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ステータスブレイク〜レベル1でも敵対勇者と真実の旅へ〜  作者: 緑川
蛇行する王位継承戦編1日〜3日
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第二十二話 地下の銃と魔術の攻防戦

 名も無き兵士の血の枷を【引力を発動】し、颯と手元に引き寄せるとともに息を呑みながら飛び出す。


 絹のような薄い一枚の汚濁の水を張ったような空間の歪みを抜けた先、急に視界が開け、瞠目する。

 襲来者が逆さにして水平二連式散弾銃を肩に添えたまま、片方の銃口から燦爛たる輝きを俄かに灯すと同時に空間を抉り取るかの如く轟音が放たれた。


「っ⁉︎」


 咄嗟に低空に跳んで身を退くが、運悪く歪みの狭間に生じた僅かな段差に踵が引っ掛かってしまい、気合いで体を壁の影へと傾げながら、地に倒れる。

ジンジンとした尾を引くであろう鈍い痛みが半身に響き、「ウッ!」と、小さな呻き声を上げながら、血に染まった石の床に手を突いて、体を起き上がらんとした瞬間、幾度となく瞬く視界に捉えた弾丸。紅く黄金色に鋭く煌めく筒状のショットガンの弾。


 虎視眈々と罠に掛かった獲物を待ち侘びた其が眼前に、そして緩慢に壁伝いに這って来る紫紺を帯びた一条の光芒と繋がり、次第に魔法陣が紡がれる。


 眠りにつくよりも、瞬く間よりも、僅かに早く、死の炯々とした光の雨が囂々たる音とともに迸る。


 刹那。


 自らの掌にせり出したのは紫紺の陣では無く、鈍色のジャジャラと煩わしき音を立てる鎖であった。

天井に血の枷を【形状変化】で異なる枷へと変えて繋ぎ留め、重く感じる体躯を引き上げようと、のけ反っていく背中に踏ん張りを効かせ、立ち上がる。


 銃声は背を掠め、皮膚を抉り取る程度であった。


「ハァ……ハァ」


 心臓が鳴らす早鐘が全身に隈なく響き渡り、奇しくも生命線となった鎖と掌は小刻みに震えていた。


 だが、奴の殺意は未だ止まる所を知らずにいた。


 俺の微かに霞泳ぐ視界の傍らに映りしもう一発の弾丸に巡りし紫紺の魔法陣が今、綺麗に完成した。


「あっ……」


 振り返る間も無く、再びの眩い鳴動が降り注ぐ。


 そう易々と二度目の罠をモロに喰らう訳も無く、軽やかに道へとステップを刻みながら飛び出して、踵を流れるように廻らせ、淀みに身を投じていく。


 黒き水門を抜けた先の視界に映るのは、壁の端にほんの一瞬朧げな黒きローブの切れ端が靡く姿と、突き当たり中心を駆けていく襲来者の姿であった。


 ……遅い。


【引力を発動】し、枷をナイフへと【形状変化】しながら刹那に手元に舞い戻らせ、徐に握りしめる。そして、突き当たりに差し掛かった瞬間、次なる一歩を踏み出さんとする足に即座にブレーキを掛け、壁の影に後ずさるとともに眼前に弾丸が過ぎゆく。


【左手を水龍化します、脱水症状に注意して下さい】


 身体中の全ての液体が引き摺り込まれるような不快感と脱力感を掻き立てながら、虎視眈々と待ち伏せしている分身であろう襲来者の元に向かわせる。


「動くな!」


 俺の最終忠告にも、耳を傾けることはなかった。


 なら――。


 激しく弾け散る水飛沫を浴びて幾らかの不快感が抜けていくが、妙な気怠さを依然として纏ったまま、ナイフの鋒を三本指の第一関節で抑えながら、重鎮たる厳かな振る舞いでやはり立ちはだかった襲来者の喉元へと手首をしならせ、雑に放り投げる。


 骨をすり抜け肉を貫く音を立てて綺麗に命中し、新たなる弾を込めんとしたまま大地へと倒れてゆき、分身の黒きローブによって覆い隠されていた、本物の襲来者の逃げゆく背中をようやっと捉えた。


「邪魔だ」


 その分身を躊躇なく踏み躙って、短剣を新たなる供給源の血液を糧とし、【鮮血の剣を作成】した。


 そのままアイテムボックスから已むを得ずに【MP全回復の魔法瓶×1を召喚】して、手に取り、歯で蓋を外して口に咥え、両方の歯で噛み締めながら、決して瓶が空に渇いた器官に強引に流し込んでいく。


 燦々たる光明が差す階段に足を載せんとしたが、間髪入れず天に差し向けた掌を大地に押し当てて、【石壁を召喚】し、床から忽然と壁がせり出した。


 出口無き狭き一本道。


 螺旋・鳳仙花の術……ッ!

 仄かに赤みを帯びた無数の鱗粉が螺旋状に泰然と仁王立ちする襲来者の元に卒爾に駆け巡っていき、矢継ぎ早に【異龍・放線終・雷火を発動】させる。

その最中、無駄に細かな面倒な印を両手で結び、結黄金色に煌めく雷が壁と床伝いに満たされてゆき、喉から燃え上がる赫赫たる焔を含んだ大息を噴く。


 そして、【形状変化を解除】して、道を覆い尽くす燎原とした紅焔に多量の水分を放ち、【フルフェイスを召喚。視界の70%が遮断されます】と、最悪な視野で自動的に身に纏うとともに勢いよく爆ぜる。


 聞く耳を持たぬ者に鼓膜は不要だ。


 サイレント。


【サイレント発動】


 忽ち眼前に押し寄せる突風と焔の波が霧散する。


 っ!


 耳がキーンと鼓膜まで鮮烈に響き渡り、視界が二つの意味で朧げになりながも額を抑え、目を凝らす。


 全ての魔法が霧散し、互いの全貌が露わとなる。


 何っ⁉︎


【フルフェイスの完全下位互換の改造版によって、レグルス様の全ての攻撃魔法が無効化されました】


 は?


 それは己を庇護する盾として召喚したのか、あるいは――俺に対する……そんな想いを馳せていたら、ただの素手で振るった一打が壁を打ち砕き、こちらをじっと注視する一瞬の間を置き、奥へ進む。


 ただ前へ、進め。


 そう全細胞に呼びかけた瞬間、【相手の魔術により、重力が加算されます。周囲の建物や障害物に注意してください】その忠告が俺を眼下へと向かせる。


 ぁっ⁉︎


 フルフェイスのデバフのせいで視界が閉ざされ、完全に見落としていた地に仕掛けた最後の切り札。


 踏み抜く床には仄かな膨らみを帯びた円形の鉄板が幾度となく赫赫たる光の点滅を繰り返していた。


【アサシン特殊スキル、ステルスの共鳴が発動中。魔力を消費して、強制的にスキルを解除します!】


 これは、特製の地雷っ……⁉︎


 そして、案内から絶望の言葉が告げられる。


【魔力が完全に枯渇しました。一切の庇護の魔術、加護の魔法及び、魔法陣が使えなくなりました】


 僅かな思案を巡らす隙さえも与えず、鼓膜を突き破る音と暴風、そして煌々とした光に包み込まれた。

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