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第十三話 謎の占い師

 あの異界からの来訪を想起させるかの如く理不尽に塗れた、たった一体の怪物に為す術無く、次の夜が明けても先代たちに訓練を強いる事は無かった。


 それどころか、僅かな自由時間さえ与える程に。


「いやぁーラッキーだぜ」

「あのなぁ、また一人死んだんだぞ、笑えねえよ」

「誰も笑ってなんて無いだろ」

「それにしても京介、お前、相当運が良かったな」

「え?」

「あの場に居たんだろ?」

「うん、まぁね」


 見慣れぬメンツと肩を並べて、街道を進みゆく。それは誰かの意志で道標が示される訳でもなく、ぶらぶらと淡々と言葉を交わしながら至って平和に。


「にしてもよ、召喚者は家の生徒だったんだよな」

「そうだけど」

「それも此処らの無駄に偉そうな騎士様を瞬殺出来るくらいの奴をさ」

「うん、でもよくわからないひ――」

「だったらよ! 俺たちでも勝てるんじゃねぇの⁉︎」食い気味に皆の前に嬉々として道を遮る壁として、両手を広々と暴君たる振る舞いで伸ばし、頻りに背後から向けられた好意とは思えぬ視線を感じ取る、先代が半端に手を差し伸べようとする最中にも、少年は孕み落ちた二心をこれ見よがしに突きつけた。


 だが、


「何言ってんだ」

「そーだよ。ばーか。そんな上手い話あるかよ」

「俺たちは召喚されたんだぞ、まだ体にもよくわからない呪いみたいのが掛かってるしよぉ! クソが‼︎」

「おい、落ち着け」

「まぁ、まぁ!」

 癇癪を起こす稚児が募りに募った憤りを撒き散らすあられもない姿を道行く人から閉ざすように周囲を囲い、ただ呆然と傍観していた先代は問われる。


「なぁ、お前はどうなんだよ」


「え?」


 同様に漂わされた怒気に当てられた生徒は睨む。


「間近で見ていたんだろ? 奴等の死ぬ瞬間をよ」


「っ、ぼ、僕は」目を逸らし、言葉を詰まらせる。

舞台の正念場から身を引くように後ずさりながら。


 然れど、ステータスが逃げの一手を食い止める。


【アイテムの一つが貴方の感情に反応しました。神社の御守り。効果、精神安定と浄化×勇気の後押し】


「っ!」全ての抜け道は完全なる八方塞がりへと。


 そして、最早潔く、腹を括って、緩慢に振り返る。


 欺瞞と理想に満ちたこの世に疑いを向ける眼に。


「多分、出来るんじゃないかな」微かに燃ゆる希望を直視してしまった先代は口を滑らせてしまった。


 きっと、悦びを全身で表さんとし、片手を握りしめて天高く掲げる。その期待を裏切るのを恐れて。


「ありがと、ほんとありがとな。京介」


「うん、別に僕は、何もしていないから」


 屈託のない笑みと言葉を告げる彼の前では、ただ只管に頬を僅かに歪めることしか許されなかった。


「じゃ、其々別行動にしようぜ!」


「ぉい! 離せよ!」

「あぁ! そうだな! じゃ、俺は」出鱈目に繰り出した右の一打が、無防備なる下顎に喰らわせる。

「痛っ……! 此奴を連れてくから」

「お、俺もそう」ガラ空きの丹田に肘蹴りが直撃。「させてもらうわ」それはまるで活きの良い大物魚を必死に取り押さえる漁師の姿さながらであった。


「京介、お前はどうする」


 見えざる手に差し伸べられた、もう一つの道標。


 今度こそ、揺らぐ心から何とか心情を吐露する。


「僕は他にやることあるんだ、ごめん」


「そうか。あんまり奥に行って、迷子になるなよ」


「うん」


「よし、じゃー散開!」


 望まぬ形で初体験を遂げたであろう様々な際者を寄せ付ける珍味に仄かなながらも空虚な胃を鷲掴みにする肉に蕩ける脂で惑わせる魚屋が並ぶ先、緩む財布の紐を何とか締めつつも吐き出させんとする、


「ん?」

二流止まりの防具屋に錆の目立つも一桁台の武器屋そして、如何にも詐欺師を匂わせつつも、ただならぬ雰囲気を色を持って外まで醸し出した摩訶不思議な占い師の間へ手招かれ、お人好しを全開にした先代は導かれるまま、中へと入っていってしまった。


 それは大地から忍び寄っていた人影を異様なオーラを、あの錫杖の放つ魔法を施した布で閉ざして。


「あ、あの、僕何も買えません!」


「お前さん、この世界に召喚された勇者だろう?」


「何故、それを」


「それはいい。それよりも中に眼鏡があるだろう」


「え?」


「形見の中にだ、早う出せ」


「は、はい」言われるがまま掌から忽然と現した。


「暫くの間、其処にでも座って、待っていな」


「は、はぁ……」警戒心がまるで無いのか、平然と用意されていた椅子に腰を下ろし、辺りを見回せば、錚々たる異様な陳腐グッズが勢揃いして、飾られていた。そして、それは「ん?」不意に覗き込んだ、地面にも魔力を常に供給する魔法陣を刻んで。


「出来たぞ」


「えっ、あっ、はい」意外にも時間は掛からなかった。


 際立つ皺と浮き彫りになった血管の掌から差し出されたのは、折れた耳掛け部分を透き通った真珠とは程遠い紛いの物のドス黒い紫紺の繋ぎにした物。


「これを僕に?」


「あぁ、さっさと受け取れ」


「でも、僕お金が」


「早く」


 渋々圧に気圧され、掴み取った。が、「……?」特にこれと言って何の変化も起こりはしなかった。やはり今流行りのペテン師お得意の押し売り詐欺のようだ。


 そう思った矢先、二度の流転を期して、裏切る。


【全体値のステータスが、爆発的に向上しました】


「こ、これは」


「ん? 誰じゃ、お前」先の人を睨み殺す眼光とは打って変わって、有象無象の色も無き双眸の老婆。


「あっ、いえ。失礼します」


「お、おい、待ちな。折角、立ち寄ったんだ。せめて何か買って」


「おい、何してんだ? こんなところで」馴染み深い友人があっさりと布の壁を突破し、覗き込んでいた。


「丁度、いいところに。あんたも何か買ってきな」


「あ? こんな腐り切った場所で金なんて使えるか」


「なんてこと言うんだい」


「おら、行くぞ」


「うん、じゃあ失礼します」


「お待ち! あたしゃこう見ても腕が立つんだよ。あんまり舐めるんじゃ無いよ、コラァ! 待てぇ‼︎」


 波の色と起伏の移り変わりが激しい老婆から逃れるように進みゆく友人の背に続くにつれ、次第にその怒号は薄れ消えてゆき、一瞥も終えて横に並ぶ。


「あんな場所で何してたんだ?」


「いや、ちょっと」


「変な奴だ。あまり変な場所には彷徨くなよ」


「うん、気を付けるよ」

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