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第四話 席順の呪い

 幾人かが魔素の毒によって意識を失い始めた頃、漸く魔導士らの手で神眼の移植手術に取り掛かり、不運にも一番目の生徒は微かな痛みを和らげることさえままならない東大国の医療技術に苦しめられ、

「あぁっ‼︎ ぅぁっ……ッッ‼︎」


 建物越しでも鮮烈に鼓膜に響く悲痛の叫びを上げ、次なる不憫な犠牲者を酷く震え上がらせていた。


「おいおい、早速拷問かよ」


「違う」


「あ?」


 先代の傍らで泰然と手を拱く友人と異様なオーラを放つ槍を携えた一人の近衛兵が鋭い言葉を交わす。


「現在進行形で我々は貴様らがこの国の環境下に適応出来るよう、身体にある力を移植しているのだ」


「なら何故、今俺はお前と話せている? 当然、それはこの世界の翻訳機能も備わっているんだろう」


「こちら側とあちら側の召喚での時差が招いたほんの僅かな間に過ぎん。このままでは、いずれ貴様らは等しく魔素の毒によって死に至るだろう」


「ほう、それは助かる。願わくば、そのままあちら側とやらに返してもらえるとありがたいんだが?」


「それは許容出来んことだ。どうか、諦めてくれ」


「俺たちがどんな思いで‼︎」


「我々も今、危機的状況に瀕しているのだ」


「あぁっ⁉︎ 知るかぁ……!」


 次第にいきり立っていく友人が迫ろうと大きく一歩踏み出さんとする瞬間に、颯と腕に腕を絡ませ、同時に「よせ! 要らぬことまで教える必要ない」傍観していたもう一人の近衛兵によって阻まれた。


「では、これから先の貴様らに幸が在らんことを」


 そう言い、静かに過ぎ去っていった。


「……っチ! 離せ!」


 雑に腕を振り解き、鋭い眼光で先代を一瞥した。


「お前は良いのかよ これで」


「いい訳ないよ、でも今はこんなことやったって、無駄じゃないか」


「あぁ?」


「体力にだって限りがあるし、これから先、何があるかわからないんだから、もっと慎重行くべきだと思う」


「俺」

「たちも」


「それに賛成だ」

「それに賛成だ」


 一同が呼応する形の声のする方へ振り返った先、同じく不均衡な肩を並べる若き少年二人組がいた。


「……」

「……」


 双方、不思議そうに疑問を体現したマークを頭上に浮かべて小首を傾げ、純粋無垢な視線を交わした。


 そして、


「お前ら、誰だ?」


「っ、おい!」

「同じクラスだろうが!」


 大袈裟な悪寒の走るリアクション芸を披露し、二人は引き攣った苦笑を浮かべながら姿勢を立て直す。


「当たり前だろ」


「うん」


「一回しか言わねぇから、ちゃんと覚えろよ」

「俺たちの名前は――」


「出てきたぞ」


 だが、最悪のタイミングで最初の犠牲者が片眼を眼帯のように覆い隠しながら、片扉から出てきた。


 皆が一目散に人垣を生み出すほどに囲い込んで、直様、矢継ぎ早に質問攻めと同情の嵐に包まれた。


「大丈夫だった?」

「その眼、何かされたのか?」

「中で何があったんだ?」

「痛かったでしょ、声が此処まで響いてたよ」

「何か身体に変化は? 痛いとか身軽とか!」

「失敗したのか⁉︎」

「話せるだけで良いんだ、何か教えてくれ。頼む‼︎」「記憶は欠けてない⁉︎ 頭とか弄られてない?」

「おい! みんな! そんな一遍に言わなくても」


 そんな茫漠とした恐怖に駆り立てられて、怯える皆の中では無粋な一言に一同、水を打ったように静まり返り、妙な居心地の悪い雰囲気へと変貌した。


「何かあったら必ずいるよな、ああいう奴ってさ」

「あぁ、絶対というほどにな。仕切ろうとする勘違い野郎」


「……」


「どうしたの?」


「ただの勘違いだろうが、いや……あるいは――」


「何だよ?」

「教えろよ」


 音楽好きそうなリーダー気取りの生徒によって、初めの被害者は閑散とした先代たちの方へと蹌踉けながらも歩みを進めていき、友人が言葉を告げる。


「今、確か五番までが死んでたよな」


「うん、多分」


「恐らく、この世界やら国のシステム上は関係無いんだろうが、この世の神の悪戯とでも呼ぶべきか、このクラスは席順に死んでいくんじゃないか?」


「おい!」


 先代たちの元に空を劈くような怒号が飛ばされた。


「あ?」


 恐怖で面差しを黒き影に覆われた生徒によって、周囲に散漫に散らばった皆の視線が熱く注がれる。


「どうした? 慰めて欲しいのか?」


「ざけるな、ふざけんなよ!」


「今の言葉、訂正しろ!」


「聞こえてたのか、悪かったな」


「おい! 自分が後ろの方の席だからって、そんな縁起もないこと言ってんじゃねえぞ! テメェ!」


「あぁ、訂正するよ。多分気のせいだ」


「ハッ、あるいはテメェらから先に死ぬかもな!」


「あぁ、かもしれないな。だが、俺は生きて帰る。必ずな」


 神眼の激しい影響からか取り乱していた被害者は赤裸々に豪語した一言に気圧され、言葉を失った。


「ぁっ、ぅ……俺も悪かったよ、言い過ぎた」


「貴様らっ、何をやっている! 口を慎め!」


 酷く腹を立てた近衛兵が横暴な動作で露わにした怒りを撒き散らしながら被害者の元へと歩み寄り、そのまま抵抗も無く、何処かへ連行されていった。


「ま、否定はしないがな」


「……」


 だが、それからというもの、痛みで我を失う者はおろか、けたたましい悲鳴が轟くことは無かった。


 まだ完全なる麻酔が高価であるというのに……。

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