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第四十一話 絶望の夜明け

「――以上だ」


「……」


「もう時期、夜明けだ。この話もそろそろ終わりに」


「俺の家族は、あの日の夜に殺されました。リベル騎士団の者達も、血の繋がらない兄も、貴方も。そして、あの襲来者でさえ……大切なものを失った。今の貴方が他者を憚る事なく横暴に振る舞うのも、我が兄が戦士として最後まで戦って名誉などと云う身勝手な死を遂げる事を恐れ、己の心身を守る為の無意識に働く自己防衛の一瞬なのかも知れません」


 水縹なる空色が次第に広がっていくとともに10代目がロケットペンダントを緩慢に握りしめながら、苦痛に顔を歪め、痛みを乗せて言葉を連ねていく。


「もう二度とあんな惨劇を繰り返したくない……。だから、どうか――勇者としてッ! 貴方の本当の力をお貸しください。こんな俺の為、腐り切ったこの世界の為、貴方の愛する純粋な村の人達の為に」


「言われなくとも、わかっているさ。わかってる、つもりだ」


「あの!」


 傍に静電気を浴びられたかの如く激しい寝癖が際立つ姿とは相反するような厳かな面持ちを浮かべ、周囲の空気を凛と張り詰めさせ、歩み寄っていく。


「どうした? まだ眠っていた方が……」


「わかってるんです。私がただの足手纏いって事は。きっと――どれだけ極めたって御二人には到底及ばないだろうし、戦いでも役に立たないって。でも、それでも! 自分にできることをやりたいんです」


 徐に拳を握りしめながら唾を呑み、泰然と宣う。


「私に魔法を教えてください!」


「……」


「……」


 唐突の意気込みに、妙な空気が漂ってしまった。

頻りに本当に人形さながらな10代目と目を交わし、仁王立ちして返事待ちのベリルへと戻すの、往復。


「あ、ぁぁ。元から、そのつもりではあったんだ」


「でも、才能の無い人間には無意味と」


 聞かれていたのか、そして、気にしていたのか。寝ているとは言え本人の前では、完全なる失態だ。


「過酷な訓練にも耐えられる自信があるのか?」


「はい!」


 意気揚々と即答するベリル。その最中に淡々とアイテムボックスの中から壊れた代物を漁っていく。


 そして、適当なる存在を視界が捉えてしまった。


【ルビーの欠片を召喚しますか?】


 あぁ、頼む。


【ルビーの欠片を召喚】し、手元には、粉々に砕け散った騎士の剣の装飾であった頃の光が失われた、石にも等しい色褪せた存在になってしまっていた。


「これを頭の中で想像し、無詠唱で修復してみろ」


 両手で受け皿を作って待ち構えていたベリルが、丁寧に欠片一つ落とさずそっと掬い上げ、目を瞑る。


 そして、一瞬にしてその失われた視界は舞い戻る。


「どうした?」


「やり方がわかりません」


「あぁ、そりゃそうだ。悪い悪い。じゃあ、先ずは座ってくれ」


「はい」


 そっとその場に腰を下ろし、熱き視線を向ける。


「この修行の大切な点は主に二つ――想像と創造。頭の中で出来るまで修復された宝石をイメージし、体内に循環する魔力を意識的に胸から肩先、腕から手首に、そして、指先へと流して、魔力を注ぎ込む」


「……? それだけですか?」


「言うは易し。やってみると案外難しいもんだ」


「わかりました。じゃあこれが終わったら、ちゃんとした《《魔法》》を教えてくださいね!」


「あぁ」


 そうしてベリルは、研ぎ澄まされた神経と頑として揺らぐことの無い意識を、宝石に注いでいった。


 そして、10代目が囁くように耳打ちをしてきた。


「あれは治癒魔法の練習では? 彼女が望むのは」


「これから先、最も汎用性の高い魔法だからな。覚えて損は無いだろ」


「ですが、万が一、知ってしまったら」


「その時はその時だ」


「ハァ……」


 そして、燦々たる陽光が周囲を覆い尽くしていた陰鬱に黒洞々たる闇夜と暗い影は颯と晴れてゆき、暖かな日差しが背中を突き刺していた。


「それよりもこれが最後の日の目かもしれん。よく拝んでおけ」


「はい……」

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