2. 君のこと
「君のこと」を手に取ってくださりありがとうございます。
こちら、作者の卒業制作作品となっております。
短編小説で全5作品で一つの作品となっており、こちらの作品は「だけど、」というものになっております。
読了致しましたら、感想をいただけますと幸いです。
そちらの感想は卒業制作の報告書内で感想例として提示させていただく場合がございます。
おい、コップ。牛乳飲んだんだろ。水つけとけって。何回行ったらわかるんだよ。
ごめんって。つぎちゃんとするー!
何気ない会話。
ゆるゆるとしたキャッチボール。
カーテンの空いた窓から光が注がれる。
そばにあるのは花瓶に生けられた名前も知らない生花。
外は春になりかけの冬。 晴れ模様。
休日。なんてことない。 普通の日。
彼氏と彼女の、ほのぼのとした日常。
彼女が素足でペタペタと、フローリングの床を歩く。
顔を洗ってからつけたままのヘアバンドは最近人気のキャラクターのものだ。
たくさん寝たけど寝たりない彼女はそのままソファに回転をかけてダイブする。
キッチンでマグカップを洗っている彼氏が何やってんの、と笑う。
それだけで、彼女は癒された。
昨日友人にキツく言いすぎたかも。と、凹む。
外出時に偶然出会った友人と近況報告をした際に、ちょっと踏み込みすぎてしまったのだ。
相手のことを思ってだとしても、余計なお世話だったかも、なんて考えてしまう。
少しでも気を紛らわそうとソファで仰向けになって足をバタバタさせる。
その辺にあったクッションをとって、顔を埋めた。
洗い物を終えた彼氏が彼女のもとにやってくる。
頭を撫でて、ソファを背もたれにして床に座る。
彼女の方に向いて、彼氏は額にキスをしようと試みた。
顔を近くへ持っていく。
突如、彼女が あ、テレビつけてー! と口を開く。
キスができなかった腹いせに彼氏はデコピンをかまして、
テレビリモコンをとってお昼時のバラエティ番組をつける。
少し味噌の匂いがした気がした。
最近よく見かけるお笑い芸人が体を張って激辛グルメを食べていた。
二人でのんびり。休日は。
二人でテキパキ。平日は。
お互い補い合って、隣にいるのが当たり前で、必要不可欠で、好きなものはなんでも知っている。
おやつの時間になったら、何か小腹を満たしたい彼女がソファを離れてキッチンへ行く。
彼氏に聞くわけでもなく、自分用のチョコクッキーとは別に、
コンソメ味のポテトチップスをお皿についで持っていく。
はい。 と渡すと
さーんきゅ。 と返ってくる。
彼女は彼氏の隣に座り二人で箸を使いながら、ゆるゆる食べる。
時にはお互いのおやつを奪いながら。
なぁ、来週から前見た映画の続編やるって見に行こ ってクッキーを頬張るリスにいうと
いいよ、いついく? と返ってきた。
スマホを見せながら、予定を決めお互いにスケジュールに書き込む。
いつになっても恋人とのデートの予定は楽しみだと彼氏は思う。
暖房がうっすらとついた部屋でお互いに気の向くままに過ごす。
彼女の首筋がヘアバンドでまとめられて耳元が見えるようになっている。
そのシルエットが綺麗だなと思いつつ、彼氏は彼女の腰に手をまわす。
何見てんの。 と彼女の頬に自分の頬を当てながら、スマホを覗き込む。
え
彼女が自分の胸元にスマホを引き寄せた。
寄せた頬も離して、掴まれた腰から手を引き剥がした。どうしても見せたくないと焦ったのが彼氏にもバレバレだった。
彼氏も一緒に動揺してしまった。
雲が出てきて電気をつけていない部屋は、夕方にしては暗くなっていた。
彼氏にとって見たこともない反応、見たこともない視線を彼女は向ける。
ごめん、見た…? と覗き込むようにして彼氏に言う。
視界に入っただけで文字を認識していない彼は、真意の知りたくて
見てないけど、なにかあった?話せるなら教えて。 と返す。
彼女は口をつぐんだ。が、次第に言葉を紡ぎ始めた。
私ね、こう、君のことは恋愛的に好きなんだ。
好きなんだけど、性的接触が嫌というか、嫌いというか。
したくないの。絶対。で、今までもずっと避けてきたの。君とも。
不自然だった時もあったかもだけど。それは、ごめん。で、こういう気持ちを持つのが自分だけじゃないことを最近知って。
今までは知らなかったから、なんとか、頑張って避けてきたって感じで…でも、黙ってたかったわけじゃなくて!それだけはわかって欲しい。
“アセクシュアル”っていうんだって。その、そういうのをしたくない、人。君だから、嫌とかじゃなくて、誰であっても嫌なの。ごめん。もし、さ、そういうことがしたいっていう気持ちがあるなら…………………本当は嫌だけど、
別れることになるのかな…?
彼女は潤んだ瞳で彼氏を見た。雨粒が窓に当たる音がし始めた。
彼氏は彼女の嫌いなものを知らなかったが、
“嫌いである”と理解し、
自己を抑制し、
彼氏のままでいることができるのであろうか。
短編小説集 好《HAO》2.「君のこと」を読んでくださりありがとうございます。
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