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第一話 勇者たちの招宴

【世界史の一部抜粋、クライスター星歴00年から勇者は存在しました。初代の死亡記録が13年。それから呪いとも呼べる悪魔の数字で勇者は次々に世を去り続け、世界から勇者式典から魔力災害で予言等を構築しています】

【魂の混濁を検知しました。精神の浄化にMP : 2000消費。即効性、効果発揮まで数秒。アサシン専用武器 ゴーストナイフを自動装備】


 背を壁として密かにナイフを握りしめる。


「やはり異邦人か」


 心なしか鬼気迫る形相を浮かべ、外套で覆い隠していた片腰の双剣の柄を掴み取った。


【浄化が完了しました】


「フゥゥッーー……! ――流石は排他的な世界から選出された高慢勇者だ。差別主義者の象徴たる台詞ばかりを吐き捨てるな⁉︎」


()()()()()()()()()、だが、そうだな。猿でも伝わるよう言うならば、これは差別では無く、区別だ。本来あるべき貴様らの存在を今一度、再確認させる為の手段に過ぎない」


「本当に口だけは良く回る奴だっ‼︎」


「だけかどうかは、死して確かめるがいい」


 偽物は悠然と大地に大剣を突き立てて、携えていた二本の丹碧の双剣の鞘を颯と払う。


 燦爛たる赫と清澄なる蒼き二つの魔法陣が、本来の魔法のルールを介さず、ただ空気が遊泳するばかりの宙を緩やかに巡っていく。


 片手剣の長さを誇るも順手と逆手で握りしめ、自らの胸部に十字を翳すかの如く、其々を同系統の数の異なる陣に差して、俄かに燎原の如く燃え盛る紅き炎と皮膚を突き刺すかのような凛とした碧き氷を、その刃に纏う。


 あれはノース家、伝統の宝具。やはり北のそれも大国の王直々の命令か⁉︎ 何故、今更。


【北大国の伝統の宝具。元所持者=当代兄】


 捨て猫みたいに同情を誘わせる代物だな。


 互いに不安定な感情を激しく掻き乱しつつも、其々の優位を限りなく保とうと見え透いた虚勢を張るお陰で、依然として武者震いが心身共に伝わる刃を交わす気配が無かった。


 赤が二枚で青が四枚か、どうやら宝具だけに何かしら種がありそうだな。こっちはもう何年もまともに刃を交わした覚えが無いというのに……まるで容赦が無い。流石に腕の一本くらい、覚悟しておかないといけないな。


【アサシン専用スキル 特殊能力、隠蔽スキル。光学迷彩のステルスを使用。五分毎にTP : 1を消費します。全消費で約二時間持続可能】


【ステルス使用中 他の全魔法が使用不可能】

幾度となく脳裏を駆け巡っていく煩慮の念とは対照的に心の何処かで燃ゆる、ほんの僅かな高揚を抱きながらも奥底へと仕舞い込む。


 先手必勝。


 卒爾に眼前に迫る勢いで駆け出し、限りなくコンパクトに首筋目掛けて、刃を振るう。


 しかし、「律せ」

解り切っていた種明かしで片眼を透視の魔眼に変換させたのか、本来ならば、ただの虚無である筈の場に躊躇いなく剣を振り翳し、兜の隙間から煌々たる鋭き眼光が垣間見える。


 それでも俺の刃が一手の差で捉えていた。目と鼻の先に添えた盾の刃を綺麗にすり抜けて、鋒が喉笛を突き立てる一瞬、視界にチラつく足元に煌々たる白き魔法陣が忽然と出現し、紙一重で致命傷の攻撃を躱しやがった。


 チッ!


 そのまま数メートルもの大袈裟な距離を取って、怪しげに片手を空けながら俺に悟られぬようにと周囲に隈なく目を凝らし始めた。


「貴様に大義は無いのか?」


 これ以上、長期戦に持ち込まれた厄介だ。TPの消費も抑えておかなければならないし、仕方ない。身体を研ぎ澄ませるのが先決か。


「あったさ、前まではな」


【アサシン専用スキル 光学迷彩のステルスを解除します――運の良さが30低下しました】


 今の俺には、どの武器が似つかわしいか。


【魔力削減 一時的に武器紹介を消去します】


 ▶︎マプクトゥル

  ユニキュプル

  リベアルプト

  ヲスト


 不味いな。


 玄人向けの高価な工芸品ばかり残したのは却って、自分の首を絞める羽目になったか。


「束の間の平穏さえ享受できずにこの世を去った、まだ齢五つにも満たぬ子どもたちを弔う為にも、惰性で不相応に幸福を貪る貴様を此処で殺すッ! 殺さなくてはならない!」


  アトランダム

 ▶︎アサシンダガー

  クリスタルアックス

  サラマンダークロー

  トリッキーポット

  ノースクレイム

  

【アサシン専用ダガー×アトランダム(絢爛豪華な贅沢棒)に決定】


 久々によく馴染んだステッキを握りしめ、軽やかに大道芸ながらに宙に回し投げて、魅入られる優雅な燦爛さを放ち、全を穿つ、黒洞々たる闇夜に呑まれ、再び掌へ返り咲く。


「どうやら勝利の女神は、今日も(こちら)側の味方をしてくれているようだな」


 身を捩れんばかりに振りかぶり、繰り出す。


 一刹那、黄金を帯びた一条の稲光が迸り、雷鳴が轟くかの如く衝撃で空間を抉り取る。


 それは世界の核へと届くまで。であったが、真実に飢える獣の身はおろか、勇者様々の鎧に傷一つさえ傷付かず弾かれてしまい、【標的による略奪の恐れあり。アトランダム(絢爛豪華な贅沢棒)を回収しますか? MP : 50を消費をします】


 あぁ、頼む。


【自動でアイテムボックスに収納しました】


【ノース家から輩出された勇者の鎧は尊敬の意からの――あるいは、民への強制で吸収変化式全身鎧で一定数のダメージを受けると、その能力に対する耐性強化と破損領域のみ放出し、色彩なども魔力による影響で微かに変化します。バフ&デバフは鎧のみが受けます】


 鋼鉄無比なボディに残滓が絶えず突く中、変わらぬ姿に野郎は沈黙を貫いたまま、コツコツとやって、案内通りにオーラを纏った。


 不意に泳ぐ【眼球から???の住人の魂を感知】し、無意識に深淵を覗いてしまった。


 泰然と仁王立ちし、「何か、やったか?」


「よく、喋るな」喉奥から声帯を躍らせた。


 猛毒を秘めしナイフを握りしめてじわじわと躙り寄りつつあるが、離れていた俺目掛けて地面スレスレに氷の刃を振るい、微力な氷塊の棘が眼前へと迫っていくが、容易に躱す。


 意外と威力が弱い、レプリカだったのか?


 そんな弛んだ思考が馳せ、宙に飛び散っていた氷塊の破片を含んだ水飛沫を避ける事なく甘んじて体に浴びた瞬間、忽ち、氷結がナイフを握っていた半身を覆い尽くしていく。


 ⁉︎


 氷塊は容赦なく身体の感覚を奪っていくとともに振り上げんとした刃の頭上には呼んだかの如く氷の魔法陣が出現し、戦闘で初めて目にするであろう物理的に叩き切り、半身に息をするのさえ忘れてしまう痛みが走った。


「ッッ‼︎」


【多量出血、多量出血 強制的にヒール強 MP : 700を消費し、体の一部に発動します】


 忽然と濃い緑光が裂けた体を覆い尽くして、立ち所に捥げた凄惨言い表せない腕を治癒するも、第二陣の攻撃は既に迫っていた。


 遅効性、あの二枚重ねはそういう意味か。


 紅き炎を纏う刃を水平に振るい、俺たち二人を囲うように打ち水さながら弧を描いて振り撒かれてから直様【テレポート×ブースト総MP : 100を消費】しての脱却を試みるも、それは意志を帯びる檻となって逃げ道を閉ざす。


 奴の矢継ぎ早の猛攻撃は止まる所を知らず、気付けば分身とも言える新たなる偽物を酸素をも焼き尽くす程の黄炎で生み出し、刃から放出した白き焔で龍を顕現させて、繰り出す。


 俺はすかさず掌から掬い上げるように凛とした【冷風 MP : 30を消費】を送り出し、塵も残さぬ矛先を頭上へと逸らしたが、白龍は依然として勢力の収まらないまま眼前へと。


【スフィアスシールド MP : 2000を消費し、召喚。常時、酸素供給 MP : 100を消費】


 幾多ものガラスを繋ぎ合わせた蒼く狭き球体が体を包み込み、かろうじて隙間から攻め入らんとする火種も禦いでくれたが、奴は大きく体を振りかぶって、疾うに投擲の構え。


 最初のも、単純な小手調べだけじゃない。贅沢に宝具を使い切ったのは、俺の退路を確実に断ち切る為の、一手、一手で戦術を悟られぬように、わざと会話に集中させ、全てはこの王手を確実なものにさせる布石……か。


 だがな、こっちも死ねないんだよ。


 ▶︎スフィアスシールド


 全てを消し炭にすると言わんばかりの蒼炎を纏う刃に不思議と溶けない薄氷を宿し、一条の光芒たる光の刃を疾風迅雷の如く一閃。


 ▶︎??の加護


 祈り。


 刹那に両手を重ねて乾いた音が迸り、そして、神々しく黄金色を帯びた光が体を覆う。


「天照……ッッ!!」


【天照の加護、発動――MP : ???を消費】


 今回の態度は気に入られましたか、神様。


 己の体を貫く筈の刃はすり抜けて、何もかも焼き尽くさんとする全ての焔も鎮火した。


「ようやっと、体が温まってきた」


「ッッ‼︎」


 魔王亡き世界でご立派な勇者様はご不満な様子を露骨に顔に表していた。苦痛に頬を歪め、皺ができるほどに眉根を寄せて、嫌なことでもあったのか、歯を食いしばっている。


「どうした、もう終わりか?」


 神のご加護は役目を果たすと雲散霧消し、おまけに体に犇と伝わっていた無駄に尾を引いていた激痛も跡形もなく消え去っていた。


 ▶︎騎士の剣


【決定 騎士の剣に決定しました。付属効果、運の良さ+21×亡霊の加護――召喚します。 元所有者=製作者、国枝京介】


 透き通った一枚のガラスが光眩い太陽に照らされて輝くかのように澄んだ、煌めいて美しきダイヤの名に似つかわしい剣に赫赫としたルビーの落とし込まれた柄を握りしめる。


 借りるぞ。


 正直、()()()()でってのは辛いだろうが、どうか耐えてくれ。少しの辛抱だ、頼むぞ。


【ブースト×1 MP : 50を消費し、召喚】


 未だ真っ暗闇に覆われて、微かな光一つ映さぬ眼下に忽然と出現する、紫紺の魔法陣の中心を踏み締めて、颯爽と駆け抜けてゆく。


 互いの鈍い金属音を発して競り合う、錆びた刃に燦爛たる火花を散らし、押されつつあるのか俺は緩やかに仰け反っていき、狂気を孕んだ眼差しが瞬く事なく俺を突き刺した。


 全身全霊の産物で殺意がダダ漏れな上からの押し潰さんと体重を乗せるも、却って太刀筋が見え易く、競り合いながらいなし、奴の刃が大地に叩きつけられると同時に小突く。


 それは顔面をも穿つ想いで、兜を叩いた。


 金属とは到底思えぬ鈍い音が迸るとともに全体に亀裂の走っていく兜を抑えながら後ずさり、やや離れた場所で静かに立ち止まる。


「案外、童顔なんだな?」


 割れた兜から露わとなった顔は思いの外、無骨さを見せる好青年であった。無造作な黄金色と色褪せた白髪の混ざった短髪と、蒼き潤いを完全に失った虚ろな瞳が輝き、忸怩たる想いをその面差しに赤裸々に見せていた。


「ふざけるな、ふざけるなよ!」


「……」


「何故、貴様らのような生命が存在するッ‼︎」


「さぁ、それは俺にもわからない」


「貴様らのせいで俺は孤児となった! 大勢の人間が異邦人の利己的な考えで今も苦しめられている。最もその影響を受けたのが東大国だ‼︎ 数年前まで、隣接する弱小国にさえ優に劣ると揶揄されていた。この因果を俺の代で断ち切らなければならない!」


「北諸国は然程、被害を被っていないと聞いたが」


「戯言をッ!」


「東も今では大国の意を保っているとさえ聞いた」


「何年も独りで潜んでいた分際で随分と詳しいな、裏に更なる異邦人の群れがいるのだろう。直ぐに抹殺しなければならない。そうだ、そうでなければ」


 使命感……か。


「祖国の復興と再建が目的なら、友好国から離れるのは些か、問題があると思うが」


「異邦人の抹殺、そして異界召喚陣の破壊が俺の課せられた任務だ。貴様のような不定な輩を殺す為に、今まで生きてきた……ッッ‼︎」


 異界召喚陣? 初耳だ。いや、そもそも俺たち異邦人は一体、どうやってこの世界に呼び出されたんだ。全てが解れば、この世界の、家に帰るための糸口が掴めるかもしれない。


 家に……。


 ――帰りたい。

【歴代勇者 計10名。歴代勇者死亡数 8人。他、多数。極秘事項、大魔法図書館に限り、書物に記載。数十年後、別数冊と共に紛失】

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