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第六話 スタートライン

【邂逅前の好敵手の大凡の動きと私の見解】


【アスター村は東から北へと繋がる、ヒノース大陸の丁度、中間地点に当たり、シオンは一度、大陸を渡った後、情報収集の為、海岸の酒場などで聞き回っていたと思われます】

「どちらへ?」


「俺は一度戻って、装備を整えてくる。それにまだちゃんとみんなに挨拶済ませてないからな。お前は先に入り口で待っていてくれ」


「承知致しました。では、……また後ほど」


「あぁ、じゃあな」


 願わくば、このまま消えてくれると助かるんだが、現実はそうもいかないんだろう。


 俺は妙に閑散とした民家の奥へと進んでいき、ようやっと水縹を帯びた空模様が広がり始めて朝を迎えた動物ばかりが、今日の幕開けを皆に向けて騒々しく告げていたが、未だに誰一人として挨拶を交わしてなどいない。


 あまつさえほんの微かな扉や窓の開閉音に加えて朝っぱらからの仲睦まじい夫婦喧嘩や、道行く危うい御老人や心躍らせる子供たちの影さえも見当たらない。アザミさんは一体、何処までみんなを連れて行ったのだろうか。


 俺は周囲を隈なく見回しながらも、決して歩みを止める事なく、帰路を辿っていった。


「結局、此処まで誰にも出会わなかったな」


 。


 大地に肌を突き刺すような魔力を感じる。欠片にも遠く及ばぬ、途絶えそうな火種だ。


 ……特に対処すべき程でも無さそうだな。


 そう思いを馳せながら彩色の剥がれ落ちた扉に手を触れる。よくアザミさんが建て付けの悪さを小言で漏らし、ミラさんやマリが開けるのに苦労していたっけな。そんなたわいもない懐かしい思い出に耽りながら、難なく堅固な扉を開き、真っ暗闇へと進んでいく。


 幾度となく使い古した様々な部屋を瞼の裏に焼き付けていき、寝室の四隅に隠された箱に辿り着いてしまう。久しくパンドラの箱さながらに閉ざされたままであったが、御二人の陰ながらの努力の賜物で埃一つさえ被っておらず、そう苦労せずに蓋を開けてしまった。


 一番上の汚れた巾着袋を手に取り、再びパンドラの箱には長い眠りについてもらった。


 もうこんな物、ガラクタにもならないとばかり思っていたが、まさかこんな形で使う日が来てしまうとは、思いもよらなかったな。


 残しておいて、正解だった。


 ガチャガチャと幾つもの高価であろう金属片らが擦れ合い、ぶつかり合う煩わしい音をさっさと消さんと、空欄の少なきアイテムボックスへと仕舞い込んで、周囲に挙動不審に視線を移ろわせながら、その場を後にした。


 そろそろ起爆札の山も何とかしないとな。


 ……。


 ん?


 身に覚えなく立て掛けられた、剣。其処には忠誠心で閃めく勲章がぶら下がり、閉ざされた鞘から溢れ出る刃も同様の姿であった。


 おまけに古きマリが中央に据えられた家族写真の裏側には、厳然とした隊服を身に纏った集合写真が隠されていた。これは、確か。


「空挺騎士団。か? だったら」


 まだ生気に満ち溢れた兵士らを目で追い、耄碌翁の面影も無き、証人の姿が。そして、その隣には「ぁあ、アザミさん‼︎ っ、か?」


 こんなサブイべでまさかの発見とは。「虹龍の唯一の生存者と聞いていたが、まさか。いや、こんなことしている場合じゃないな!」


 俺は我が家を出て、無意識に振り返った。

それは寂しからか、突き刺された視線にか、それを知るのに僅かな時間も要さなかった。


 白馬に跨がる、純白のローブを纏った者。


「……」

男か女か、目的さえも定かでなかったが、その全貌がこの村の住民では無いという事実に些かの躊躇も持たなかったが、一度、此方と視線がぶつかり合えば、嘶きを上げずに遁走さながら丘の向こうへと姿を消していった。


 この地の雪解けも知らない余所者か。


「……」新手か、否か。一刹那に錆びて腐った脳裏に煩慮の念を巡らせたのは、もう既にその影が跡形もなく失われてからであった。


 恐らく、先程の奴ではないようだ。何処からともなく現れた白馬の用意と、突然の劇的な肉体的成長を遂げていなければの話だが。


 ご丁寧に姿を現してくれた用意周到で臆病者との謎の邂逅を果たした俺は、現状に狐疑逡巡しつつも、切望する退路が完全に断たれてしまったせいで、道は一つしかなかった。


「行くか」


 村の人との別れを惜しむことさえ許されず、泣く泣く彼奴の元へと牛歩で進んでいった。


 ん?


 けれど、そんな俺の儚い希望が届いたのか、村の出口には多くの人でごった返していた。


「みなさん、此処にいたんですね…………」


「無事に勇者と和解できたようだな」


「えぇ、まぁ、何とかやっていけそうです」


 アザミさんはただ俺の眼を凝視すると、頭のてっぺんから足の爪先まで舐め回すことなく普段より一層荘厳なる面持ちを浮かべて、踏み出せずにいたマリの背をそっと押した。


「行くのね……」


「あぁ、ごめん」


「それがきっと正しい道なんだから、謝らないでよ」


 今にも涙が溢れ落ちてしまいそうでいて、耐え難い苦痛に顔を歪めた影に覆われた表情を隠すように、側に来ても俯いたままのマリの顔をそっと上げる。


「泣かないで、大丈夫だよ。必ず帰ってくるから」


「えぇ、そうよね。きっと」


「……」


 マリは背中に腕を絡ませんと飛び込んだ。

突然の抱擁に構えずにいた俺は両手を空っぽにしたまま、耳元で囁く言葉に耳を傾けた。


「子どもは三人よ、絶対にね」


「っ‼︎」ガラクタのように首をガタつかせて、「返事は」不敵な笑みのマリを覗き込んだ。


「は、はい」


 その答えに否定など許されない。許される訳もなく、一頻り頬を、身を寄せ合った後、大人陣営がニヤニヤとほくそ笑んでいた。


「フッ、何か脅されたのか?」


「え?」


「あんたがいつもそんな顔してる時は、大概決まってるからねぇ」


「にしてもそんなラフな格好で大丈夫か?」


「えぇ、一応、過去の鎧の予備も」

「昔、冒険者やってた頃の鎧、貸してやろうか?」過去の満ち溢れた提案を差し出した。


 すると傍らの人生の相棒が、「あたしが貰ってやんなきゃ今も独身だった一番下の階級の貧弱なあんたの鎧なんて誰が着るかい!」


「ハハッ! また痴話喧嘩が始まったよ、仲が良いのか、悪いのか」


「「「「「「「ハッハッハ!」」」」」」」

ぼんやり漂っていた曇り気味の空気を払い、気付けばその場は笑いの渦に包まれていた。


「相変わらずお二人とも仲がいい」


「あんたは体が細いんだから下手な鎧なんて着ずに動いた方がいい。此処にいる誰よりも立派なレグルスがそう判断したんだから、あたしらに口出しする権利はないよ」


「そうだな。俊敏だからな、レグルスは」


「だからそう言ってるでしょうが!」

と、仲睦まじく夫婦漫才を続けていた。


 人垣の奥に潜んだ()()()()()()()()、感傷にすら浸れない俺を頻りに急かしてくる。


 そんな頑とした訴えに根負けしてしまい、皆から遠ざかり、丁重に人垣を掻き分けていきながら、他の者との挨拶を済ませていく。


「あの人はきっとまだ貴方を恨んでいるわ。決して甘さを見せず、気を付けて行きなさい」

「肝に銘じておきます。どうか、マリを……」「えぇ、任せなさい」マリさんの先へ進む。


「あんたが居ないとマリが悲しむわ。もし無事に帰ってこなかったら、許さないからね‼︎」

「あぁ、わかってる」アクアに念を押され、


「レグルス」

「ん? どうした」

「きっと、きっとね! これから多くの血が流れると思うの……。エルフの勘で不思議とわかるの。でも、貴方は誰よりも強くて優しいから、きっときっと生きて帰ってきてね」

「ハハ、怖い勘だな。でも大丈夫だ、俺は割と運が良くてね、それも死に際には特に悪運が強く働いて困ってるから」

「うん、そうだよね」嫌な杞憂を脳裏によぎらせる心配性に感化されつつ、剣好きへと。


「レグルス、また剣術教えてくれよな! 俺必ず世界でも指折りの冒険者になるからよ‼︎」

「あぁ、期待してるよ」


 何とか彼の愚直さが移り、危機を脱した。


「もう一回、絶対あの場所で花冠の作り方教えてね!」

「もう二度と悪さしないからさぁ、ちゃんと帰ってきてよ!」

「ねぇ……本当に、本当に行っちゃうの?」


「あぁ、ごめんな。でも、直ぐに沢山の手土産持って、きっとまた、この場所で会おう」


「うん!」

「約束したからね!」

「待ってるから‼︎」


「何処へ行くの?」


「さぁ、でもまぁ。見当は付いてる程度かな」ふと流した視線の先に続く、異様な子。


 ちょっとばかり薄気味の悪さも、子どもらしさの代表と言えば、そうなんだろうが。


「じゃ。またな」


 まるで地獄のどん底に落ちたかのように哀調を帯びて項垂れた肩にそっと手を添える。


「……ッ!」


「コリウス。後は頼むぞ」


 静寂。


「――――ぁ、あぁ……ッ‼︎」


 常にあらぬ方向に目を泳がすとともに小刻みに声を震わせ、燦々たる光に顔を上げた。


 もう澄み切った面構えに昇華して。


【コリウスの周囲に新たなる魂を検知】


 何か問題があるのか?


【敵意無し、で――】なら、スルーでいい。


【MP : 3000を消費し、幻覚を植え付けます】そして愈10代目との旅路に足を踏み入れた。


 その時。


「――京介」


「……?」


 彼女の声に徐に振り返った。俺の顔に思わず微笑みながらも、静かに頬を引き締める。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 そして、ようやっと旅の相棒とのご対面だ。


「さぁ、移動はどうするか」


「おぉい! レグルスゥ!」


「ラルダさん⁉︎」


「お前、勇者様と旅に出るんだって? なら、馬の一頭や二頭いなけりゃ、この険しい道を行くのは辛えだろ」


「えぇ、それはそうですが」


「こいつら持ってけ。港に友人を待たせてるから、駐馬場に置いてくれりゃあ、いいからよ」


「あ、ありがとうございます!」


「ご助力、感謝致します」


「なぁに、いつもお前には世話になってるからな。ちゃんと帰って来いよ!」


「はい。ほんとうにありがとうございます」


 みんなの空を破るほどの声援が響動めいていた。


 いつの間にか鐙に足を乗せ、借り物の馬に魔術を掛けんとする馬鹿を横目に、大きく振っている皆の想いに全身全霊で応えていた。


「生命に毒を与えるな、行くぞ」


「ワープは余り得意じゃないんですが……」


「勇者だったら理不尽な要求ぐらい、応えてみせろ。馬の移動陸路で三日。余裕だろ?」


「まぁ、できるだけやってみます。それより、庇護魔術を施さなくて宜しいのでしょうか」


「此処の人たちはそんな弱くねぇよ」


「そうでしょうか」


「あぁ、俺の信じてる場所だからな」


「それが単なる信仰でないことを祈ります」


「っておい、どさくさに紛れてやんなよ。馬は新鮮なままにしろ。俺が怒られるんだからな」


「はぁ、なら、やはり徒歩の方が」


「さっきから俺が弱くなったこと忘れてんのか。あ」心情を赤裸々に吐露してしまった。


 昔の癖が出てしまった。いや、俺の……か。


「? 行かれないんですか」


「ちょっと待ってくれ」


 邪魔な前髪を鷲掴みにし、【ポールナイフを召喚】し、ザクザクと切り刻んで、放つ。


 一本、一本が、親元から旅立ったたんぽぽの綿毛ように、俺の新たなる故郷の宙へと。


「。良し、行こうか」


「えぇ」

 

 こうして上りゆく陽を背に駆けていった。


 途方もなく続く道のりを。10代目と共に。

【意外と難しい二つの違い。

魔法は経験の派生、魔術は培ってきた知識】


【魔法の派生と種類――火、水、氷、風、雷、木、土、砂、光、闇、無、土瀝青、石、鋼、地、天、空、金、鉱石、植物、反魔法etc……】

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