第七十話 世界の真実の断片
大賢者に似つかわしい濃い緑のローブを纏って木杖を携えた、まだそう歳も変わらぬ青年であった。
「英雄の子孫……」
「えぇ、そうなりますね」
「わ、我々を導いたのも、貴方なのでしょうか?」
「遠からず、そう受け取ってもらって構いません」
「で、でら、貴方が勇者にいえ、何故、四大国を。ステータスとは一体、どういうことでしょうか‼︎」
「慌てなくとも、ちゃんと順を追って説明致しますので、どうか落ち着いてください」
「は、はい……」
いつになく息を荒荒と取り乱してしまっていた。
「そうですね、何から話すのが正しいのか解りませんが、初めに訊かれた私が勇者にならなかった訳。先ずは其処から話させていただきますね」
「はい」
完全に会話の蚊帳の外となった10代目たち一同に一切目もくれず、決して瞬くことなく注視し続けた。
「私はフローズ・クライスター基、曽祖父の作り上げた世界を壊さぬよう、最善を尽くしてきました」
「……?」
武者震いか、子孫は微かに指先を震わせていた。
「ですが、私にあの業をなし得る勇気が無かった」
業……。
「英雄として誉高き死を成し遂げる決心よりも、永遠に続く輪廻の輪に囚われる事を恐れてしまった」
「輪廻」
噂には聞いていたが、やはり実在するのか。
「それでも、人類の期待を一心に背負う身として、最期まで崩壊寸前の世界の為に尽くしてきました」
……。
「混沌渦巻く世界全土は4代目の勇者が、世界に公表されていない黄金教の秘匿と魔力供給による維持が役割でしたが、器官が限界を迎えて、此処で……」
「全体のうち何割ほどを?」
「お恥ずかしいことに七割程度しか」
「流石です。黄金卿はその身を削いでの命の魔力供給と聞いたことがあります、さぞお辛かったでしょう」
「いいえ。地上で飢饉と病に喘ぐ彼等と、いつ終わりが訪れるやも知れぬ恐怖に怯えて、夜もまともに寝れない住人に比べれば、私など到底及びません」
「そう、ですか」
「あぁ、話が逸れてしまいましたね。第二に何故、フローズ様は大国を創り上げて下さったのか、それはとても簡単な話で、東西南北の諸国争いを防ぐ為、引いては世界大戦の抑止力としての世界の平和維持と別世界からの侵入者の対処を即座に行う二つの意味があります。その初代王をフローズ様の直々の配下であった四兄弟に一任され、いつしかそれらは、兄弟国と呼ばれるようになったのです」
「僅か100年余りで全てを創り上げたと歴史に綴られておりますが、その後に勇者輩出の制度を……?」
「えぇ、最期まで皆に見せられなかったこと、人の尊厳を踏み躙る制度を生み出してしまったことを、命が尽きるまで嘆いておられたと聞いております」
「そうだったのですか……」
「別世界というのは我々のような者でしょうか?」
「……」
「いえ、それ――」
「話を遮ってしまい申し訳ありません」そう亡霊があまつさえマツ様に言葉を被せ、心苦しそうに告げる。「そろそろあの方も痺れを切らしているかと」
お互いに足が透けているが、人間らしく瞠目する。
「そうでしたね。その件に加え、ステータスに関しては聞きたいのでしたら、彼に聞いた方が早いかと思われます」
「彼?」
「どうぞ、こちらへ。お待たせしてしまった申し訳ありません」
刹那、玉座の間から忽然と現れし古の日本人……?
「貴方は、一体――」
「貴様ら異邦人をこの世に呼び出したのは、私だ」
邂逅一番、思いがけぬ言葉が降ってきた。