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第五十一話 決着

 次第に黄金色の光が失われていくアトランダムの刃を首筋に翳しながら、疾風迅雷の如く焔を突き抜けていき、最大にまで細めた視界が急に開けた先、


「――――⁉︎」


 盤石の構え。


 その猪突猛進さながらの甘さを穿たんとする、腕から手に掛けて添えた突きの所作が繰り出される。

そんな目で捉えるのでさえままならない不可避の一閃の矛先を逃げ延びんと咄嗟に刃を眼前に翳して、金属音と火花を散らしながら、大地に降り立った。


 やや離れた距離を詰めようと第一歩を踏み出す。つもりであったが、冷徹なる結晶が宙に舞い上が流のを視界に捉え、眼下の凛とした薄氷がそれを阻む。


 それでも尚、胴が外れると言わんばかりまで最大限身を捩って、氷塊ごと狙って大きく刃を振るう。


 一驚を喫して瞠目するウォリアの眼前を掠めて、数本の前髪がひらりと儚く散っていき、空を切る。


 そのまま視界の片隅でそっと宙に舞う氷塊の破片を触れようとしながら、掌に紫紺の魔法陣を巡らす。


 投擲。


 応酬の氷礫が重鎮たる肉体を軽々と弾き飛ばし、武器限定の空欄の目立つアイテムボックスから【マプクトゥル+ユニキュプル+リアベルプト+ヲスト+アサシンダガー+サラマンダークローを召喚】し、投擲の如く横殴りの其々の異なる雨を勢いを殺していくウォリアの元へと降り注がせるとともに足元の厄介な枷をサラマンダーダガーで蒸発させた。


 全ての刃が幾多の金属音を迸って綺麗に弾き返されるも、アサシンダガーがウォリアの影を突き刺していた。のを視界に収め、緩慢に二指で印を結ぶ。


 吞め、深淵。


 次第に己が肉体は微かな光も通さぬ黒き闇へと染まってゆくと同時に体全身が大地に沈んでいった。


 そして、背後に跪いて忽然と現れ、大地に深々と突き刺さりしアサシンダガーを握りしめながら、地面から氷塊をせり出しつつ刃を翳す、ウォリアが立ち所に振り返っていくガラ空きの脇腹に刃を振るう。


 ほんの僅かにこちらの速さが上回り、刃が貫く。それは亀裂の走る鎧であったが、俺の腕に迫り来る刃を物ともせずに飛び蹴りで更に奥へと突き刺し、忽ち焦燥を滲ませる頬を苦痛に顔を歪め、「ッッ‼︎」小さく呻き声を漏らして動きの鈍った一太刀は――それでも負けじと俺の片腕を容赦なく奪い取った。


「ッ!」


 互いの無数の真っ赤な鮮血が宙へと舞い上がり、血を多分に含んだ雨粒と粘つく緋色の液体が視界を覆い隠し、互いに無意識のうちに淡い緑光を発さず低空に跳び上がりながら、かなりの距離を取った。


「フッー」


 次の一手で全てが決まる。


 頻りに朧げな意識が途切れそうになる鋭い激痛が絶えず失われた右腕を襲い続けて、取り止めのない呼吸を淡々と整えていく一方で、震わす掌で最早脇腹の一部と化した溢れんばかりの鮮血が滴っていく刃を、強引に歯を食い締めながら抜き取っていた。


「……」


「……」


 満遍なく血に塗れた刃をじっと見つめ、何かを察した聡明なウォリアは脱力感に見舞われながらも、アサシンダガーを酷く震わせる片手に握りしめた。


 真っ新な武器欄を一瞥し、緩慢に拳を眼前に翳す。


 村の方から甲高く響き渡る悲鳴に、空を破らんばかりの雷鳴と、渇きの満たされても尚降り注ぐ大雨に遮られて、訪れる――。


 静寂。

 

 そして、大きく一歩を踏み出して、ただ只管に突き進んでゆく。互いに息遣いが当たるまで眼前へと。


 最後の力を振り絞り、出鱈目な所作で刃を交わす。


 三度、ウォリアは首筋を斬ろうと刃を差し向けるとともにアサシンダガーを俺の眼前へ放り投げた。鋭い風切り音を立てて迫っていく刃を限りなく最小限の動きで身を傾げ、頬を掠める事なく空を切って、僅かな魔力で残された選択肢――印無き術で掌に、


 凛。


 掌から忽然と玲瓏とした光芒たる蒼き霜が降り注いでゆき、忽ち粗悪な氷の剣が生み出されていく。


 霞む視界でも明確な大振りをいなさんと鈍間な動作に合わせていくと見せかけて、犇と動きを止め、俺達の刃は交わされることなく、静かに交差する。


 そして、氷の刃ごと一刀両断に全てを注ぎ込み、その一太刀は流れるように肩先から脇腹に掛けて、心臓を突かんとする刃を胸に翳す元へと迫り来る。


 周囲に降り注ぐ、無数の大粒の雷雨。


【MP : 1】


 幾度となく氷剣の刃に打ちつける雫が収束する。


【形状変化 発動】


 ほんの僅かな差、たった指先一つで全てが決まる一手、俺は魔力を存分に余す事なく使い切り、再びパキパキと亀裂の走るような音を走らせて、透き通った川のせせらぎの如く蒼き刃を生み出していく。


 間。


 視線を交わす事なく、肋骨から垣間見る心臓を、新たな柄頭を骨剥き出しの腕で支えながら貫いた。


 身体中に鳴り響く、鼓動を――わざと、外して。

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