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第六十四話 国枝京介の本領発揮

「その道もあったんですがね」


「転職する気は無いのか?」


「この仕事、割と好きなんです」


「それは残念だ。筋は良いのんだがな、無論、悪い意味での話だが」


「勇者とは時に非情でなくてはならないですから」


「あぁ、そうだな」


「……」


 ついでに分身を霧散していた所為で劣勢に……。


「正直言って、勝てる気がしないな」


「えぇ。ですが、とても話し合いが通用する相手ではありませんから、殺る他に手は無いでしょうね」


「そうだな」


 徐に冷えた氷剣を構え、慎重に躙り寄っていく。


「それにしても、便利な魔法ですね」


 その様を、10代目は物欲しそうに一瞥していた。


「戦いに集中しろ、お前は特に柔軟性に欠けるているからな。ほんの僅かに一手のズレが生じれれば、全てが崩れ去るぞ」


「はい」


 そして、束の間の休憩タイムは一瞬で終わって、再び奴等が脱兎の如く目にも留まらぬ速さで迫り来る。


 10代目もすかさず呼応し、微かな淡い紫紺を帯びた一条の光芒を纏わせながら飛び出したのだが――俺は不思議とその場から一切、踏み出せなかった。


「っ⁉︎」


 眼下。


 地面から装束を纏った腕だけがせり出して、俺の足首を離さんと言わんばかりに鷲掴みにしていた。


「き、気持ち悪りぃ……」


 まごう事なき心の底から零れ出た一言であった。


 次第に顔も大地から覗かせ、全貌を露わにした。


「貴方はまだ、覚悟が決まっていないようですね」


「……?」


「どうしても自らで出来ないのなら、私が痛みをもってお伝えしましょう。何度、殺してしまっても」


 咄嗟に震わす手が大振りを繰り出すも奴は平然とすり抜けていき、眼前へとただの掌なのにどうしようもなく不気味なそれを突き出し、胸部に触れる。


 完全に視界から切れていたもう一方の腕が、まるで押し込めるように丹田の奥へ奥へと沈ませていく。


 吐き気を催す気持ちの悪い感触が広がっていき、次第に鎧を切り裂いて縁から傷口が開かれていく。


「あっ、ぁぁ……っっ!」


「せ、先代」


 刃を交わす真っ只中にこちらに振り返ってくれた10代目もその僅かな隙に御老人に胸を切り裂かれ、真っ赤な鮮血を血反吐ともに派手に噴き出した。


「じゅ、10代目!」


「宜しいのですか?」


「……えっ?」


 冷徹な声色を発する口越しに純白の布を靡かせ、まるで失望と悲哀に満ちた無味無臭のガラス玉のような淀む瞳が突き刺しているような感覚を覚えた。


「最後まで何も捨てずに全てが得られると?」


「…………」


「本物の勇者は――()()()()()()


 あぁ、そうだ。俺は所詮、恵まれた天賦の才が備わった肉体に依存する寄生虫に過ぎないのだろう。


 この記憶でさえいつから自分のかさえ、わからない。本当に俺は初めから存在したのだろうか……。


 いいや、違うよ。


 あぁ、また、お前か。


 ある日を境に君は突然、此処へやって来たんだ。それも過去に過ちを犯してしまった僕のせいでね。


 何故、お前は自由を奪わないんだ?


 そうだね、ずっと帰りたいと思っていたけれど、ずっと辛い思いをして生きてきた君が、ようやっと小さな村で皆んなと一緒に幸せな姿を見ていたら、どうしてか、そんな気が自然と消えていったんだ。


 それは、きっと風化していったんだろう。


 かもしれないな。


 お前は薄情な奴だよ。


 うん、そうに違いない。


 最悪で、最低で……。


 うん。


 誰も愛せはしない。


 ――でも、みんなは僕を愛してくれたんだ。


 だったら、その人たちに恩返しをしたいと思わないのか。


 もうそれも叶いそうにない。


 なら、乗っ取ってくれ。


 え?


 お前なら勝てるんだろう?


 ……。


 ……頼む、どうか俺の代わりに戦ってくれ、もうこの体を自由にしていいから。だから、お願いだ。


 ただ何処もかしこも真っ暗闇たる地面に頭を擦り付けて、朧げで蜃気楼かの如く京介の足元に跪く。


 その言葉に偽りは無いんだね?


 その声はまるで死人のように冷たくて、誰よりも優しかった。

 

 ぁぁ、あぁ‼︎


 じゃあ――――おやすみ、レグルス。


 真っ暗闇へと誘われるままに眠りに落ちていき、五感に視界、意識さえふっつりと途切れていった。


 おやすみなさい。


 そして、おはよう。


 徐に瞼を開けば、また最悪な光景が広がっていた。


「貴方は初めましてが正しいかな? 信奉者さん」


「えぇ、えぇ! 9代目、リア・イースト様!」


「じゃあその手は退けてもらえるかな?」


「どうやら無事に魂の混濁が消えましたね。無論、私を殺したければ力強くで願います、勇者様――」


「そんな物騒なことしないよ、僕はもう二度とね」


「そんな甘さでは我々には勝てないでしょう」


「さぁ」邪魔な腕を懐かしの【肉体のリミッターを解除します、肉体の限界まで残り28秒】で力一杯、握りしめてやったら、あっさりと潰れてしまった。


「あぁ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」


「いえ、痛みなどありませんのでお気になさらず」


「そうか、それは良かった。じゃあ――ちょっとくらい乱暴したって構わないよね?」


「えぇ、一向に」


【シーフ専用スキル TP : 1を消費 スキル奪取発動】


 神の十字架の模倣にしては随分と小さな武器。大地をも切り裂く、真っ白と漆黒の織り混ざりし鮮血の如く真っ赤な十字架を表面の中心に刻んでいた。


 丁度、僕と同じくらいの大きさで抱きしめるには都合が良く、雑に扱ってしまえば、こちらが振り回されてしまいそうなくらいに研ぎ澄まされた両刃。


 これを武器というにはあまりにも乱暴過ぎるな。


「此処にドラキュラが居たら大変なことになってるよ、きっと」


「えぇ、そうですね」

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