第十五話 国民と勇者の相違
「それで、どう解決してくれるんだ? オリケーさんよ」
「まだ席にも付いてもないのに、忙しないわね」
「どうも有難う御座います」オリケーが微笑む店員から様々な一人一口程度の食べ物を受け取る傍ら、投げ掛けられた疑問を軽々といなすように告げる。
「さぁ、詳しいことは食べながら話しましょう」
「チッ。あぁ、そうだな」
「キッ‼︎」またしても拳を握りしめつつ、餐談場の大広間のテーブル席に向かい合わせで腰を下ろした。
「さぁ、どうぞ。お好きなのをお食べください」
「先ずはこの大喰らいの疑問からだ」と爪楊枝で肉の包み焼きを突く先代に指を差し、視線が集まる。
「えぇ、何なりとお尋ね下さい」
「現在、この世界で輩出された勇者の数は八名に及ぶが、その大半が此処らの銅像として建てられていない。これは何か意図があるようにも思えるが?」
「そ、そう聞きたかった訳じゃないんだけど……」
「お前は黙って、飯でも食ってろ」
「えぇ、そんなぁ」当人なのに何故か蚊帳の外に。
「とても簡単な話です。世界各国、主に東西南北の四大国から輩出される勇者は其々の祖国に全てを捧げるものとされ、同様に名を上げるだけで国益を齎すとされるその権利も国の財産という事になります」
「ほう、だから――――像は東出身の勇者のみか」
「えぇ、左様に」
「それは勇者だけなのか?」
「と言うと?」
「本来、そういったものは組織で進むものだろう」
「流石は勇者の雛ですね、その通りです。近年、候補筆頭から勇者輩出を失敗した国が一精鋭を新たに導入する事が可決段階へと移行し始めているんです」
「負け犬の遠吠えか」
「何ですって!」
机を激しく叩いて、派手な音とともに立ち上がる。
「座りなさい、食事の場ですよ」
「ですが、奴はこの国と王に対する大逆不敬ですよッ!」
「彼はまだ召喚から間も無く、この世界と国の現状と環境に適応出来ていないのでしょう。そのように事を荒立てていては、私の弟子は務まりませんよ」
「はい」
「以後、気を付けなさい」
「顧みます……」
不条理に肉巻きを頬張る先代に、陰りに覆われながら俯く面構えからギロッと鋭い眼光を垣間見せる。
「ん? 食べる?」そう、神経を逆撫でされたアルベリカの八つ当たりを魚と云う好意で示し返した。
「別に要らないわよ」
「アルベリカ」オリケーは優しく微笑みを見せた。
「はい……どうも、――――フンッ!」
慎ましやかとは呼べぬ心のまるで籠らぬ礼をぶつけ、畳み掛けるようにそっぽ向く姿で殴りつけた。
「まだ質問は終わってないぞ」
「えぇ、本題に戻りましょう」
「先から度々、話題に上がってくる勇者輩出の本質と本性についてだ。この大国の俺たちよりも扱いが酷いのも、勇者輩出と深い関わりがあるんだろう」
「えぇ、勇者という存在が生まれない限り、大国には意義が見失われると同時に諸国からの支持が諸国同士へと向き、必然的に貧困に強いられるんです」
「そうか……だから、禁忌に手を出したんだな」
その一言に先代は口に運ばんとする手を止めた。
「え?」
「……」
突然、先行きの見えぬ重苦しき沈黙が訪れた。
「あれは禁忌なのだろう?」
「何故、そう思われるのですか?」
「様々な場所を出歩ていたが、必ず視線を向けられる」
「それは」
友人は食い気味に言葉を被せ「服装や財布などという瑣末な理由ではなく、肌と人種にあるだろう」
「『肌と人種?』」
「あぁ、俺たちのような人間が珍しいんだろうな。肌と人種が必ずしもこの国出身の決定打とは限らないが、決定的な確信は先の此奴の行動にあると思われる」
「か、勝手な憶測で物を言わなでいよ!」
「それを言うのは全てにその都合のいいことしか聞き取れない鼓膜に届けてからにしろ」
「な、何ですって!」
「アルベリカ――静かにしなさい」冷徹に釘を刺す。
「っ、はい」それに怖気付き、再び腰を下ろした。
「お前達と出会う数分前、俺たち基、此奴はある占い師の店に立ち寄っていたんだが、其処で何が起こったかは定かではないが、入る前と出てからの魔力総量に大きな差を感じた」
「っ……⁉︎」先代は疑う余地もなく度肝を抜かれる。
「それに陽に全く当たらねぇ不健康で肌は色白。奇しくも、お前たち現地人と似通った点が多くてな」
「……」
「どうなんだ? 早く疑問を解消してくれないか」
「えぇ、その通りです」
「やはりな」
「ですが、」
「あ?」
「我々は貴方方の召喚を望んでいた訳ではありません」
「は?」
「国自体は危機的状況に陥っていますが、今こそこの国の民が団結し、立ち上がろうとする時、だっ」
「戯言を抜かすな! あの光景とこの現状が正に貧困に喘ぐ貴様ら現地人が産んだ結果だろうがッ!」
「……返す言葉もありません」そう初めて俯いた。
「ふざけるなよ、俺たちを湯水の如く溢れ出る奴隷のように平然と呼び出しておいて、我々は被害者だと? 綺麗事も大概にしろ! このファシストが‼︎」
最後の言葉が一瞬にして辺り一帯を覆い尽くし、その場にいる者たちに戦慄が走った。
「…………! っ、チッ」
ようやっと湧き上がる怒りも収まり、落ち着きを取り戻したのか、現状を鳥瞰した友人は自我を取り戻し、焦りを孕みつつも先代の衣服を力強く摘み、「行くぞ」そう食事の最中に引っ張り上げていってしまった。
そんな最中にも誰一人としてその後を追うことはなかった。




