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第五十話 善戦

 ただ互いに中心へと駆け出していく。決して剣を握りしめず、魔法にも頼らず、肉体のみで交差する。


 ウォリアは冷えた体で早々喉笛目掛けて小振りに一打を繰り出さんとし、俺は限りなく小さな動きで拳が風に振るうよう眼前に翳した腕で手軽くいなす。


 微かな振り切った風切り音が鼓膜に届くとともに猫の手の如く掌を骨無き脇を力強く突き「ぐっ!」と、小さな呻き声を上げるのも束の間、徐に宙に浮く爪先が脛へと突き進み、振り抜こうとしていた。


 尾を引く一手が迫り来る右足を咄嗟に真上に上げながら、軸足を回転させてみぞおちを狙うように、筋骨隆々とした壁さながらの丹田を突き飛ばして、

「ぐっ!」

そのまま流れるように背を仰け反らせ、体を綺麗に宙に舞うと同時に筋肉質の下顎を二度足蹴にする。


 一瞬視界から切れたウォリアを再び目が捉えて、一刹那に二指が眼前に触れる寸前まで迫っていて、胸を抑えていた片手を手首を押し出すように下から拳で小突けば、緩慢に下に軌道が逸れていき、保険として備えていた矢継ぎ早の第二陣目が拳を握りしめながら関節を折り曲げて、再び喉笛に肘が襲う。


 も、その躱した片手の肘で穿たんとする強烈な一撃をかろうじて受け止めれば、眼下には布石さながらの足首が立ち所に股上から掬い上げられていた。


 チッ。


 玉砕覚悟でもう一方の片腕で脛を骨ごと粉々に潰す想いで手の甲から躊躇なく叩き落とし、「うっ‼︎」ウォリアは情けなく悲鳴を漏らすが、体格差が露呈しつつも重しとなって金的を防いだ俺は受け切り、颯と足首を掴み上げるとともに重き体勢を崩し、互いの勢いが異なりし咄嗟に振るう一打が交差する。


 フェイント。


 ウォリアの生意気な顔面を殴り付けんと繰り出した拳をピタッと止め、三度喉笛に迫った拳を片腕で逸らし、緩慢に身を捩りながら耳の裏を殴打した。


「ァッッ⁉︎」


 むざむざと広々とした背中が大地に堕ちてゆく。


 だが、無意識に乾いた眼を瞬けば、潤いが満たされると同時にガラ空きの丹田を鋭く足蹴にされた。


 ッ!


 大地を踏みしめる両足が彼方まで吹き飛ばされる風船のような身を大地を抉りながらその場に留め、ジンジンと響く鈍い痛みを逃すようにため息を零す。


「フゥーー」


アトランダム(絢爛豪華な贅沢棒)を召喚】


 降り注ぐ滝のような豪雨が燦爛とした光を魅せるステッキの持ち手を忽ち滑り落とすまでに濡らし、それは古から懐かしの片手剣へと変貌していった。


 そして、再び、共に脱兎の如く駆け出してゆく。


 ウォリアが縦から真っ二つにせんと刃を大振りに繰り出すも、軸足を回転させてさらりと身を躱し、無防備な両腕を掬い上げるように刃を軽く振るう。


 互いの刃は交わす事なく、剣を手放して強引に折り曲げた肘に沿って綺麗に逸らされ、空を切った。続く第二撃目を脇を押さえたまま小振りを下ろし、素手のウォリアの頭上に刃が難なく迫っていくが、大地に深々と刺さった剣を掴み取る事なく、軽快なステップで真後ろに跳び上がり、後を追っていく。


 だが、頸に走る妙な悪寒。


 切り裂かんと振り上げつつ徐に背に一瞥すれば、清濁を併せ飲んだ幾多の雨粒を弾き、大地に眠っていた筈の剣が円を描いていつの間にか迫っていた。


【原点回帰の剣】


 あぁ、そうだったな。


 ウォリアの下顎目掛けて繰り出そうとしていた刃を踵を廻らすとともに迫り来る投擲の刃と交わし、暗闇に覆い尽くされた闇夜に鋭い火花を照らした。


 そのまま手に舞い戻りし刃と幾度となく剣戟を交わし、周囲には燦爛とした無数の灯火が散らされ、鼓膜に無駄に響く金属音が絶えず鳴り響いていた。


 永遠に続くかと思われた交差に終焉を齎す一手、足元に窪ませて盛り上がった土を刃で僅かに掬い、振り上げるとともに眼前目掛けて目眩しを放った。


 ウォリアは急所を筋骨隆々とした肉体で抑えて、眼前に盾の如く刃を翳し、砂が微かな音を立てて当たるのを耳にし、そのまま大振りが繰り出される。


 いつものように地面に奥底に貫く刃で刃同士を眩い輝きに包まれながらいなしていくが、宙に飛ぶ。


 それは、突然の出来事であった。


 完全に疎かにしていた足元に鈍い衝撃が走ると同時に振り抜く片足が視界に映り込み、表舞台で主役として悪目立ちしていた刃に釘付けになっていた俺は、簡単にして無様で緩慢にふわりと浮いていた。


 忽ち、巧く癖を突いた渾身の一撃が迫り来るも、俺は地に刃を奥深くに刺しながら、両腕に重心を置くよう震わせる程に力を込めて下顎を足蹴にする。


 それと同時に一瞬目を離して、真横の体勢を直さんと体を回転させつつ無理やり刃を大地から払う。


 そして、茫然と仁王立ちするウォリアを切り裂く。のだが――透かさずの模倣の蜃気楼が霧散し、背後に迫っていた本物が振るう刃と強引に交わし、いつにも増して百人力な一太刀に吹っ飛ばされた。


 低空で爪先を地面に立てて緩和材にし、濃い霧と大雨で朧げな人影は疾くに最近よく目にする印を結び終えて、厳かな振る舞いでお得意の誰よりも強大な白狼之霜晶(スノーウルフ)を放っていた。


 勢いよく大地に剣を突き立てて、柄にブーストを巡らせた足場に乗って、軽やかに宙に跳び上がる。


 いよいよ勝負を決めんと怒涛の勢いで迫り来る、焔乃化け猫(フレイムキャット)が大口開けて、俺を呑み込むのに造作も無い大紅猫が喰らいつく。


 アイテムボックスから二つの代物を手繰り寄せ、最後の【起爆札×1+油入りの皮袋を召喚】させた。


 愛猫とはまるで異なる化猫に皮袋を放り投げて、起爆札を手首を捻って、白狼の馬鹿野郎にまんまと凍らされてしまったアトランダムを救わんと――。


 投擲。


 僅かな衝撃で燦爛たる光を発して、忽ち爆ぜる。


 耳鳴りの絶えぬ囂々たる地響きが轟き、舞い上がる白煙に乗じて、【引力を発動】させて、舞い戻す。


 我が手に刃を。


 それと同時に足場に丁度いい無数の氷塊の破片が視界に映り、再び【引力+ブーストを発動】した。


 足元に行き着くまでの僅かな時間で、手元に【MP全回復の魔法瓶を召喚】して、強引に飲み干した。


 そして、【火球を発動】し、目も開けられない程の爆風と共に燎原の如く燃え盛る炎が包み込んだ。

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