14-8
シュテントの姿が消えると、ライカは杖の先に集めていたエーテルを解放する。
雷電球が弾けると、地下室から音が消えた。
ユートとケラウスも武器を降ろすと、三人、示し合わせたように部屋の中央に集まる。
「大丈夫ユートちゃん? 怪我はしてないよね? 悪い呪いとかかけられてないよね?」
丸い瞳でじっとユートの状態を観察する。手が触れそうになって、ユートは思わず一歩後ずさる
「おいおい、師匠のことも心配してくれ」
「ははは……」
男二人は苦笑い。
「もう……でも、怪我はなさそうだね」
ようやく緊張が解けた三人は、お互いの無事を確認する。
「さて、どうしてもんか」
そして、次にどうするかを考える。
まず、最初に気になったことは、誰が集まっているか。
「ライカ、ドリーたちも来てるんだよね?」
「うん。アッカちゃんとマイトくんもね。今は家の前で見張っててもらってる。他の人が来てるかもしれないしね」
もしかしたら増援があるかもしれない。その警戒から、念のため外で警戒していたのだ。
「それなら、ひとまず合流したい」
ユートがそう提案する。ライカも同意して、部屋を出ようとするが――
「ちょっと待て……」
ケラウスは机の上を物色する。資料をかき分け、軽く確認するといくつか紙の資料を持ち出す。
「よし、大丈夫だ」
◆◆◆
地上に出ると、ローバーが停まっていた。
その周辺にはアッカとドリー、そしてマイトが待っていた。
『ユート、ひとまずはお疲れ様です』
シーナの通信を合図にして、皆が集まってくる。
「アニキ、俺たちはひとまず無事だぜ」
「うん、シュテントだっけ……あの人も、ボクたちには気が付いていたけど、手は出さずにこの場を離れたよ」
二人の報告の後、マイトが続く。
「どこに行くか後をつけようかと思ったけど、ありゃダメっす。隙がない、下手に動いたら何されてたか」
両手を上げて、お手上げと言った風に言う。
「なるほど……」
ひとまず皆が無事であることは確認出来た。
「ひとまず先輩たちに合流してくるっす」
「わかった、念のため気をつけて」
「うっす」
残されたセインたちにも情報を共有するため、マイトは来た道を走っていった。
その姿が見えなくなることを確認すると、ユートはタブレットを取り出す。
「さて……」
起動すると、グリッドが表示される。そこには緑色の格子状の線以外は何も表示されていなかった。ユートはタブレットをタッチして操作をすると、表示が切り替わる。マイナスの数字と中央に赤い点が表示された。赤い点は徐々に左側へと移動していく。数字はゼロに近づいていく。
「ユートちゃん、それはどうしたの?」
「籠手を渡したでしょ。その時に、特殊な磁気を発生させるシートを張り付けてたんだよ」
『探索用のマーキングですね、こちらでも情報はキャッチしています。
現在タブレットに表示されているのは、可能な限り収集した位置情報ですね』
赤い点は磁気の発生源。つまり、シュテントの相対位置である。
グリッド上の簡易マップの左側、つまり、西へと移動していたのだ。
「ダメだな、西に行ったまでは分かるけど、受信不可能範囲まで離脱されてる」
『それでも、周辺で待ち構えていないと裏付けが出来たので良しとしましょう』
「そうだね」
ひとまず本当に安全が確保されたことを確認し、ユートはようやく息を吐いた。
「さて、次はこっちだ」
ケラウスは地下から持ち出した資料を取り出す。
「そう言えば、ケラウスさんが持ち出したのって」
「ああ、盗まれたマナタイトの傍にあった書類なんだが……」
「何か分かることがある?」
ケラウスは資料をざっと流し見ると、ニヤリと笑った。
「ああ、几帳面にもまとめてやがる」
ケラウスが資料の一文を指さす。それを、ライカとユートが二人で覗き込む。
「呪いによる物質変質および停止現象の解除……」
ライカが読み上げると、ケラウスが補足する。
「簡単に言うと、物質を石に変える呪いの解呪方法の研究だ。その試作品が、アイツが持って行ったマナタイトらしい」
「そんなものを何に使うつもりだったんだろう」
ケラウスは首を横に振る。
「分からん……どうにも頼まれて作っていたようだしな」
「それは、誰に」
「書かれている名前をそのまま読むぞ」
資料の一番下。印を押された箇所に名前はあった。
「エインシアの残声≪エインシア・エコー≫だとよ」
――エインシア――
その名が出た瞬間、ユートは思わず頭を抱える。
『またその名が出ましたか』
シーナの言葉に、ユートは重い溜息を吐き出す。
この世界に来てから何度もぶつかってきた名前、エインシア。その因縁の濃さに参っていた。
――だから、ユートは気が付かなかった。
「……」
隣に立つライカが、険しい顔をしていることに。
穏やかな彼女には似つかわしくない鋭い瞳で、印で押された名前を睨みつけていたことに――




