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ステータスブレイク〜レベル1でも敵対勇者と真実の旅へ〜  作者: 緑川
蛇行する王位継承戦編1日〜3日
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第十七話 王の行方と奮闘

「すまないが、また席を外す」


「だ、大丈夫ですか⁉︎ お腹を下しましたか?」


「いや、そんなんじゃないよ。ただ、ちょっとね」


「ハァ、そうですか。お気をつけて」


「ありがと。あぁ、お腹が空いたら好きなだけ食べていいから」


「本当ですか!」


「その代わり、絶対に其処を離れるなよ」


「……はい」


「大丈夫だ、嬢ちゃん。この俺が守ってやるよ」


「うっ……」


 次は王妃が仕事の山に埋もれているであろう王室へと気配を殺しながら、慎重に足を運んで行った。


 周囲には衛兵が多く配備されており、中にはそわそわと挙動不審な新兵であろう者まで駆り出して、余程、臆病なのか真昼時にも限らず、厳重警戒を怠らずにいた。


 そんな危険察知と警戒する視野範囲が前方にしか存在しない、連中を上から侮蔑を含んで見下ろし、先ずは偵察兼安全確認で第三の目を先に潜らせる。


 ふわふわと音も気配も存在も完全に死んだ操作が楽なラジコンを正面玄関から容易く忍ばせていき、案の定、慣れぬ業務に振り回されて机に齧り付く王妃を真っ先に視界に捉え、天井スレスレに上った。


【聴覚共有を発動 MP : 7を消費】


 たった一度の使用でなけなしの心の拠り所たるMPの約半数を容赦なく奪い取り、それは発動された。


「本来、私の為すべき作業でない事を理解した上で、この業務を一任なさっているのでしょうね?」


「ですが、ルクバト国王陛下は我が国と民と貴方の為、東大国との虹龍往来の退避連携締結に加えて、リベル冒険者集団による襲来を想定した迎撃体制、謎の異邦人による被害拡大を抑えんと奔走しているのです! 現在、貴女様がなさっていることなど、比べるのでさえ烏滸がましい程に及びません」


「あら、ウィリス。随分と生意気な口を叩けるようになったものね、その平民生まれの身分で……?」


 異邦人……か。既に情報が知れ渡っているのか、それとも臆病者の際限なく広がる情報網の賜物か。

その真相は定かではないが、秘書らしき者から饒舌に繰り出された言葉の数々で、王妃の痺れもしない面白味も感じない毒舌が霞んでしまってならない。


 兎にも角にも、先ずはあの秘書捕縛が第一目標だな。


「では、私にも仕事がありますので、失礼します」


「待ちなさい! まだ話は終わってなくてよ!」


 王妃は山積みにされた書類を宙に巻き上げても、強かに振り返る事無き秘書に手を差し伸べていた。


 その頃、遂に体を温め過ぎて小刻みな震えが完全に全身に伝播した第二王が舞台へと上がっていた。


 頼みますよ、王。貴方だけが、俺の救いなんですから。


 そう第三の目の模倣品から心に強く願いながら、怪しげな地下へと繋がる階段に周囲に目を凝らしながら、慣れたご様子で降りていく秘書の後に続く。


 カツコツとピンヒールさながらの耳障りな音ばかりが響き、谺する、仄暗いに満たされた螺旋階段。

己の足音に細心の注意を払いながら、付かず離れず草臥れて丸みを帯びた背中の綺麗なラインを眺め、その傍らでぎこちなく出鱈目な刃を虚無に振るい、相手スレスレの空を切っていく果敢だからこそ不憫過ぎる目も当てられない王に、思わず頭を抱えた。


 ハァ……。

 うっかりため息を零してしまいそうでならない。


 そして、相手の機敏にして華麗な連続蹴りをモロに喰らい、露骨に筋骨隆々なる丹田を抑えて怯む。


 そんなヒヤヒヤさせる試合の行く末に目が離せず、次第に足取りも音の響く駆け足へと変貌していく。


 第二陣の幾度となく大振りを当てんとする剣技を目で追わずに最小限の動きで、泰然と躱していく。


 俺は王関係者もさぞ肝を冷やしているだろうと、瑣末な想いに寄り掛かるまでになってゆき、遂に、螺旋階段を降り終えたとともに秘書が振り返った。


「誰⁉︎」


 己の鋭敏な勘を無理に否定するように微かに消え入りそうな虚無に訊ねるかの如く声で、問いただす。


 それに呼応し、流れるように【ポールナイフ】を召喚し、みぞおちを肘で食い込ませて小さく呻いたまま壁に頭を打ち付け、首に徐にナイフを添える。


「動くな」


「あっ、貴方は……⁉︎」


「知ってくれているなら、光栄の限りだ。こんな優秀な人間の記憶に、後世まで忘れられずにいるんだからな」


「何故、こんなことを⁉︎」


 息遣いが当たる程になっても鼓膜に響かぬ程に忍び声にでき得る限りの感情を乗せて、捲し立てる。


「忘れ去られた遺物に価値は無いのさ、それに俺はあまり遍く人々に望まれた勇者では無かったしな」


「そ、そんな……私の村では英雄として今も尚、皆に語り継がれているのですよ! 誤解なさらないで! どうか、冷静になってください‼︎ そんな事で、こんな皆が悲しむ事を起こさないでください」


「あのな、別にそんな理由で来たんじゃないんだよ」


「では、何故?」


 ……危うく乗せられるところだった。


「御託はいい、用件だけを述べろ」


 10代目の口癖が移ってしまったかもしれない。


「とは言いましても、目的が皆目解りませんので」


「あぁ、そうだったな」


「謎の異邦人の所在についてだ」


「見返りは?」


「お前、自分の置かれた状況をわかった上で言っているのか?」


「はい」


 そう自信満々に宣う上目遣いの瞳は小さく震え、膨れ上がった激しく揺らぐ意志が溢れ出さぬよう、書類の山をグッと胸に押し付け、抱きしめていた。


「ならば、その全ての任を受けよう」


「え?」


「お前の抱える悩みを全て、晴らしてやろうと言っているんだ」


「そ、そんな無謀で――」


「無論、報酬は弾んでもらうぞ」


 お喋りな口を黙らせ、王子の行方に意識を割く。

完全なる後手、悪手、拙い戦術に甘んじて身を任せ、次第に末代まで語り継がれるであろう恥晒しに、一戦目早々の敗色濃厚へと色が移ろいでいく。


「先ず、虹龍に関してですが、どのような妙案をお持ちになられているので?」


「要らぬ心配に頭を悩ませるな。今回の虹龍の往来は東と北の境界線を沿って、流れていく筈だ」


「何故、それを?」


「……」


「話していただけないのであれば、この件は無かったことに」


「ハァ……魔力の波だ」


「波?」


「これだけは決して口に出せないので伏せさせてもらうが、特殊な技法を用いて、経路を辿っている。的中率はイレギュラーさえ無ければ、ほぼ100%!」


「真偽が定かではありませんので、一度改めて……」


「ならば、お前を今此処で殺し、全て無効とする」


「……!」


「あまり調子に乗るなよ、さっさと資料室まで案内しろ。お前の代わりなぞこの世に幾らでも居る。もっと自分を大切にしろ、こんな腐った国よりもな」


「私を地獄から救って頂いた方々を愚弄するような真似は辞めてください」


「なら、早く進め。血が流れる前にな」


 己の立場を弁えぬ者に刺々しい言葉を並べ立てていくうちに、嫌々ながらも頻りにこちらに目を泳がせながら、光の絶えた奥へと歩みを進めていった。


 一方で……王は。


 満身創痍。


 頬に鮮血を滴らせ、滝の如く流れ出る汗と見事なまでに分厚き刃に振り回され、体力を根こそぎ奪われた王は腕を支えんと壇上に刃を寄り掛けていた。


「チッ」


 思わず零れた俺の舌打ちに、身を小さく飛び上がらせる秘書が不安げな眼差しでこちらを一瞥する。


「ど、どうかなさいました?」


「いや、こっちの話だ」


「ハァ……」


 悠然と闊歩する格闘家の冒険者。


 その姿に、王は静かに戦慄した。


 限界が疾うに超えたのか将又身震いか、腕を大きく震わせた余波が手の翳した大剣が落ちそうで目が離せずにいたが、決着より先に資料室に行き着く。


「此処です」


「もし、お前が裏切ったなら……その時は、外にいる俺の手の者によって、この国が戦場と化すぞ?」


 照明を付けんとする二つのスイッチの下の段に手を掛けんとしていた秘書の歩みはピタッと止まり、徐に上の段のスイッチを押して、照明が灯された。


 そして、不意に、いや轟音でも響き渡ったのか、王は王関係者限定の観客席に慌ただしく振り向く。


 其処には、拡声器を彷彿とさせる両手を重ねるポーズに、はしたないと思われるあろう姿で声を荒げ、王の健闘に誰よりも大きな声で声援を送っていた。


 王は静かに微笑み、眼前に迫る敵を前にして、徐に天を仰いで目を瞑り、乱れた呼吸を整えていく。


「次に冒険者集団の対策ですが――」


【×18個の模索品を召喚します】


 これだ。


 机上の覆い尽くされた書類の全てを腕で払って、生意気で愛国心馬鹿の秘書への腹いせも兼ねて床に無造作に落とし、徐に袋に入った模索品を載せる。


「これは? 玉?」


「これを明日の夜に空に打ち上げろ」


「……それだけ、ですか?」


「あぁ、小細工はいらん。何も余計な手を加えるなよ」


「ハァ……」


 渋々尽くしている善なる俺を訝しげに凝視する。


「信用と金は後から頂くさ」


「承知致しました。では、最後に信奉者について」


「全て俺が始末する。この事に関しては貴様らの国と兵を含め、一切、関与するなら」


 冷徹に告げる。


「はい」


 つい強く言ってしまい、秘書は後ずさりながら顔面蒼白へと染まってゆき、酷く気圧されてしまう。


 一呼吸を終えて、眼下に紫紺の魔法を張り巡らせるとともに踏み抜き、迫り来る冒険者に猪突猛進。

相打ち覚悟の狂気を孕んだ姿勢に尻込みし、思わず後ろに飛び上がっていかんとするところをすかさず、完全に意識の逸れた大地に煌々たる一条の光芒を、冒険者の背後に魔法陣として完成させ、三度眼前。


 矢継ぎ早に不完全詠唱で燎原とした火球を突き出した掌へと繰り出したが、忽然と生み出された蒼き球体の檻に閉じされてしまい、敢えなく霧散した。


 そして、空を破るかの如く刃無き分厚き剣を、さながら死の鉄槌と言わんばかりの大振りで振るう。


 盾ごと粉砕し、冒険者は遥か彼方の場外へと吹っ飛ばされ、三度、観客席の壁に叩きつけれられる。


 そのまま流れるように、高々と腕を突き上げた。


 王に降り注ぐ、歓声の嵐に俺も微笑んでしまった。


 だが、まだ一戦目。


「ようやっと始まりか」

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