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第十話 形見と肩身

「これが現実だ、受け入れろ」


 雑多な鼠らが徘徊する仄暗い牢獄に閉ざされた先代は、爪痕が哀調を帯びながらも淡々とした惰性の言葉を右から左に突き抜けながら聞き流していた。


「そういえばお前、先の行き過ぎた言動の際に、ナイフを召喚していたな。あれは意識しての事か?」


「いえ、偶然です」


「だろうな。……何故、振るわなかった?」


「そうするべきではないと思ったからです」


「懸命な判断だ。奇しくも騎士たちに見られていなかったからいいものの、もし明るみに出ていたら、厳罰だけでは済まされなかったぞ」


「そうですね」


「――そんなにも辛いか?」


「当たり前でしょう! 人が死んだんですよ!」


「なら」そう傍らの鉄格子に凭れ掛かっていた鎧の姿が前面に押し出され、緩慢に何かを差し出した。


「お前は生きなくてはならない。非業の死を遂げた者たちの為にも。こんな場所でいつまでも懺悔の思いを断ち切れずにいては、何も始まらないだろう」


 差し伸べられた拳に翳せば、そっと手渡される。


「っ!」


 それはこの世界には在らぬ代物の数々であった。


「これ、は……」


「死んだ者達が身に付けていた物の一部だ。特殊能力とやらで仕舞えるんだろう、お前が取っておけ」


「はぃはい。ありがとう、ありがとうございます‼︎」


 まるで赤子を抱きしめるように胸に押し付ける。


「でも、仕舞い方がわかりません」


「そうか。ならステータスオープンと言ってみろ」


「え? は、はい。す、ステータス、オープン」


【初めまして、京介。初ステータスを召喚します】


 ステータス一覧。

 HP : 234/765 MP : 3981/3981 TP : 1/1

 物理攻撃力 : 58 魔法攻撃力 : 31

 総合攻撃力 : 64

 物理防御力 : 20 魔法防御力 : 8

 総合防御力 : 28

 俊敏さ : 9

 耐性 : 無し

 賢さ : 45

 運の良さ : 30

 特殊能力 : アサシン専用スキル 蜃気楼×虚空


【以降もそのようにお呼び掛け下さい、では――】


 謎の凛とした死に損ないの声色に加え、蒼き澄んだ薄氷のような表記が眼前に映し出され、紙越しでしか見慣れぬ言葉の数々が頭を駆け抜けていった。


「我々には見えないが、それが今のお前の数値だ」


「そう、なんですね」


「能力は?」さらっと問い質せば、


「アサシンです」そうあっさりと答えてしまった。


「そうか、いい能力だ」と思わぬ形で褒められた。


「これが僕の力なんですね」


「あぁ、そうだ。さっさと仕舞っておけ」


「はい」


【掌の上の物を全てアイテムボックスに収納します。注意*アイテムは遮断魔道具も含めて無機物のみに限定されており、収納された物は全て其々が異なる魔力の消費によって現時間の状態に維持されます】


「……ぅゎぁ」


 その不意に漏れ出た心のうちに、目を凝らす鎧。


【アイテムを収納しました、運の良さが計15増えました】


「終わったな」


「はい」


「異邦人は居るか!」


「はい、此処に!」


「王からの召集が掛かった、回収する」


「ハッ! 錠を解きますので、お待ちを!」


「早くしろ!」


「はい!」


 爪痕は静寂極まる囚人部屋の一角に苦戦しているであろう無駄に延々と続く鈍い金属音が響き渡り、それは妙な間を生みつつも、無事に解き放たれた。


「よし、出ろ!」


「はい……あの、ありがとうござ――」

「私語を慎め異邦人‼︎ さっさと隊長の前に続け!」


 荒波さながらに理不尽な起伏によって、より一層先代に空を破らんばかりの怒号を飛ばし、谺する。


「は、はい」


 そう引き気味に道すがらに首を垂れて進みゆく。


 何一つ変わらぬ振る舞いを見せる騎士の後へと。

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