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ステータスブレイク〜レベル1でも敵対勇者と真実の旅へ〜  作者: 緑川
蛇行する王位継承戦編1日〜3日
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第二十三話 決着

 背後から身の毛のよだつ突き刺されるようなオーラの波が体に纏わりつきながら、背を追っていく。


【アイテムボックス欄に危険物質が現存しています。現状維持のステータスの常時付属効果によりアイテムボックス収納中は爆発しませんが、取り出す際には最大限の注意を払ってください】


 あぁ、ご忠告どうも。


 鈍った体に毒なる魔力を全身に巡らせてしまったせいで、心臓近くの臓器が絶えず悲鳴を上げていて、唯一の好機を前にしても歩く事さえままならない。


「ハァ……はぁ、はぁ」


 襲来者は徐に振り返り、何処からともなく取り出した【ソウルランタン、兵士の魂を取り込んでいます】を手に握りしめ、床に円を描いて放り投げた。


 その瞬間、目にも留まらぬ速さで背中から髪を靡かせる突風とともに傍らを何かが通り過ぎてゆき、地に触れるスレスレで颯と掬い上げた……10代目。


 雄々しく広々とした背中に隠された面差しが鬼気迫るものへと変貌しているのは、想像に難く無い。


「奴で、間違いないですね?」


 俺を視界に捉えても尚、鋭い眼差しが一瞥する。


「あぁ……そうだ」


 不思議と拳には震わせるほどに力が籠っていた。

ただ瞬く事なく地に目を向け、茫然と俯くばかり。


 もう見たくない。


 それすらも絶え難い苦痛で、1秒が1時間のように感じる時が過ぎ去るのを、心の底から祈り続けた。


「すみませんが……これを持っていて貰えますか」


 鬼さながらの怒気の籠りし一言は、足手纏いを遠巻きに貶すかの如く、自らの背に俺を覆い隠し、そっと手渡されたソウルランタンは蒼き炎はまるでランタンを叩くように幾度となく揺らいでいて、アイテムボックスに収納するのを躊躇いつつも入れ、緩慢に大剣の柄を握りしめて、苦しき静寂が訪れる。


 そして、数メートルもの距離の空いていた筈の二人の間に囂々たる金属音と燦爛とした火花が迸り、己を中間地点として背後の小石と襲来者の足元に、煌々たる一条の光芒が広がってゆき、完成された。


 襲来者は忽然と眩い白光に包まれた肉体が次第に黒きローブを身に纏いし黒々とした体へ舞い戻り、10代目はそのまま流れるように刃を振るわんと振り返ったが、僅かに早く手元に召喚された短機関銃。


 疾くに引き金を引くとともに矢継ぎ早に降り注ぐ、禍々しき輝きを見せる無数の弾丸の雨に、目を見開く10代目は為す術も無く身体中を穴だらけにされ、純白たる身に纏いし鎧と靡く外套を鮮血に染めた。


 俺はそれをただ、傍観することしかできなった。


 自然と苦痛に顔を歪めた時、身を貫いても勢いが死なずにいた僅かな雨垂れは突然、虚無に弾かれた。


【ステルスの模倣】


 それは颯爽と姿を現した。


 眼前に盾の如く氷灼の双肩の氷の片割れを翳す。そして、ただ立ち尽くす愚かな俺に目配せをする。

それはまるで、脅迫に等しき命令を下す目つきで。


 その生意気な姿に俺は徐に顔を上げた。


【鎖矢の弓】


 鎖状の矢を弓にギチギチと音を立てるまで番え、無防備な襲来者の背中を目掛けて息を呑み、射る。


 だが、綺麗に身を捩って矢を避けてしまう――も、抜け目の無い10代目がすかさず叩き落とした。


 飛ばされた一矢は大地にぶつかる。一驚を喫しつつも冷静に低空に跳び上がった足首に繋ぎ留めて。喉笛に迫った刃を寸前で掠めて躱したが、黒きローブの一部ごと腕と緋色の鮮血が宙に舞い上がった。


 だが、決して微かな呻き声を閉ざされた声帯から放つ事なく、欲張りに首を刎ねんとした第二撃目の刃を【アサシン特殊スキル、蜃気楼が発動】され、霧を切り裂くように風切り音を立てて、空を切る。


 気付けば奴は、俺の背後に佇んでいた。


 振り返らんと視線を後ろに向けようとしたが、背中に鋭い衝撃が走って、10代目の元に飛ばされた。仰け反りながら眼前へと迫っていく俺を10代目は、緩やかに突きの構えで喉を捉え、刃に手を添える。


 絶えず付かず離れず付き纏う黒き影のせいなのか、その瞳には一切の迷いがないまま突き立てる。


 何かをする素振りさえ見せず、そっと目を瞑った。


 けれど――まだ終わりを迎えることはなかった。


「っ?」


 再び真っ暗な現実に返り咲けば、更なる臓器が飛び出るような衝撃が襲い、10代目と体を交わした。


「うっ……!」

「チッ‼︎」


 そのまま分身に先に地上へと向かわせ、何事もなく燦々とした明るみに包まれて、続くように襲来者は血を滴らせながらも一刹那に通り過ぎていった。


「ど、退いてください‼︎ 奴が逃げます!」


「あぁ、わかってる!」


 気合いで体を持ち上げ、10代目とともにめまいのする外に出た先、遍く人々に覆い尽くされた街道。


 凛とした一本の氷の針さながらの槍を傍らに創生し、額に冷や汗滲ませながら忙しなく周囲を見回す。


 俺はほんの一瞬で、黒きローブを霧散させていく哀調を帯びた背を見つけ、10代目に目を泳がせた。


「居たぞ」


 その一言に心なしか嬉々として振り返り、俺が向く視線の方向へと鋒を巡らせ、凄まじく回転する。


「スゥー……」


 静寂。


 騒然とし始める周りの者たちや闘技場から響き渡る歓声の嵐、己の動悸と荒々しい息も掻き消され、回転がピタッと止まった瞬間、弾丸の如く放たれる。


 無造作に乱雑に入り混じり、一縷の隙の糸でさえ見えぬ人混みを、花よりも蝶よりも丁重にすり抜けていき、心臓に位置する背中をドンピシャで貫いた。


 重苦しく想像を絶する激痛であろう衝撃で、体を強張らせて身を僅かに浮かせ、そのまま大地に臥す。


 それでも、嫌な予感が消える気配は毛頭無かった。


 掌が巡らす、悍ましき紫の魔法陣が広がっていき、皆の視線が大地に集められた時、眩い光を灯した。


 言わずもなが、互いの視線が交差する。


 間。


 そのまま未だに地面に突っ伏したままの襲来者に目を向けたが、俺は途中から傍らの仲睦まじい家族に視線が持っていかれ、少女の小首を傾げる姿が、無意識のうちに勢いよく片腕を振り上げるとともに「俺がやる! 構わず行け!」そう怒号を飛ばして、【肉体吸収を発動】掌を地面へと叩きつけた。


 虹龍の大地をも貫く雷を受けた以上の衝撃が走り……俺は初めて、三途の川を目の当たりにした。


 フッ、腐った世界より何千倍も綺麗だな。


 まるでエデンの園。


 透き通った激しき波を打つ川に一様に靡く草花、体を絶えず襲う、痛みも苦しみも辛さも感じない。そして……今までに無いくらい晴れやかな気分だ。


 ただ振り返る事なく、前へと進んでゆく。


 川の先へと――剣と共に。


 ……剣?


【騎士の剣。亡霊の加護――発動】


 なん、で?


 ルビーは打ち砕かれた。


 そしてまた目が覚めてしまった。天から地へと。


 両手がガラ空きな10代目を前面に押し出して……。

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