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第五話 ステータスの謎

【真相の開示――自世界、異界、別世界。

其れ等はご覧の通りの順に挟まれています】


【簡易的に説明しますとサンドイッチの具同士が折り重なって偶然発生した事案であり、間には密着が故に異空間を発生させていると信奉者からの報告が。更に本来、全てが干渉不可能な遥か遠くの惑星との憶測が出ていますが現状は不明。最新情報は一部の者のみ】


【唯一開示されたのは自世界は異界に弱く、異界は別世界に脆く、別世界は自世界に相性が悪いとされています。一部の洗練された者に開かれた扉を介しての其々の世界への侵入が可能ですが、幅深さよっては開錠された場の大多数に死を招く事に。理由は現在進行形で全世界の協力の下、解明に努めている模様】


【真相判明以降、4代目の新政策で門番が聖職として表舞台に進出、今物語の登場は無し】

「ん……?」


 さらさらと多重に連なる新梢が摩れ戦ぐ、陰る木々から仄かに月明かりが差し、皓皓たる涼しい月光が俺を清々しく輝かせていた。


 存外、体の具合は最高に悪くも寝心地の良かった大樹に凭れ掛かっているだろう俺は、ふと重き瞼に阻まれながらも空を見上げた。


 呉々に噎せ返るような吐き気を催して不快感が全身に襲うも、心が澄む程満ち溢れた自然がかろうじて緩和し、大海原で水面に浮かぶように胸の内が沈んでゆく。パチパチと乾いた音を立てた足元の暖かな焚き火が、燦々たる燃ゆる濃い火種を天へと昇らせてゆく。


 もう時期、俺達の世界の暦の上では春か。いや、俺達じゃないな。僕たち――なのか。


「ハァ……。ステータス――オープン」


【ステータスを召喚します】


 ステータス一覧。

 HP : 225/945 MP : 4870/4870

 TP : 1/1

 物理攻撃力 : 88 魔法攻撃力 : 64

 総合攻撃力 : 128

 物理防御力 : 53 魔法防御力 : 19 

 総合防御力 : 60

 俊敏さ : 48 装備品+34

 耐性 : 光×闇×固有能力 装備品+付属耐性

 賢さ : 97 装備品+37

 運の良さ : 777+747

 特殊能力 : シーフ専用スキル 奪取×審美眼


【呪い――始まりの呪縛 術者のみ解除可能】


『ステータスなんざ、所詮は飾り。戦いで物言わすのは培ってきた知恵と経験だ』とは云え、これは流石に恐怖を感じざるを得ない。


 重装備のお陰で初期よりは増えているが、これじゃほぼ誤差だな。


 こんな悠長に続ける独り言の渦中、


「……」


 淡く蒼いステータスが眼前に映し出された先には厳かな面持ちで凝視する勇者がいた。


 瞬き一つせずにじっと獲物を捉えたまま。


【MP : 200を消費し、多重魔術で強化されたポールナイフを召喚します】爪を中へと収めるように枯れ木も山の賑わいの意志を準え、後ろに回していた掌にナイフを握りしめる。


 奴は氷灼の双剣を鞘に収めたまま肌身離さず、抱きしめながら大地に突き立てて、体育座りさながらの体勢で虎視眈々と窺っていた。


 静寂。


「……」


「……」


 ただ成す術無く、息を呑む。


「素朴な疑問なんですが」


「何だ」


()()()()()とは何ですか?」


 そっとナイフを手放し、霧散させるのを傍らによぎったのはその口調。それはまるで、義務感で嫌々かのような淀んだ敬語だった。


「見えないんだな」


「えぇ、残念ながら」


【MP : 950を消費して視覚共有しますか?】


 いいや、辞めておこう。


 やはりステータスは深層意識に関わっているようだ。なら、俺のレベルも此処で終わりか。所詮は見せ掛けだけの力。完成系の付随品のように露骨に取って付けたような、お守りに過ぎないのだろう。大方、突然の出来事で精神に異常を来す者をできるだけ減らすことが目的なんだろう。全く、よく出来てる。


 ……。


 だが、一番解せないのは、この眼だ。

 

 何故、あの謎の襲来者は命の供給源とも呼べるこの神眼を奪った上ですり替えたんだ?


 この世界で生きていくには欠かせないだろうに、いずれ牙を向くかもしれない脅威を野放しにしてまで、一体、奴は誰なんだ……。


「聞こえてますか?」


「あぁ、すまない。考え事を。まぁ簡単に言えば、己の身体能力を数値化したものかな」


「随分と便利な代物ですね」


「まぁ、な」


「では、スキルは?」


「自分の得意な物や特殊魔法かな」


「HP」


「自分自身の体力」


「MP」


「魔力総量」


「そうですか」


「この世界じゃ、浸透していないようだな」


「えぇ、最初は奴等の死の間際に吐く命乞いかとも思ったのですが、訊いていくうちに妙に信憑性を帯びてきて、貴方の意見と照らし合わせてもそう変わらないようなので、どうやら真実みたいですね。有難う御座います」


 この糞餓鬼に、完全に舐められているな。


 それなのに一般人はおろか、貴人を含む国王でさえもがその情報に首を傾ける始末。そっちの知識に精通している者がいるのか? それなら、ただのあの平凡な校内に召喚陣が現れたのも、偶然の産物ではないのだろう。


 これら全てが意図的に行われたもの。


 この一件にも裏で糸を引く者がいるのかもしれない。この全てがその者の策略の内か。


 どちらにせよ、こんなふざけた壇上で死ぬまで踊らされながら終わるのは、勘弁だな。

もうマペットとして生きるのは懲り懲りだ。


 無邪気な稚児さながら告げられた、一声。


「ステータスオープン」


「する訳ねぇだろ」


「みたい、ですね」


 ん?


「それは何だ?」


 偽物の手に握りしめた土埃で汚れた巾着袋から、燦爛たる幾多もの金貨が垣間見える。


「いつまた襲撃に遭うやも知れませんので」それをお前が言うか。「道中、目立たない場所に捨てられていたのを発見した次第です」


 捨てられた金……か。


「フッ……」

笑えない場なのに、つい微笑んでしまった。


「どうされたんですか」


「いいや、何でも。それよりお前に頼みがあるんだが」


「何用でしょう?」


「俺の腕を折っ――」その言葉の先を折ったのは、たった一匹のスノーウルフであった。


 黒洞々たる闇夜から鬱蒼と生い茂った草花をさくさくと踏みしめる音とともに呻くかの如く派手に低く喉を鳴らしながら、忽然と純白な姿を現す。何故か随分とご立腹な様子で。


 それは決して他者に甘えるなどと云う生優しい行為ではなく、怒りにその矮躯の身の全てを預けた猪突猛進の体勢に加えて、皮膚を突き刺すような鋭い眼光が俺たちを視界から一切、途切れさせることなく、だらだらと涎を垂らしながら歯を食いしばる様であった。


 スノーウルフは足音を忍ばせんと草の根を蝶よりも花よりも丁寧に掻き分けていたが、ダダ漏れな根深い殺意が込められていたせいか、気付くのにそう時間は掛からなかった。


「スノーウルフか」

「アイスウルフ」


「……?」

「――⁉︎」


 早々に剣の刃を振り翳さんと疾くに鞘を払う前を遮るようにして徐に手を差し伸べる。


「何です?」


「ちょっとばかしやりたいことがあってね、此処は俺に譲ってくれないか?」


「えぇ、構いませんよ。どうか、ご武運を」


「どうも。それにしても、()()()()()()()


 心にもない言葉を掛ける上に大人しく鞘に刃を収めていくのに成長を感じつつも、俺は躊躇なく寝起きの体に鞭を打って突き進む。


 それに呼応し、負けじと軽やかな四肢で大地を強く蹴り上げて、双方共に駆け出した。


 鋭利な牙で喰らいつかんとする食欲旺盛な姿勢に俺は直様、撒き餌のように左腕を差し出して、颯と紫紺の魔法陣を額に巡らせる。

「ッッ!」

すると彼女はこれ見よがしの泣く泣く捧げたご馳走を限りない力で噛み締めて味わい、骨をも砕け散る鈍い音と声を失ってしまう程の激痛が左腕に走り渡ってゆき、決して離れないウルフから犠牲を承知で額に手を触れた。


 そして、ズタズタに引き裂かれた左腕と仲良く宙に舞う。


【今の攻撃でHPが激減しました、次の攻撃で死亡する可能性があります】その割にHP : 98/945か、然程、減ってない気がするのは気のせいだろうか、それともこっちのステータス案内は余程、臆病で大袈裟なのだろうか。


 まぁいい、今はいい。


 綺麗に頭上に吹っ飛ばされて【多重魔術で強化済みのポールナイフを召喚】させ、勢いを殺さぬまま頸に突き立てる。だが、皮膚が異常に硬く、死の淵に立たされた左手に紫紺の魔法陣を張り巡らせて、強く叩きつけた。


【ブーストを召喚――MP : 50を消費します】


 刃は折れる事なく無事に緋色の鮮血が噴き出し、変わらぬまま、いや寧ろそれ以上の力で踠き、闘牛さながらに跨る俺を振り下ろさんと暴れ回り始めた。


 チッ。


「大丈夫ですか、助けましょうか?」


 視界の端に不遜なる態度で泰然と手を拱く姿に、些か、苛立ちを隠せずにいたのか八つ当たりで、無駄にしぶといスノーウルフに全体重を押し付ける。そう熾烈な激闘を繰り広げていると、ようやっとその勢いも終息に収まっていき――遂には大地に臥して、その場には、真っ赤な血溜まりを生み出していた。


 幾ら何でも、これは流石にヤバいんじゃないか。


「先代っ!」咄嗟の怒号が鼓膜に響き渡る。


「っ!」


 背後。


 其処には依然として命の息吹きを漏らす、ウルフが脱兎の如く刹那に眼前に迫っていた。


 背後で傍観していた筈の偽物が、9()()()が刹那に飛び出し、腕を盾の如く眼前に翳した。俺なんかの為に身を挺して庇うようにして。


 そして、鞘を払って大きく大剣を振るい、ウルフの首を刎ね、次こそ息の根を止めた。


「すまなかった」


「慢心です。以後、顧みてください」嫌味口が減らずとも其処には心なしか暖かかった。それはまるで、激しく燃え上がる炎のように。


「あぁ、すまない」


 最近、一切戦っていなかったせいで完全に気が緩んでいた。ホント……本当に慢心だ。


「それにしても腹、減ったな」


「ですね」


 共に地に横たわるウルフに視線を向けた。


 〆


 俺たちは再び、焚き火の前で仄かに獣臭さの残った、やや歯応えと塩気の強い骨付き肉を豪快に頬張りながら、淡々と言葉を交わす。


「神獣。噂には聞いていましたが、これ程とは」


「あぁ、お陰で手を焼いてるよ」


「自然の濃さが招いてしまったのですかね」


「獣にとって綺麗ってのも、考えものだな」


「……」ゴムみたいな脂身(弾力の)がお気に召さないのか、じっと此方を怪訝そうに睨んでいた。


「なんだよ」


「いえ、ただ」


「ただ?」


「喋り方が」


「不快感を覚えるなら改めるよ」


「別に特には。ただ、少しばかり似ていて」


「そうか」


 親近感、ね。そういやあの案内も何処か。


「それにしても」


「ん?」


「異邦人はアイスウルフをスノーウルフと呼ぶんですね」前言撤回。嫌な野郎だ、此奴。


「残念ながら東諸国全般の共通認識だ。雪が大好きな白狼として知れ渡っているからな」


「でも、本当は――」


「『最愛の者であろうとも群れにとって足手纏いとなるのであれば、容赦なく殺す冷徹さを兼ね備えた恐ろしくも美しい獣』だろ?」


「ご存知だったんですね」


「まぁ、周りに合わせてるだけだが。最近じゃ、此処ら辺も気候が安定しているからみんなからすれば、よりその印象が強いんだよ」


「そうして周囲との認識や偏見、固定観念を擦り合わせ、現地人として生き存えていく。勉強になります」……一々癪に障る奴だな。


「これからどうするか」


「どうしますか?」


「おまけが付いてくるのは前提みたいだな」


「無論です。まだ何も片付いていませんから」


「まぁそうなんだが。俺にはあの襲来者に心当たりが無いんだよな……。それに手掛かりもないからな。これは迷宮入りしそうだぞ」


「手掛かりなら、あります」


「へぇ、そりゃ楽しみだ」


「探知専用の魔眼の力を用いて、奴の、異邦人の特徴的な魔力の残滓を辿って行けば、いずれぶつかるでしょう」耳寄りの情報だな。


「そんなに都合よくいくか? 相手はそれを見据えた上で、完全に本体の痕跡を絶って、俺達を殺すためにわざと分身を泳がせて罠を貼り、ただ踊らされるのがオチかもしれない」


「随分と逃げ腰ですね。そんなに諦める為の口実が欲しいのですか? 次は長年の鍛錬放棄での敗走を言い訳になさるおつもりで?」


「こっちにも色々あるんだよ、それに今は常時、瀕死状態なんだ。ましてや、相手は得体の知れない相手。勝ち目の無い戦いにこれから先の人生を捧げるほど、俺も馬鹿じゃない」


「でしたら、逃げるんですね。勇者として」


「……」


「この戦いから、貴方が始めた殺し合いから」


「……」


「そして、俺たちの希望から」


「うざったい言い回しせずにハッキリ言ったらどうだ?『責任逃れの臆病者』ってな‼︎」


「貴方は今まで多くの活躍を成し遂げてきたんですから、これからは好きにすればいい」


「さっきと言ってることが、まるで違うぞ」


「腐り切った都会から離れ、悠々自適に辺境の地で名を騙りながら無垢な村人を欺いて、死ぬまで善良な一市民として暮らし、祖先に告いでいくんです。『我々は誇り高き民と』」


「何処までも戯言には頭の回る奴だな。ピーピー喚くのが特技なお前に其処まで言われなくとも、この一件には方を付けるつもりさ」


 余った僅かな獣肉をアイテムボックスに収納し終えた俺は、回復に向かっていく体に無理をさせて立ち上がり、村に爪先を向けた。


「それとお前は一つ大きな勘違いをしてる」


「……?」


「俺は大切な人に嘘なんて吐いていない」


 そして、夜明けの大地に大きく一歩踏み出した。

【ステータスの機密情報、一部分を限定的に公開】


【ステータスの特殊能力一種の効果により、魔力を消費せずに相手の情報を強制的に開示することが可能。ですが、先の襲来者のような自動保護プログラムが設定されている場合、逆に此方側の情報が抜き取られる上、突然、心身共にやられてしまうこともあります。ので、使用はせず、様子見をしていましたが、どうやら私の出番は今回までのようですね】


また、何処かで。


【以降は私の――☆7♭42(1400♪€*¥(7°】

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