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ステータスブレイク〜レベル1でも敵対勇者と真実の旅へ〜  作者: 緑川
番外編

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第四話 避難と非難

 黄昏色の夕陽が沈んでいくとともに村人達の往来が激しくなってゆき、闇夜が大地に広がっていく。


 中には懐疑的な意見を零す者や、他の追随を許さぬ支持を受けるかのレグルスと比べる鋭い讒謗に突き刺され、己でも想像に難くない引き攣った笑みを浮かべながら、ただがむしゃらに人々の恐怖と怒り渦巻くやや遅れた避難誘導の最前線に立っていた。


 だが、全ての決定権を掌握する村長ら夫妻は、一向に立ちあがろうとする気配も姿も見せずにいた。


 ……俺の真実を唯一、知っているであろう存在。


 裏切り者の俺が今更、どんな言葉で見繕うとも決して聞く耳を持たずに不動の精神を貫くのだろう。


 今度は本当に誰かが死ぬ。


 また俺のせいで。


 心の底で目まぐるしく荒ぶっていた、漠然とした恐怖の片鱗の正体が露わとなったような気がした。


「アクア」


「何?」


「すまないが、此処を頼めるか?」


「えぇ、それは良いけど……どこ――。そう、行くのね。でも気を付けて、もう時期、陽が沈むから」


 察しが良い上に気遣いも出来る聖女に救われ、俺は「私も行くよ!」物憂げな表情を浮かべたマリとともにこちらの不安を掻き立てながら、足を運ぶ。


 そして、訪れる。絶えず胃酸の込み上げる沈黙。


 静寂に包まれた暗闇の客の間で燦爛とした焚き火の薪が燻り散っていく乾いた音ばかりが響き渡り、その炎を囲う地面に正座を組んで、徐に息を呑む。


「……」


「……」


「……」


「――」


 誰一人として果てなき沈黙を破ろうとする者はおらず、ミラさんだけが炎に照らされながら静かに微笑んでいた。いや寧ろ、皆が俺の選択を待っていた。


「ぁ」


 閉ざされた道を切り開かんと第一声を発するも、鋭く研ぎ澄まされた眼差しが忽ち瞳を突き刺した。


 再び、静寂。


「あの!」


 それでも尚、無謀にも関門へと突き進んでいく。


「何だ?」


 抑揚の死んだ冷徹なる返し、だが当然の仕打ち。


「本日の真昼頃、このアスター村付近の森林地帯で神獣の群れを発見し、即座に威嚇及び攻撃などの敵意を確認しましたので、村民の避難の決定意志を」

 

「――その証拠は何処にある? お前が神獣の群れを目にしたと云う定かではない情報を鵜呑みにし、《《また》》我々を危険に晒すつもりでは無いのか?」


「い、いえ」


「前例と重なる現在の事象。虹龍往来から逸れた龍の一群に遭遇し、近隣の村々に被害が及ばぬようにもと、皆の避難を促していた過去とよく似ている」


「……」


「貴様以外に目撃者が居ない上に、奇跡的に一匹の神獣を駆除したと云っていた骸も現存していない」


「お父さん! それは駆け付けてきた仲間から逃げるのに必死で、そんな事を考える余裕が無くてっ‼︎」


「ほう」


「それに、コリウスのこの腕だって」


「お前、気が変わったのでは無いだろうな?」


「えっ? 何、言っているの?」


 マリはその鋭い舌剣に顔面蒼白に染まっていく。


「他者の心を惑わす魔術の類か、あるいは――昔馴染みからの同情……レグルスを捨てたのではない」

「それは違います!」


 流れを強引に打ち消そうと飛ばした怒号が激しく焚き火の炎を戦がして、皆を瞠目させてしまった。


「ぁ……いぇ」


 どうやら俺は、無意識のうちに口走ってしまっていたらしい。


「何故、お前が云う?」


「つい感情的になってしまい」


 本来の目的とは異なる形で赤裸々に心情を吐露し、何故か寡黙のミラさんは蕩けてしまいそうなくらいに溢れんばかりの満面の笑みを浮かべていた。


「兎に角、指示を」


「駄目だ」


「何故!」


「二度、裏切らんとは限らないだろう」


 アザミさんは言葉を濁さず、一直線に突き刺した。

いつまでも己を誤魔化し続ける俺の心を容赦なく。


「……」


 その一切の偽り無き吐き捨てられた台詞に、偽善者にすら成れぬ俺は返す言葉を無くしてしまった。


 茫漠とした脱力感に見舞われ、焚き火へと俯く。


 ゆらゆらと燃ゆる、暖かな炎。それはまるで分け隔てなく人々の心を癒すレグルスのようであった。


「ずっと憧れていたんです、彼に」


「何?」


「誰よりも優しくて、強い。それでいて驕らずに、正しく勇者その者のように皆から愛される存在――けれど、同い歳で何も成す事も出来ずに生きてきた平凡な俺からすれば、それは絶え難い苦痛でした」


「ただの嫉妬か……」


「はい、本当にそれだけだったんだと思います。彼の前では笑えるような不幸話や少しばかり不謹慎な話題も、私達の叶えもしない夢を抱く事さえ許されず、いつまでも完璧超人の遠く及ばない背中を追い続けなくてはならない。正直、それが死ぬまで続くと思ったら、恐怖しかありませんでしたよ。俺が唯一、他人に誇示出来るのは若い頃に勇者の傍にいれた。一番の不幸が人生で最も語り継がれる思い出です」


「……」


「彼と出逢ってしまった時点で何もかも奪われた」


 そっとマリを一瞥する。


「そう何度となく思ってしまいました。それがいつしか良からぬ考えに進んでゆき、気付けば、あのような許されざる過ちを犯す一因となっていました。ハッ、まるで自分が被害者みたいな語り口ですよね。こんな奴、絶対他に居ませんよ……ホンット馬鹿みたいだ。ずっと彼との出会いが不幸と思っていたことが俺の最大の過ちだったなんて。他人から、それも、裏切った相手に気付かされたんですから」


「……」


「けど、今でも嫌な思い出として残り続けると思います。でも、それでもあの道を進んだことを後悔して、後悔したまま大切な人たちを死なせて、終わりたくないんです。だから、どうかお願いします……。俺を親友と呼んでくれた彼との大切な誓いなんです」


 三度、重苦しき沈黙が訪れた。


 そして、それは破られる。


「これで全てが晴らせると思ってはならぬぞ」


「……っ! はいっ」


 その瞬間、どうしようもなく目頭が熱くなった。

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