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第五十七話 旅立ちと決意。そして、感動の再会。

 真昼時の晴天に満面の笑みを浮かべる国民達が空を破らんとした数多の歓声が轟き、王宮の二階のバルコニーさながらから新たなる勲章を胸に付け、俺は泰然と限界まで闊歩し、徐に大きく手を振って、不思議と笑みを零してしまう彼等の想いに応えた。


「勇者様ー!」

「我々を奴等からお守り下さり、ありがとうっ!」

「これからもずっと私たちのお側に居てください。貴方様の綺麗なお顔をいつまでも見ていたいです‼︎」

「勇者様ァー、大好きー!」

「リア様ー! 結婚してください!」

「どうかずっと我々の盾として、国に居て下さい‼︎」

「悪党を倒してくれて、ありがとー」

「貴方様がいる限り、この国は安泰です!」

「王と共に貴方に幸を!」

「ありがとー! 勇者お兄ちゃんー!」


 懸命に有象無象から懐かしの彼女を探していくが、残念ながら何処にもその姿は見当たらなかった。


 そして、憂き目を見てしまって思わず瞼を閉ざす。

見える光景など解りきっていたのに、幾度となく脳裏によぎり、朧げなそれは完全に浮かんでしまう、


「あんたのせいで何人死んだと思っている?」


「……」


 茫然自失の黒髪の襟を鷲掴みにし、怒号を飛ばす。


「一体、どれだけの者が犠牲になったと聞いているんだ! お前が殺したんだぞッ、未来ある者をだ‼︎」


 そんな傍らでは立ち込める硝煙と血肉を吸い上げた真っ赤な霧と噎せ返るような匂いに耐えながら、言葉無き兵士と再会した者達が悲しみに暮れる間も無く、淡々と周囲の消毒と遺体達を回収していく。


「兵士らの死者は半数以上に昇ったそうですが、何故、貴方は第三の目を使用しなかったのですか?」


「誰かの落雷にやられ、現在では消滅に近いんだ。修正は現存する本体を手にしていないと作れない」


「そう、ですか……」


「先代!」


「ん? 何だ?」


 取り返しのつかない過ちをお貸しですね散らかす糞野郎の説教を終えた緑髪が、苦虫を潰したように顔を歪めながら嫌々、こちらへと歩み寄っていく。

 

 そして、不服そうに告ぐ。


「有難う――お前のお陰で多くの兵士が助かった」


「気にするな、慣れている」


「行きましょう」


「あぁ」


 王の御前に足を運んでいく最中、颯と立ち止まり、大事な物のアイテムボックスから【子供お手製花冠を召喚】し、躊躇なく血の大地に放り投げだ。


 瞬く間に業火が広がってゆき、燃え滓となって。もう塵すらも残らずになっていく様を見届けて――俺は振り返る事なく、前へと歩みを進めていった。


 再び視界を現在に舞い戻せば、傍らには絢爛剛な褒美に腐るほどの食料が積まれた荷馬車があった。


「そうか、そう言えば――」


 ほんの数分前のことであった。


「この度の我が民を危険に晒すリベル騎士団の()()の功を讃え、其方の過ちを不問に付す」


 深々と首を垂れて王の御前に跪き、そっと一瞥すれば、絢爛豪華な王冠を被りし国王の瞳は虚ろで何も映らず、俺はまた……望まない称号が与えられた。

 

 大切なものを失って。


「ハァ……遅い」


 ベリル達も10代目も一体、何処で油を売っているんだ。こっちはお陰で嫌な思い出を掘り返したよ。


 全く、責任を取って貰わなければと最後の見納めである賑やかな光景を楽しみながら探していった。


 道すがら、愛しい子供達や熱狂的なファン達の熱いサービスを求められ、微笑ましい笑みを返した。


 そして、流されるがまま、辿り着く学園の校庭。

不思議な魔法が施された網の傍らでそっと手を添えて度重なる最悪なフラッシュバッグに疲れて一休みしていれば、校庭で子供達が甲高い声が響き渡る。


 ふと振り向けば、あの子とそう歳も変わらぬ少年少女らが独特の玩具遊びで楽しそうに戯れていた。


「フッ、良し。行くか」


 そう暖かな陽光降り注ぐ日差しから、真っ暗闇な影へと大きく一歩を踏み出そうとしたのだが――。


「リア様?」


 あぁ、振り返っては駄目だ。決して――もし、あの子の姿を見てしまったら俺は、俺は……きっと。


 でも、髪を靡かせるそよ風とともに僅かな好奇心を含んだ想いが自然と振り返らせてしまい、目にする。


 美しく女性となったアスターの姿を。


「久しぶりだな。っ⁉︎」


 ちょっと前までは華奢で仔猫のようだったのに、気付けば暴れん坊大将軍にまでなって、あっさりとフェンスを飛び越えていて、アスターと触れ合う。


 抱き付かんと四肢を広々しく伸ばして落ちていき、俺は優しく体制を崩しながら颯と受け止めた。


「ほんとうに、本当に久しぶりだな……」


 歔欷さながら無意識にその身の温もりを感じた。


「ずっと会いたかったんです。だから、王様の命令された時には慌てて駆け付けたのに、居なくって――また行ってしまうに逢えて、本当に良かったです‼︎」


 肩に顔を埋めてモゴモゴとしながら、取り止めのない溢れんばかりの言葉を感情任せに告げていく。


「あぁ、俺もだよ」


「それは安心しました。私のことが嫌いなのかと」


 少し小突くだけでも壊れてしまいそうだったアスターの体は逞しくなっていて、ひしひしと感じてくる力強い鼓動や落ち着きに染まった脈拍が、自然と俺の回した腕の締め付ける力を強くさせていった。


「フフッ、痛いですよ、リア様」


「あぁ、すまない」


「そろそろ」


「あぁ」


 忽ち失われていくアスターの温もりが漠然とした恐怖を頻りに襲いながらも、無理やりに微笑んだ。


「お話し……出来ませんよね」


「もう行かなければならないんだ」


「またこちらへ戻ってこられるのですか?」


「わからない、ただもう逢えないかもしれないな」


「そう、ですか」


 向日葵のように満面の笑みを浮かべた表情は刹那に悲壮感に満ち溢れていくものの、俺の顔色をじっと見つめると哀愁を漂わせる程度に抑えてくれた。


「あっ、会ったら渡したいものがあったのです!」


「っ。それは帰ってきた時に渡してくれないか?」


「はい、そうですね。いつまでも待っております」


「あぁ、必ず行く――ん?」


 傍らから皮膚を突き刺すように熱く注がれた視線に振り向けば、真っ暗な日陰で黒洞々とした闇に覆い尽くされた10代目が静かにこちらを睨んでいた。


 淀んで虚ろな瞳には色鮮やかな光景が映り込んでいて、正に混濁を体現した嫉妬と羨望の眼差しで、思わず俺は戦慄が走った。


「あっ、レグルス様ー!」


 ベリル達とも無事に合流し、何の後腐れもなくこの場からそそくさと離れようと影に歩みを進めていく。


「アスター!」


 ほして、奇しくも学校の友達が呼びに来てくれた。


「何やってんだよ、もう」

「えっ⁉︎」

「先代のリア・イースト様ですか?」


「あぁ、そうだよ」


「サインください!」

「駄目!」

「何だよ、みんなの勇者様だろ!」

「い、今忙しいから、そうもう旅立っちゃうから邪魔しちゃ駄目なの!」

「何だよ! お前だけずるいぞ!」


「アスター」


「はい!」


 必死に色紙を手元に呼び寄せる優秀な生徒達を食い止めながらも、無垢な面差しをこちらに向けた。


「またな」


「……? はいっ!」


「行くぞ」


「えぇ」


 俺達は深き闇へと沈んでいく。

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