第十七話 地下都市と唯一の希望
暗がりの中で唯一の一縷の生命線を頼りにした壁であったが、その縋りを容赦無く掌を傷塗れにし、微かな淡い希望という名の灯火へと向かってゆく。
それはまるで先代が閉ざされた未来を欺くかんと映し出したかのような幻覚でさえも遥かに程遠く、一歩、一歩と慎重に音を立てて歩みを進めていく。
そして、幾千万年の歳月を掛けるように思われた道行きはようやっと辿り着き、遂に邂逅を遂げる。
急に天から眩い光が降り注ぐ元へ視界が開けて。
「え?」
地下に広がる都市にのさばったオーガの群れに。
煌びやかに喧騒賑わす大広間の吹き抜け2階から、
「あ?」
早速、正に鼠色に輝く金棒を背負いし、鬼面嚇人の如く面差しに鬼気迫る形相を浮かべた青年が睨む。
「おいおい、人じゃねぇか? あれ?」
「あぁ、そうだ、そうだ……遂に見つかった!」
大広間を漂わせていた微笑ましく華やいだ雰囲気は緩やかに方々へと行き交っていた視線と飛び交う声の数々が一点へと注がれていくとともに次第に、皮膚を突き刺すような空気へと移り変わっていく。
「ど、どうも」直様、踵を返して歩みを返さんとするも、「待て、何処へ行く気だ?」却って、裏目に。
「ぼ、僕は……」
すかさず鷲掴みにした角ばった小さな肩と掌との間に骨を砕くような鈍い軋みを上げる音が響き渡り、瞬く間に逃げ道を塞いでゆく十人十色なるオーガ。
「で、ですよね、ははは」深々とため息を漏らし、仄暗さと埃臭さが絶えず襲う、牢獄に閉ざされた。
「ハァ……」
最早、蹲って項垂れる先代に打つ手なし。かのように思われた局面に思わぬ布石が待ち構えていた。
「ほんと、馬鹿ね。アンタ」
「……?」諦め半分の惰性の極めて細めた目で扉の前から突き立てられた舌剣とは裏腹に、柔く焔のように暖かな声色に包まれた少女へ視線を泳がせた。
「誰? 君」
「そうね、だったら教えてあげる代わりに外の状況を教えなさい」
「ちょっと割に合わないような気がするんだけど」
「えっ、だ、だったら、毎日三食も付けるわよ!」
「どうせ、喰われる前に太らせるつもりでしょ」
「誰がアンタなんか食べるのよ!」
「でも、もう良いよ。どうせ、此処からは出してくれないんでしょ」
「ハァァッッ……! よりによって何でこんな奴が落ちてきたのかしら、全くもう! わかったわよ。上の人たちにもちゃんと掛け合ってあげる! だから、教えなさいよ! 早く!」
「確実性が……」
魔物見物園で眠る仔の檻を揺らす稚児の癇癪の如く囂々たる響きを立てて、平常心をぶち壊して怒りを露わにする少女が華奢な全貌と整った顔立ちでも一際目立った淡く透き通った蒼き瞳に目を向ける。
「ッッ……‼︎」
燃え盛っていても、淀みに変わることはなかった。
「解った、じゃあ教えるよ」
「ホント⁉︎」沈み続ける先代の前面に押し出されたのは、屈託のない満面の笑みを浮かべる姿であった。
「先ず、出してくれないかな」
「うん、わかった! ちょっと待ってて!」
輝しく心躍らす少女は大慌てで駆け出していった。
だが、まるで地獄の淵に立たされたような牛歩たる足取りで先代をも凌駕するオーラを放ち、泥濘に嵌ったかの如く手ぶらで舞い戻ってきてしまった。
「鍵は魔法で開けるつもりなの?」
「ごめんなさい、駄目だった」
「だと思ったよ、僕はもう寝るね」
「そ、そんな……」
「君はどうしてそこまでして体を張っているの?」
「だって、みんなの役に立ちたくて」
「そっか、じゃあ精々、頑張ってね」
思わず目頭を熱くさせる想いを粉々に打ち砕き、あっさりと冷然なる地べたに横たわってしまった。
遂に真の姿のご登場か。
「そ、そんな」
と、早合点したのも束の間、先代は徐に一瞥する。
「どうしても役に立ちたいなら、一つだけ方法がある」