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14-1


 音がした。

 何かが大地を叩く音がした。

 最初は一つ。すぐに二つ。あっという間に増えていく。

 一つ一つは小さいけれど、沢山の音が一斉に襲い掛かってきた。

 音の残滓には、濡れた地面。


 曇天は太陽を遮り、薄暗い世界に雨粒が落ちてくる。


 クラベ村――剣戟の音が消えた村を支配するのは、降りしきる雨の音。

 まるで戦いが終わるのを待っていたかのように、空は一斉に泣き出した。


 巷に残されたのはゴブリンたちの死骸や砕け散った瓦礫たち。再起動したウォール・マナタイトの銀色光は、静かに、人の気配が消えた村を照らしている。


◆◆◆


 クラベ村内、南の外れ。そこに一棟だけ広く、大きな建物がある。

 他が一階建て、狭ければ一部屋しかないような小さな家屋が立ち並ぶ中、二階建ての小さな学校程はある建物だ。

 元は村の集会所兼作物の集積所。

 敷地内には倉庫や厩舎もあり、かつては馬車やそれを引いてきた馬を入れることも出来た。


 今、そこに入っているのはユートたちのローバーとエクステンションマッスル。

 突如の降雨に急ぎ、雨をしのげる場所はないかと聞いたところ、ケラウスが案内をしてくれた。


 ケラウスの怪我もある。一行はエールとファイターユニットだけは拠点に戻すことにし、クラベ村で体制を整えることにしたのだ。

 ローバーは家屋の下に停車している。

 木材の集積所には、ファルコンが窮屈そうに蹲っている。

 アッカとドリーはその傍らで待機をしている。


 マイトはセインたちを迎えに外に出る。

 ライカは怪我をしたケラウスの応急処置のため、集会所にある寝室にいる。


 そして、ユートは――


◆◆◆


 集会所の広場、かつては村の住民たちが集っていたテーブル。十人はゆうに入れる広間に、今はユートが居た。

 板張りの床の上にはビニールシート。その上には、破壊されたシールド・オートマトンのボディ。

 ボディからはコードが伸びている。接続先は、ユートが持つタブレット。

 右手にはタブレット。左手はタブレットから接続されたキーボード。両手で器用に操作をしながらオートマトンの状態を確認する。


「……状態確認……っと」


 タブレットには、オートマトンの状態を示す各種数値が表示されている。


 ――ボディのダメージ:甚大

 ――シールド発声機関:使用不可能

 ――コアユニットの状態:衝撃により一時的に停止。再起動済み


「コアユニットの損傷状態は……よし、問題なさそうだな」


 ユートはエンターキーを勢いよく叩くと、接続されていたオートマトンの電源が落ちる。もちろん、デリートの類ではなく、一時的なスリープ状態である。


「コアユニットは無事だから、ボディさえ修復すれば復帰できるな」


 魔導鎧との戦闘の際、ユートたちが逃げるための時間を稼ぐために破壊された一機。

 ボディは無残にも破壊されたが、コアユニットは破壊を免れた。


『それは幸いです。明日、戻ってきた際にすぐにボディの交換を行えるように準備をしましょう』

「ああ、頼む」


 通信機からのシーナの声に応答すると、ユートはタブレットの電源を落とす。

 自然と息を吐いた。張り詰めていた緊張が、ようやく解けたようだった。


 雨音が響く。木造の古びた家屋は、降り注ぐ雨粒が奏でる音を伝えてくる。

 外は暗く、室内はヴェール・マナタイトの光がゆったりと照らしている。


「それにしても……本当にボディはこっぴどくやられたな」


 ユートは改めて破壊されたボディを見る。

 シールド・オートマトンは名前の通り、盾となるために存在する。防御フィールドを発生させるだけでなく、ボディに関しても分厚い装甲を用いている。

 それが容易く破壊されるだけの敵が、ここには居た。


「ゴーレムに魔導鎧か」


 立ちふさがった巨大な物体。様々な手を重ねて退けることは出来たが、一歩間違えれば自分たちが倒されていただろうことは、ユートには容易に想像出来た。

 巨大な岩の化け物に、膨れ上がる鎧。何れも、大規模な輸送手段を使わずに、一瞬で生み出された。


「あれだけの巨大な物体を直ちに呼び出せるんだから、エクステンションマッスルの運用に思考錯誤してるこっちには頭が痛いよ」

『輸送、展開の手段と言うのは常に問題になるますね。空間と距離、そして時間を無視することは出来ませんから』


 ユートは目を伏せると、憎々し気に呟く。


「それを無視する『魔法』が存在する」

『そう、魔法、ですね』


 同意するシーナの声は平坦だった。


 ワンドガルドに来てから、幾度となく魔法の力を思い知った。

 敵対者に使われること。そして、自分たちも水晶の部屋や、先程の戦闘で利用した空間転移。

 地球の科学技術では実現できない現象を前に、ユートは気を重くする。


「なあ、魔法って、なんだろうな」

『と、言いますと』

「特殊元素を用いた技術を魔法と言うのなら、なんで『魔法』と言う言葉で翻訳されているんだろう」


 ユートは聞く言葉と話す言葉が自動的に翻訳をされる。

 ライカとの会話の中で、幾度も自然に出てきた『魔法』と言う言葉。


「この技術が『魔法』と言う言葉で当てられているのは、なんでだろうな」


 だからこそ、『魔法』と言う言葉として伝えられていることに、疑問を持ったのだ。


「仮に、魔法と言う言葉を異能の力に当てはめてるなら、超能力や神通力、様々な言い回しがある。

 魔法使いだってそうだ。超常の力を操る存在とするなら、ニュータイプやら色んな言い回しがある」

『最後のだけは絶対に違いますね』


 淡々とシーナは告げる。


『申し訳ないのですが、その問いに答える術は私にはありません』


 ユートもまた、お手上げと言った風に、両手をあげるのだった。


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