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第四十三話 虹龍と異邦人。そして、幽閉

「その割に、随分と高圧的じゃないか」


「口を慎め! 下郎めがッ。王の御前で在るぞ!」


 誉高き勇者である俺に、それを口にするとはな。あの白髪、別の仕事に転職した方が良さそうだが。


「あぁ、私自身望む道筋では無かったからな……。これは所謂、やむを得ん事故のようなものだ」


「その言葉で片付けられるような仕打ちでは無い」


「――――無き我が右腕よ、そう事を荒立てるな」


「……まぁ良いさ。本題に入ろう」


「貴様ァァッッ! 私の言う事が聞けないのかぁ‼︎」


「元傭兵団、リベル騎士団が此処へ向かっている。その目的と始まりの場所、東大国の辺境の村――貴様なら皆まで言わなくとも解っているのだろう?」


「これが最後だ」


「歴史も知らぬ部外者は黙ってろ」


「貴様ァッ! 言わせておけば!」


「やめておけ」


 さながら水面をなぞるように心をかき乱されてしまった白髪は王の御前でも平然と刃を向けんとし、無駄に強面で無骨な狂気を孕んだ面を露わとする。


「もし此奴が命を賭して我々に挑めば、一夜でこの国を滅ぼした異邦人には到底及ばぬ僅か数分でこの国と民は塵と化して、地図上から姿を消すだろう。それを――たかが、一般兵如きが口を挟むでない」


 ようやく赤裸々に心情を吐露してくれたお陰で、平和ボケした可愛らしい新兵たちに戦慄が走った。


「も、申し訳ありません」


「席を外せ」


「し、しかし!」


「聞こえなかったのか?」


「は、はい」


 鋭い眼光に易々と気圧され、早々に皆がその場を後にして王と俺のみが残り、重苦しき静寂が続く。


「何故、戻ってきたのだ? リアよ」


 その喋り口調はまるで旧友に語るようであった。


「……やり残しだ」


「では、あの延長戦ということか」


「そうなるだろうな」


「全く、貴様の要らぬ甘さには熟、反吐が出る」


「奴ならば、深海に沈めようとも這い上がって来たさ」


「戯言はいい。如何に穏便に対処し、事を速やかに終わらせるか。今はその段階に移っているのだぞ」


「先ずはリベル騎士団の始末だ。貴様のことだ。どうせ既に各国から兵を動員しつつあるのだろう? だが、甚大な被害を恐れて、決断を下せずにいる。ならばその命は我、リア・イーストに下すと良い。所詮は、替えの効く、忠誠心も覚悟も無き右腕だ」


「ほう、それで今回の件を帳消しにしようとな?」


「俺達の身の安全の為にな。そして、これは、その確たる保証として提示させてもらう。万が一、我々の一人でも欠けるような不測の事態が起これば――この大国パクスに、虹龍を招くこととなるだろう」


「それは私に対する脅しか? それとも交渉のつもりか?」


「好きなように捉えてもらって構わない」


「……」


 狐疑逡巡。で、あって欲しいものだ。


「良かろう。その旨、頂戴する」


「そして、異邦人の捕縛の助力を願いたい」


「それは新たなる瞳と関係があるのか?」


 王の僅かな微差を捉える慧眼さとともに現代世界にも匹敵するであろう情報網に俺は一驚を喫した。


「あぁ」


「その謎のステータスとやらと、瞳も同様に大変興味深いが、二度と同じ業を繰り返すつもりは無い」


「……あぁ」


「過去に虹龍の往来ルートを4代目勇者が卑劣の技を用いて、不可思議な技法で魔力の波を把握し、本来の道筋からかけ離れた敵国へと流したそうだが……貴様の宣う手段とは、その模倣と言ったところか」


「ご名答」


 完全に流れを掴まれているな。


「貴様が異邦人を毛嫌いする理由は、身に染みて解っているつもりだが、リスクを恐れるあまり他を排斥する道筋を辿れば、同じ歴史を繰り返すだけだ」


「ほう……言うようになったではないか。出逢った時から他者に興味を持たぬ貴様が、それ程までに其奴を救いたい理由。それをこの場で、述べよ――」


()はただ、似ていると思ったからだ。過去の自分に」


「郷愁に駆られた故に面影を重ねてしまったのだろう。故郷に執着する心を制御出来ぬだけに過ぎん」


「あるいは、そうかも知れない」


 静寂。


「久しいな、記憶を遡るのは」


「……?」


「過去の私が言ったように、あれらは貴様が自らの意思で選んだ選択では無い。国がそうさせたのだ。だが、貴様の希う其奴の利己的な救済は、恐らく本来の望む意志とは相反するものにだろう。それでも己が欲求を満たしたいが為に再び、死を招くか?」


「……ぁぁ」


「其の野心は一国の滅亡の域では留まらんだろう。獰猛に残忍で冷徹な怪物。足枷があるとは言え、貴様が取り逃すのならその程度、造作もないだろう」


「……」


「貴様を英雄として仕立て上げるのに長き歳月と膨大な費用に夥しい数の人員を割いてきた。無論、その選択に一切の後悔などありはしない。だが、彼奴は違う。我が国に牙を向ける不届者には罰を下さねばならん。遍く人々の平穏を享受させる王として」


「そう、だったな」


「貴様は誰だ? 我は東大国パクスの国王陛下ウォンリー・ボタンぞ! 今一度問う、貴様は誰ぞ!」


 数多の感情が目まぐるしく脳裏を駆け巡ってゆき、その場から決して動く気配を見せなかったが、その一言に無意識のうちに片膝を地に突き、跪く。


「我が名はリア・イースト――東大国パクスの国王陛下に支えし、崩壊した秩序と平和の再生に大きく貢献し、魔王を討ち滅ぼした9代目勇者にあります」


「もう全ての事柄は今終えた。下がれ」


「ハッ」


 緩慢に踵を廻らせて、ただ影の翳した暗闇の視界で地面を見つめながら、鉄塊を引き摺るかの如く、望まぬ道へと振り返る事なく歩みを進めていった。


 その俺にトドメを刺すように、最後の言葉を告ぐ。


「正しき選択を、道を違えるなよ。あの時のような過ちを二度と繰り返さぬようにも……」


「あぁ、解っている」

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