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第五十五話 片鱗と終幕

【アサシンダガーを召喚】


 僕は手に良く馴染んだナイフを緩慢に握りしめ、例の10代目君と同じように宙に舞う最中に颯と軽やかに身を傾げて大地に足を下ろし、瞬く間に迫る。


 呑気にぼーっと突っ立って新たなる弾を装填せんとする傀儡の喉元目掛けて、懐を容易く掻い潜り、頭を刃に振るう方へと強引に前髪を鷲掴みにして傾げながら、未だ真っ赤な汚い血飛沫を撒き散らし、その屑の背後に忍び寄っていた阿呆の為に無駄に固く握りしめた持ち手を丹田を足蹴にして奪い取り、手首を返らせると同時に刃を霧散させ、二度放つ。


 まるで誰かに押されるような衝撃が肩に走って。


 相手の最後の面倒な悪足掻きに丁度いい傍らの退場しようとした傀儡を肉壁という名の盾にして防ぐ。


 玩具の人形みたいに支えを失って地面に倒れたけれど、それでもまだゾンビのように起き上がろうとするものだから、何度も何度も何度も撃ち抜いた。


 ようやく弾薬が残り一発となったところで力尽き、同時に手にしていた小銃も泡沫に消滅していった。


「随分と手慣れていますね」


 いつの間にか視界に映り込んでいた10代目君は、嫌味混じりではあるもののの元気そうに台詞を告ぐ。


「あぁ、まぁね」


「誰かぁ、助けてくれぇ」


「ん?」


 一番の筋肉量を誇っていた白髪は奇しくも使い魔らの爆風の間近に居たにも関わらず、残念ながら四肢が捥げていたが、かろうじてその体を保っていた。


 以前目にした飄々とした姿は見るも無惨に、情けなく喘ぐように周囲に悲鳴という名の助けを乞う。


 筋骨隆々さが仇となって、寧ろじわじわと迫ってくる死の恐怖に咽び泣きながら待ち侘びるばかり。


「待ってろ! 今行くぞ!」


 そんなあからさまな罠を頭の片隅にすら置かぬ金髪阿呆が周りに目もくれずに、飛び出していった。


「おい! やめろ! もうそいつは!」


 カチッ。


 青年の足元で、そんな音がしたような気がした。


 そして、緑髪の怒号も遮られる強い爆風に四肢がミックスされて、血飛沫とともに吹き飛ばされる。


 開いた口が塞がらずにいた可哀想な緑髪を尻目に、そんな様の一瞥を終えた俺の視界が捉えたのは、未だ元気そうな四肢無き負傷兵の姿であった。


 残された選択肢の中にチラつく、一つの手段。


 奇しくも残された弾薬。


 これは最早運命なのだろう。


 そう思い、コッキングをし、トリガーを引いた。


 無論、手を伸ばす彼に向けて。


 三度コッキングし、円を描いて宙に舞う空の薬莢に目を追っていけば、一驚を喫する10代目がいた。


「な、何やっているんですか……?」


「これ以上、犠牲者を増やさない為にも必要な事だったよ。それとも君があの代わりをやれたかい?」


「そぅぃぅことをッッ‼︎ 言っているんじゃっ――」


「現実を見ろ、これは戦争だ、情けで何が守れる」


「……」


 平和ボケした彼は喉から感情任せに溢れ出さんとした身勝手なの罵詈雑言を静かに胃に流し込んだ。


 そして、どうやら時間切れのようだ。


「っ! お、お前は狙撃手を殺れ」


 また、危うく体が持っていかれるところだった。


「えぇ、言われなくとも」


 日本では偽りでも平和だっから、こんな経験はさぞ新鮮だろうが、願わくば最後まで舞台に上がってきて欲しくないものだ。俺が負けない限りは……。


 だがな。


 次第に呼吸を整えんとするも――立ち込める硝煙と降り頻る大雨が舞い上がった血肉を吸い上げて、気を抜けば、死ぬまで噎せ返るような悪臭を放ち、耳元を空を破るような鋭い弾丸が掠めて、周りには吐き気を催すような遺体の山で溢れかえっていた。


 それでも希望を捨てんと10代目は立ち向かい続け、その後に続くように地面から土を掘り出し、現れて、頭上で咄嗟に銃口を突きつけんとした仲間の首を僅かに震わせて血走った眼差しで刃を振るい落とし、朧げな濃いピンクを帯びた一つの人影が颯爽と宙から大地に降り立ち、兵士の脳天に刃を突き立てた。


 副隊長は全ての弾丸を不可思議な刃で造作もなく弾き返し、迫り来る兵士を木っ端微塵に切り刻む。


 だが、先陣を切った10代目はあれから森との睨み合いが延々と続き、一寸先は闇の森林で忽然と姿を消して虎視眈々と次の獲物を待ち構える狙撃手を捉えるのは困難なようで、中々仕留められずにいた。


「ぉ、……」


 研ぎ澄ませた神経は想像を絶する程に張り詰めているようで、緩慢に周囲に目を泳がせていく双眸は思わず息を呑んでしまうような狂気を孕んでいた。


 慎重に逆鱗に触れぬよう、背に歩み寄っていく。


 アイテムボックスから、懐かしの武器を探して。


 周囲に破片を飛ばす勢いで最早その回転が見えぬ一撃必殺の槍に、肩で荒々しく息を切らす10代目、静かに10代目の急所を狙っているであろう狙撃手。


 そして、その傍らに歩み寄っていく。


 次の瞬間、遼遠たる茂みの奥から黒洞々とした細長き筒から燦爛とした輝きが周囲を照らし、放つ。


 それと同時に満を持して、繰り出される一手。


 俺はやや遅れて無防備の10代目へと駆け寄って行き、遂に視界に収めた刃を――真剣を呼び寄せる。


【刀を召喚】


 瞬く間に眼前へと迫った弾丸を、強引に割り込んで限りなく最小限の動きで振るった刃が一刀両断。


 姿無き彼奴に、思わず口走る。


「何故、そう望む!」


 刹那、俺の卒時に背後に佇んだ暗き淀みの人影。


「お前が歩んできた道だろう」


 疾くに振り返っても、当然彼の姿は無かった。


 その最後の王手が、戦いの幕を静かに下ろした。

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