえてる?』


 通信が入って来たのはほぼ同時だった。

 風の轟音に混じって聞こえてきたのは、涙混じりの声だった。


「聞こえてるっ!」

『ユートちゃん……ごめんね、ごめんね……本当は、君は何も関係ないはずだったのに』


 ユートは歯をきつく食いしばる。

 同時に、魔導鎧が邪魔ものに目を向ける。

 とっさにシールドを構えてユートが立つ。乱暴に生み出された魔力の塊が魔導鎧から放出されるが、文字通り盾となって防ぎきる。


『……ごめんね……でも……私も一緒に背負うから……師を殺す痛みを、背負うから』


 通信機から聞こえてくるライカの言葉――

 ――それを聞いた時、ユートの我慢が限界に達した。


「……バッカヤロウ……ッ!! そうじゃないだろ!!」


 怒鳴ると同時にやけくそにコントローラーを握り込む。

 ファルコンを一気に加速させて距離を詰める。同時にガトリングを斉射。

 降り注ぐ弾丸は魔導鎧の表面に揺らす。致命打にこそならないが、突然の反撃に魔導鎧は後退り、様子をうかがう。


「そんな無理やり絞り出した言葉で、納得なんて出来るわけないだろ!」


 納得が出来なかった。


「勝手に期待して、勝手に押し付けて、勝手に泣いて……納得なんて出来るかよっ!!」


 目の前の理不尽に対して、感情を吐き出した。


『そうだ、ユート、言ってやれ!』


 通信機の先で、クラマが後押しをしてくれる。


『お前が何をしたいか、言ってやれ』

「ああ……言ってやる」


 そして、大きく息を吸い込み。

 感情と一緒に吐き出す。


「諦めたオッサンの後始末なんて、絶対にするもんか」


 未だ様子を窺っている魔導鎧を睨みつける。


「気に食わない! 勝手に決めたことも、ライカが泣いてるのも! 何もかもが!

 でも一番気に食わないの、俺に出来る解決方法が、破壊行動だけだって決めつけたこと!」


 ユートなら暴力で解決をしてくれる。そう決めつけられたこと。


「ロボットに乗ったパイロットは神にも悪魔にもなれる――だから、この力の使い方を考えなきゃいけないのに」


 人が乗るロボットは、人の意思によって神にも悪魔にもなる。

 武器の塊である巨大ロボットを操る上で、絶対に忘れてはならない理屈。

 たとえ兵器として生み出されたとしても、兵器で終わるな、と、シーナが物語を通じてユートに教え続けたこと。


「壊すしか出来ないと思われるなんてのは、絶対に嫌だっ!! ましてやそれが、世話になって人なんてたまるか。

 考える……最後の最後まで、考えてやる」


 通信機の先で、泣き声が止まった。


『うん……うん、そうだよね……』


 ライカの声に、僅かに希望が戻る。


『魔法だって同じ。誰かを不幸にする力じゃないもの』

「ああ、殺して終わりになんてしてやるかよ!!」


 エクステンションマッスルが跳躍する。ガトリングを斉射しながら距離をとると、改めて相手と向かいなおる。


『方針を確認しましょう』

「なんとかケラウスを殺す以外の方法で、アッダマスを止める」


 シーナの声に、ユートは石を重ねる。


『いいでしょう。生命は子を産み未来に託す、と言えば聞こえはいいですが――親の不始末を子に尻拭いをさせる理由にするのは、納得しがたいですしね』


 饒舌なその返事に、思わずユートは苦笑いをする。


「シーナ、ずっと待ってただろ」

『いいえ、あなたが言うまで、私の蓄積されたデータからは出てこない言葉でした』


 そして、シーナもまた、ユートの背中を押す。


『ユート、私たちはあなたを全力でサポートします』

「ああ、頼むぞ、みんなっ!!」


 その意思に呼応するように――ユートの愛機が、変化を始めた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ