4.星を辿って
「星を辿って」を手に取ってくださりありがとうございます。
こちら、作者の卒業制作作品となっております。
短編小説で全5作品で一つの作品となっており、こちらの作品は「だけど、」というものになっております。
読了致しましたら、感想をいただけますと幸いです。
そちらの感想は卒業制作の報告書内で感想例として提示させていただく場合がございます。
あの日君と出会えたこと。
それを運命だと思いたい。
俺の過ごす日々と、君の日々は決して交わることはなく、ただひたすらに過ぎゆくのみだったはずだから。
朝日が昇って今日の訪れを窓から指す光が知らせる。朝日で起きたいと思った一人暮らしを始める前の僕の考えは一向に実ることなく、その光は寂しくカーテンをすり抜ける。眩しい、という感情も抱かずに、ただずっと寝ているとスマートフォンのアラームが家を出る30分前であることを知らせる。本当はもっと早く起きたいけれど、いつもこんな感じだ。参ってしまう。薄手の掛け布団をひっぺがしてベットから降りる。一旦伸びをする。最近なんだか、ベットが合わない様な、そんな感じがする。30分しかないのに、なんだかんだ余裕そうに振る舞っていた自分に「急げ」と言い聞かせながら、洗顔、着替え、髪のセットという身支度を整える。今日の朝ごはんは近くのパン屋でパンを買っていこう。なんて考えながら、荷物を持って外に出た。予定通りの時間に家を出ることができてとても満足である。スズメの鳴き声、小学生の大きな挨拶、自分の足音。キラキラ眩しい太陽と毎度青の歩行者信号、おろしたてのスニーカー。今日はとてもいい日になると確信していた。
昼下がり、太陽の光が教室の窓から調節入ってくる頃。おいしいパンを食べて眠くなりながら受けていた授業が終わって、席を立った。帰路につこうとしたところ、声をかけられる。
「ねぇ、天文サークル、興味ない?」
周りには自分しかおらず、声の主に対して目を合わせないのも失礼かと思い、そちらを向くと、いつもの自分なら話すこともない爽やかな青年がいた。正直なところ、何を言われているのかわからなかった。答えることもできずただ、声をかけてくれた優しい青年に目を向けるだけでフリーズしてしまっていた。青年は自分が固まっている様子を見てもう一度
「天文サークル、どうかな?一年生だよね?」
なんて尋ねてきた。もう一度言われたことで、なんとか理解した僕は、そう、です。と、辿々しく言葉を紡いだ。
「天文サークルって言ってもね、ちゃんと活動しているのは僕と部長のぐらいで、他の子は幽霊なんだよね…。でも、みんな、夏の合宿とか流星群の観測とかには来るぐらい仲良しで、ほら、こんな感じ。週2回火曜日と木曜日で自由参加!どう、かな。」
彼は、自分が答えたことによって味をしめたのか、隣の席に座り、彼のスマートフォンの写真フォルダを見せながら話を続ける。写っているのは田舎の夜空ときっと大学から見た星空と、研究発表時の写真だった。どれに写っている彼も周りの人々も笑顔でとても雰囲気が良好なのは目に見えてわかった。自分としては大学ではバイトに専念して旅行に行こうかな、なんて考えていた。だが、サークルという選択肢があることを忘れていた。旅行とかできるサークルに入れば交友関係が広がるのか。
そう考えると、入会するのもありだな…なんて思案していると
「入りたいって思ってくれたら、また、部活等で待ってるから!えっと、これフライヤーね!ここの教室。東棟の3階ね。待ってるから。」
と少しばかり急ぎ口調で言うと、持っていた白黒のチラシを僕に押し付け、離れていった。教室を出るまでに顔を合わせた人たちにもチラシを何枚か渡し、教室を出ていく。嵐のような出来事に少々戸惑いながらも、ひとつ学生生活が楽しくなりそうな予感を手に入れ僕は早速大学のサークルや部活動について調べ始めた。
調べて思ったことは、体を動かすものやもともとの経験を活かすものが多いということだ。僕はあまり運動が得意ではないし、中学高校の部活動の経験が活かせる部活に入りたいわけでもない。自分としては何か新しいことを始めたいと思った次第だ。
…やっぱり天文サークル…か…?
突如勧誘をかけてきた割には活動をちゃんとしていそうだし、観光をしたいと考えていた自分にとって他の土地にサークル活動でいくことができると考えると一石二鳥の部分がある。しかも、通常のサークルは週2回自由参加。バイトとの兼ね合いも良好だ。部活でないところからもゆるさが伺える好条件さ。とてもいい。明日にでも部室にお邪魔してみようか。考えがまとまりすっきりしたことでサークル情報収集に使っていたスマートフォンから目を離すと、教室の電気が煌々と光り、外に見える空はすっかり暮れていた。僕は時間の経過の速さに驚きつつ、周りの空とのコントラストを感じる部屋を後にした。
荷物を抱き、大学の敷地を出ようとしたところ、「わ、偶然だ。」と、向かいから声をかけられた。なんか、かっこいいキャップを被った青年が、自分の方を見てつぶやく。僕は、人違いだろうと思い、眩しい青年を避けつつ帰ろうとしたが、「まって」と声をかけられ止まった。
「天文サークル、どう、かな。」
ここでやっと、彼が僕を天文サークルに誘ってくれた人だとわかる。確かにどちらの彼も好青年で優しい雰囲気が漂っている。無視しようと思ってしまった自分が申し訳なかった。どう答えるか考えつつ。彼を向いて、なんとか言葉を紡いだ。同級生以外の人と話すのは大学に来て初めてかもしれない。
「見学、いっても、いいですか。」
絞り出した声に、彼はとびきりの笑顔を見せた。
「おいで!明日もいるから!」
くしゃくしゃに笑った彼を見てなんだか心が温かくなった。帰り道、駅に着くまで天文サークルのこと、お互いのこと、大学のこと色々な話を聞かせてもらった。連絡先も交換して、これからたくさんお世話になる先輩に礼をして電車に乗った。とても有意義な時間で自分としては大満足であった。
次の日、授業が終わって僕は天文サークルの部室を探していた。正直な話、まだ大学に入学して時間が経っていない僕は授業をしている教室でさえもあまり把握できておらず、ましてや部活棟なんて知る由もなかった。どれだけさがしても見つからず、しまいには先輩からメッセージが来ていた。
-大丈夫?これるか?-
先輩には悪いが、このメッセージを見るまで先輩に頼ることができるなんて考えてもいなかった。すぐさま、=迷っています。=と返信し、道案内を仰いだ。すると-どこにいる、迎えにいくわ-と、どこかの王子も驚くような気遣いを見せ自分を迎えに来てくれた。男の僕でもときめいた。なんて言ったら、気持ちが悪いがなんというか分け隔てなく優しいのであろう彼の人となりを肌で感じた。
「部室ここだよ。」
天文サークルの部室につき、先輩がドアを開けてくれた。中を覗いてみると明らかに上級生であろう方と少し緊張してそうな同じクラスの女の子二人が座っていた。彼女らも見学に来たのであろう。少し緩めのモード系の服で飾った長髪の男性がこっちを向いて話し始める。
「おっ、来たか。座りな〜。」
夜に快活に活動してそうな見た目とは同様に、気だるそうな声でそう言った。お邪魔します。と、軽く会釈し椅子に腰掛けた。
新入生が3人集まって満足したのか、後に部長と判明するいかつい彼はつらつらと言葉を並べた。この天文サークルの説明をするとともに渡されたプリントに目を通しつつ、彼の話に耳を傾けていると前に立っていた先輩が笑顔を向けて自分を見ていた。いや、正直に言おう。少し先輩のことが気になって見てみたら、目が合ってしまった。他の新入生を見ず僕の方だけを見ている彼が、とても気になって仕方がなかったのだ。自意識過剰な気もするが。…。それはさておき、ありがたい話だ。大学に入って右も左も分からない新入生にとってこの説明会はとても有意義なものとなったように思う。それぐらい、わかりやすく、サークルないしは大学について教えてくれた。僕はその心意気に心を動かされ、自分の大学生活のモットーのためにこのサークルに入ることを決断した。
最終的に他二人も入会したらしく、自分含め男女2:2の同期ができた。すごしやすい雰囲気に、みんな定期的に足を運んでは、たわいもない話をする6人となった。
そんな中、今日は珍しく先輩と二人きりだった。二人きりになるのは説明会以来で少し緊張した。向かい合わせで座りながら、先輩は天文の資料を読み、僕は課題を進めていた。少し休憩がてら先輩に「どんな内容が書いてあるんですか」と聞いてみたが、あまりにも専門的で正直覚えていない。わからないことを悟られ苦笑していると、「課題、わからないところあったらきけよ。」とくすくすと笑いながら、僕のわかりやすい話題に変えてくれた。気遣いができる姿とその笑顔がとても心をくすぐった。
数日が経ち、学校オリエンテーションの期間が終わり本格的な授業が始まった頃。授業終わりに、先輩からメッセージが来た。
-今日、夜空いてる?満月だし、月見よ-
天体観測のお誘いであった。天文サークルに入って初めての課外活動であり、あまり自分から空を見上げない自分にとってはこのメッセージを見てすぐ、取る行動は決まっていた。
=行きます。=
とすぐさま送信し、場所や詳細を仰いだ。
あたりがすっかり暗くなった頃、僕は大学付近の公園に足を運んだ。遊具が少ない代わりに、広場のようなだだっ広いスペースがあるのが特徴の場所だ。しばらく、公園内を歩いていると、中央に何かをしている人影が見えた。
「あっ、先輩。」
思わず声に出して呼んででしまっていた。夜に出歩くことも少ないため、知っている人を見つけて安心してしまったのだと思う。先輩も自分を呼んで、手を振ってくれた。とても元気そうであった。
「ブルーシート引いたから、ほら。」
自分より先にいた先輩は、寝そべって観測するためにブルーシートをひいていてくださったようだ。何から何まで頭が上がらない。感謝の意を示すと、彼は僕をそこに座るよう促した後、我先にと大の字に寝転がった。
「ほら、みろよ。きれいだぞ」
そんな声掛けに惹かれ、僕もブルーシートに寝そべる。地元ではみることのできない満点の星空と満月に感無量だった。いくらでも眺めていられるなと感じ、そこからは時間が経つのも忘れて見入っていた。
いくらか時間が経過し、少し他のことを考えるようになっていた。眠いなとか、自分以外は誘っていないのかとか、天体観測って望遠鏡みたいなものはいらないのだろうか、とか。聞いてみようかと思い、先輩の方に顔が向くよう寝返りを打つ。すると、真正面に先輩の顔があり自ずと驚く。反射で反対を向うとしたら、先輩に腕を握られ、逃げ場を無くしてしまった。僕の心臓はドキドキ音を鳴らしている。聞いたことないぐらいに。もう深夜を回っているだろうか。あたりは物音ひとつしない。さっきまで考えていたことがもう頭の隅からも消えてなくなってしまっていた。もう、目線を逸らすことはできなかった。どうしたんですか、なんて言うために口をひらこうかどうしようか悩んでいると、先輩が先に声を発した。
「今日、みんなと一緒じゃなくてごめんな、騙して。二人で見たくって」
僕のことをまっすぐみていた、視線が揺れる。僕の頭は言葉の意味を理解しようと奮闘するが、驚きが隠せていない。漏れる息は声にならずに、消えていく。目の前の人がとても愛おしく見えた。戸惑ってはいたものの、嫌と言う気持ちはなかった。魚のように口をぱくぱくさせていると、先輩が笑ったように見えた。
「さっ、そろそろ帰るか。うわ、もう11時か、はやいな…ほら、立って。」
スマートフォンで時間を確認したのち、速やかに立って僕に手を差し出して先輩が言う。(先輩、僕のこと好きなんですか、いつから…)なんて、たくさん話を聞きたかったが、またもや先輩に先をこされてしまった。
「…ありがとうございます。」
「いいってことよ」
軽口を叩きながらブルーシートをたたみ、僕らは何事もなかったようにお互い帰路についた。
僕はこの事象について結構な時間考えた。就寝前やバイトの時間、授業時にだって先輩のことが頭に浮かんで離れなかった。僕としてはあんな思わせぶりな一言を言われて、引くどころか先輩のことを可愛いと思ってしまった時点で自分もいつの間にか恋に落ちていたことを悟っていた。しかし、問題は同性であることである。僕は今まで女の子が好きで、女の子と付き合った経験しかないため男性に自分が興味を持つことに驚きを隠せないと同時に、周りからどんな目で見られるのか少し怖いように感じた。自分自身、同性恋愛に対して、一歩下がってみてしまうような、冷めた態度を見せていた身であるためこれからのゆく末に不安を感じていた。まだ、思いが通じ合ったわけでもないのに考えることではないが、どうしても考えてしまう問題であった。悶々としていると横の扉が音を立てた。そうだ、ここはサークルの部屋だった。あまりにも、居心地が良いため、こう、自室のような安心感があるのだ。気を引き締めてドアの主を見ると同期の一人が立っていた。心配するような目をして。
「こんな話する間柄でもないけどさ、好きな人ができたけど…あんまり、世間から推奨されない恋だったらどうする。」
「推奨されないって何?(笑)」
具体的な部分を隠していったが、伝わるだろうか。こんな話をしても突然しても笑ってくれる同期に本当に感謝の気持ちしかない。自分の隣の席に着席した彼女は少し悩んでから口を開けた。
「私なら恋自体はそのまましていると思う。恋をすることは自由だから。ただその先は本当に人によるよね。なんてったって、相手の意思が違うかもしれないし、世間の目に触れる可能性もある。正解はないよ」
とんでも正論を言い出した同期に驚き、彼女の方を向き目を見張る。しかし、考えてみれば実際そうなのだ。今回の場合、相手の意思が違うなんてことは多分ないが、世間からどう思われるのかはわからない。しかし、思っている分には心のうちで完結するため、人から見られる心配もない。つまり、自由なのだ。思いを伝えるかは後々考えるにしろ、好きでいて良い理由をもらえて少し嬉しくなった。笑みが溢れたことによって、隣にいる人にバシバシ叩かれる。
「まー、なんであれ思い続けるのは自由だよ、私は味方だし。がんばんな!」
彼女なりのエールを何度もくらい、収まったと思ったら部長がいないから帰ると言って帰っていった。きっと用があったのだろう。自分もやることがないし、問題もモヤモヤしていた部分は解決したため、今日は帰ることにした。
思い続けることを決めて、はや1ヶ月が経とうとしていた。梅雨をこえ、夏の茹でる暑さがくるしい。部長に前々から今日は、部室に集合と言われていたため、授業が終わるとすぐ部室に向かった。会えるだろうか、なんて胸を膨らませながら。
結論、先輩に会うことはできなかったし、とても悲しい事象が発覚した。あれはやはり思わせぶり、いや、ただの自分が勧誘した後輩に対しての愛着にすぎなかったのだ。部長が呼び出したのは夏休みに入ってすぐの合宿詳細説明をするためであった。僕が初めての合宿に胸を踊れせていたのも束の間、その説明会が終わってすぐ幽霊部員の先輩が口を開いた。
「ねぇねぇ部長ぉ。(先輩の名前)、彼女いるんですかぁ?この前、デパートで女の子と腕組んで歩いているとこみましたよぉ。」
この言葉に僕は息を呑んだ。告白する前に失恋するのってこういう感じなんだろうか、なんて少しわけのわからないことを考えながら。その方は、興味津々なようで部長の答えを今か今かと待ち侘びていた。しかし、部長の回避スキルはさすがなもので
「俺は知らんな〜、本人に聞けばいいんじゃないか〜」
「ちぇ」
彼女の考えは一瞬にして淘汰されてしまった。完全に不機嫌になった彼女は荷物を持って颯爽と帰っていく。残されたのは僕のみが抱える第三者からの情報によって振られた傷だった。帰らないのも不自然になるため、残りのHPを振り絞り、帰路で考えることにした。
________先輩には付き合っている人がいる。
これは僕が答えを出さずにいたからなのか、そもそも先輩が僕のことなんてこれっぽっちも好きではないからなのかわからないが自分がとても悲しいと思っていることだけはわかる。ちゃんと恋をしていた自分に何故か少しびっくりしている。男性同士でも本気の恋ができていたんだ、と。それでも、この叶わぬ恋の行方がなくなってしまった事実は変わらない。どうするべきか、と悩んだ。重い足取りで歩きながら。
ふと、目に止まる。それは、あの天体観測をした公園であった。
あの”二人で”にはどのような意味が含まれているのだろう。バディ的な意味なのか、恋愛的な意味なのか。自分にとっては恋愛一択であるが、先輩にとっては違ったのかもしれない。勘違いが先行していた自分を恥じるしかないと決心する。しかし、”二人で”というぐらいだ、一定値より自分の好感度は高いことは間違いないだろう。うん、そうに違いない。そんなふうに自分の心を紛らわすしかなかった。
僕も先輩に、少しでもいってみたら違ったのかな。好感度は高いわけだし?
なんて、意味不明な考えだってよぎってくる。だめだ、先輩に迷惑かけたくない。でも、この好きの気持ちをどうしろと…。堂々巡りの押し問答がずっと頭の中で繰り広げられる。この後家に帰ってからも何も手につかず、何をしててもため息が出てしまった。
“自分がどうしたいのか”をうやむやにしていたら、いつの間にか夏の合宿の日になってしまっていた。合宿前までのサークルは試験勉強やバイトのためと理由をつけては休んでいた。本当は先輩と顔を合わせるのが気まずいだけであったが、自分の中の免罪符としては十分だった。時が解決してくれるなんてのは嘘で、今もずっと気まずいままだった。先輩は人気者で、ずっとメンバーに話しかけられてて楽しそうだが、自分は新入生でまともに話せるのは同期と先輩と部長だけ。おまけに、先輩とは気まずく、人見知りであることから初対面の人に話しかけるのは困難で、この合宿が楽しめるのか不安な部分があった。
なんとか、同期と過ごすことで気を保っていたが、ついに話したことのない人と話す機会が来てしまった。それは、夜の観測会でのことであった。旅館の外の木の下で、星を眺めながらゆっくりしていたところとても気さくな女性の方が話しかけてくださったのだ。その方はあの、先輩がデートをしている現場をみた人であった。
「どう、楽しんでる?」
なんて、後輩に聞くにはもっともらしい言葉から会話が始まる。彼女は僕の隣に座って顔を覗き込む。僕は、楽しいですと、緊張半分に答えると笑われた。夜空を眺めながら、誰かの受け売りであるという星についての知識を教えてもらいつつ、世間話をしていた。すると、話題がなくなったためか、先輩の話にうつった。
「ねぇ、君、(先輩)と仲良かったよね。今日話した?」
直球の質問に答えを探していると、
「話さなきゃ!君、(先輩)と話してる時が一番楽しそうだよ」
なんて、幽霊で合宿説明会の時にしかあっていないような彼女が何故そんなことを知っているのかわからないようなことを言ってきた。実際、あの頃はそうだったのかもしれない。恋は盲目ってことなんだろうな。と少し恥ずかしくなった。人から見てもダダ漏れな好意ほど恥ずかしいものはない。自粛しようと心に決めた。どこまでも続く星空をただ、二人で眺めていた。彼女も気さくではあるが、勇気を振り絞って僕に話しかけてくれたのかもしれないと思いながら。そんな時、自分の名前が不意に呼ばれた。先輩だった。
「何でこいつと一緒にいんの。(僕)、いくよ。」
一瞬だった。僕の腕を先輩が引っ張る。立ち上がるのが間に合わなくてこけそうになりながら、走る先輩を無我夢中で追った。いよいよパニックだった。何が起こっているのか自分自身わからない。彼は僕を近くの川ほとりまで連れてった。走りすぎて、息が切れてきてどうしてももう止まってほしいと、先輩に伝えようとしたところ、思いが伝わったのか彼はゆっくりとスピードを落とした。自分より先に走っていたにもかかわらず、息が切れていない。いつもの様子で僕を心配した。
「ごめんな、急に引っ張って。一旦深呼吸な。あと、何もされてない?」
「何も、って、なんで、すか…?」
息が途切れ途切れになりながら、不可解な部分について言及する。自分としては走った理由が気になるものだ。
「いや、お前が(気さくな幽霊部員)と一緒にいたから…。あいつ、手ぇ出すの早いからさ。大丈夫かと思って」
「なにも、されてないですよ…」
その情報先に知っておきたかったなんて、思いつつ彼女の善良な行動の数々を思い出す。正直そんな人には思えなかった。なんだか、自分だって人と付き合っているぐらいなんだからその、人のこと言えないのではなんて。思ってしまった自分がいた。
「先輩だって、付き合ってる人いるんですから、そんなの気にしなくて良いんじゃないです?いくら可愛い後輩って言ったって所詮後輩なんですから。」
魔が刺した。言ってはいけない言葉だった。彼が「はぁ?」とでも言いたそうな言葉でこちらを向いている。
「ですから、(気さくな幽霊部員)さんも良い人だし、あんまり気にしなくて良いと思って。」
「俺はお前だから言ってんだよ」
先輩は僕をまっすぐ見て言う。もう間違わない、彼は後輩に対してとても紳士なだけなのだ。さらっと、さらっと返せば良い。
「ありがとうございます。気をつけますね」
うまく笑えているかわからない、こんな気遣いならない方が良かった。少しだけ涙が溜まったような気がしたため、目をすぐ背けた。見られたくない。心配されたくない。“僕のことが好きではない”先輩には。そっぽを向いていると、顎に手をかけられ、強制的に先輩と目を合わせる形になった。とっても気まずい。だが、先輩がわなわな震えているのが手から伝わった。
「お前のことが、好きだって言ってんの。」
僕は急な告白に戸惑ってしまった。確かに、自分のことが好きなのではと思っていた時期はあった。しかし、彼は他の方と付き合っているはずなのだ。自分のことが好きなんてことは、ないはずなのだ。
「本当に言ってるんですか。」
「嘘だとでも思ってるんか。」
ただ確認したかっただけなのに、喧嘩ごしで、しかも、質問で返してきた。いつもの好青年な先輩と違い、少し焦っているような、余裕のない先輩がとても可愛く見えた。僕ははにかんで、僕も好きですよ、なんて返したら、顔を真っ赤にして手で目を隠した。その行動も愛おしくて、後ろに輝く流星群に気づかないほど夢中になった。
***
結局のところ、気さくな幽霊部員の彼女が見た、先輩の隣にいた女の人は先輩の妹さんであったようだ。誤解がとけた後は先輩が幽霊部員の彼女を叱っていた。自分にちゃんと確認を取れ、と。それからと言うものの、成り行きではあるが、好き同士。僕らは公にせず付き合っているという一応恋人の関係を築いている。多分、空気を感じとっている人もいるが。デートに行ったり、観測を一緒にしたり、時には授業の復習に付き合ってもらったり。なんだかんだで、楽しい日々を送っている。彼が言うには初対面はあの日ではないらしい。教えてほしいと言っても、内緒だと返されるのでいつか聞きたいと思いながら一緒に時を重ねている。
短編小説集 好《HAO》4.「星を辿って」を読んでくださりありがとうございます。
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お時間ある方はぜひ書いていただけますと幸いです。
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