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第一話 勇者たちの再演

「ハァ、ハァ。ッ、ハァァァ」


 血液を一滴残らず搾り取られたような感覚だ。おまけに不快感もそれ以上、穢れた毒を吐いたつもりが、蜘蛛の糸にまで生命線を削ってしまったのか。


 だが、荒々しく息を切らして凝視する視線の先、何方かに身体の半分を持っていかれた京介が居た。


 己が魂をも神に貢ぐつもりか。お前、本当にあの頃のお前か?


「無駄だ、どれだけやっても犠牲が増えるだけだ」


「地獄じゃお前の声は届かない」


【命の灯火を使用しますか?】


 いいや、まだだっ!


アイコンタクト(心音傍受)起動完了、数分間使用可能】兜から垣間見る鋭くも刃毀れの酷い視線と交え、響く。


 鼓膜に、奴の声が。


 俺の約八割もの魔力を消費してまでの保険ぶり。流石は勇者の一人――百戦錬磨は伊達じゃないな。


 童顔通りの頭を必要以上に使うタイプで助かった。


 願わくば、死に様もそうであってほしいと願うばかりだ。


 息を呑む音が響く。


 再び、降り注ぐぞ。


 死の雨が。


 ⁉︎


 相手を気遣う余裕すら無く天井をふと見上げれば、魔力探知にも引っ掛からぬ何かが空から降り注ぐ。


 そんな絶対不可避な予言が立ち止まらせ、霧から雲を作り出した否、炎で積乱雲を発生させたのか?


 兎にも角にも玉座の背で待ち侘びる無人狙撃銃のタクトを振り、騒然と嵐の前の静けさが破られた。


 と、ほぼ同時。


 魔王城をも貫く、無差別な正しく死の雨が着く。


 最高峰の鎧袖一触は神頼みの時間にも勝り、手負いの獣が猪突猛進に薬付けさながらに荒れ狂い、昔はそんなんじゃなかった。そう聞こえた気がした。


 残念ながら説得も敢え無く無に帰し、当代を神のご加護の下に過去保護に雨宿りさせる溺愛義兄は、


「せ、先代!」何故、俺を。


 自分は昔からこうだったと言わんばかりに盾に変形したアトランダム(絢爛豪華な贅沢棒)に矛で迎え撃つも、


「ッッ!」


 幾多の燦爛とした火花だけが散るばかりで競り合っていくうちに視線が交差する。その流れはまるで桜の花びらのように儚く散っていく光を前にして。


 視界の端に映る、京介の眼は俺の方へと逸れた。


 あぁ、もう。そっか。


 死力を尽くしても賭しても届かぬ膠着した攻防。


 それを瞬く間に変化する斧が体勢ごといなされ、真っ二つ覚悟で横殴り狙いに構え、綺麗に弾き返す。


 も、衝撃が腕に伝って指が解け、生じる僅かな隙。


 クロスした腕は首元に静止したまま、京介はガラ空きの肋に目が行くとともに騎士の刃を振るった。


 それはお前が持っていていい代物じゃない。


【ランダム、騎士の剣に変形】召喚しろ。【召喚】


 虚ろな掌に淡く濁りを呑んだ刃の息吹きを放ち、上段の構えから振り下ろしにコンパクトに繰り出す。


 三度、星が砕けたような光の粒と轟く音が迸る。


 閃光。


 異空間に引き込まれた光は次第に収縮していく。


【時間遡行の銀時計&肉体の創生&魔力維持の魔法。これ以上の損傷は心身共に魔力の漏洩を招きます】


 それでも天からの豪雨は依然として勢いは死なず、口癖のもう手遅れなガラスのハートを貫かんとし、シーフの能力を秘めた空っぽな拳を、奴の突き出しされた素手相手に、交わさずにはいられなかった。


 昔、一度だけ喧嘩を、目を奪った時と同じ場所に

無意識に額に振りかぶるも、虚無を過ぎていって、


「っっ!」


 俺を予期したが如く軸足を回転させながら、その腕を掴みながら振り上げて大地に叩きつけられた。


 長く影落とすじんわりとした痛みが広がり、動かした敵駒を次の一手で確実に刺し、血反吐を吐く。


「ッ、ァァ!」


 マスクの内側で胸に大穴を開けて陸地で溺れる中、カタカタと揺れ動いて定まらぬ銃口を見上げさせ、離れ離れの肉が手を取り合おうとした。瞬間。


 王手。


 オルゴールの音色を奏で、ルビーの装飾が欠けた騎士の剣で弾丸をかろうじて防ぎ、勝利を手にする。


 貴方に二度と殺しはさせない。


 正義面で庇護下から抜け出し、使命感に駆り立てられた言葉とゴーストナイフの鋒の輝きを最後に、

俺の視界は瞬く間に黒洞々たる闇に覆い隠された。


 死。一度目の死。


 あくびの止まらぬ眠気が襲い掛かっていた中で、耳元には弱々しい無言貫徹者の最後の確認が終え、雨の止んだ玉座の方向へと過ぎ去ろうとしていた。


 俺は彼奴等の想いを背負ってんだ。ずっと、ずっと支えられながら立ち続け、此処まで辿り着いた。


 皆に背を押され、「グフッ」息を吹き返して、立ち上がり、己が魂に【命の灯火を強制発動】した。


【標的が息を吹き返しました】と、でもほざかれ、そんなっ⁉︎ を言わんばかりに慌てて振り向けば、青天の霹靂さながら未来視ではそんなこと……を見せる。残念ながら、俺も奴から眼を与えられている。


 黒々しく死神さながらの軍服を身に纏い、狂気に満ちただろう鬼気迫る形相をフルフェイスで覆う。

 

 悠長なモノローグが差別主義者《貴様》の最期の言葉だ。


【右義手に機関銃を装着、弾丸装填、召喚します】


 瞬きとともに弾薬箱と機関銃を繋ぎ、悠々自適に鳥瞰する第三の目を天敵のいない上空へ上げ、【火薬は龍の鉱物とクリスタルの特殊な口径と弾丸を使用】


 ドス黒く淀んだ死の応酬を身に纏わせた瞬間から満たされた弾薬庫は数秒、僅か数秒で底が尽きた。


【ターゲットがスローモーションの魔法を使用】弾丸が緩やかに見えたとして、鋼色の筒状の鉄塊を大地に響かせ、再装填する頃には銃弾の雨が降り注ぐ。


 空を破らんばかりに横殴りの雨が全てのものを抉り取り、迫り出す大壁ごと木っ端微塵に砕け散る。


 未来視の賜物で命からがら床から心許ない壁を、無論、一瞬で貫かれて肉塊と化すこと間違いないだろうが。それを知ってか咄嗟に掌に張り巡らせて。


 貫かれた直後、左右から紫紺の陣で突き飛ばし、死に物狂いで仲良く余り大差のない壁に激突する。


 ほう、紙一重で致命傷は免れたようだな。だが、【追尾・発動】一手の遅れはこの武器には最悪だぞ。


 生き残りの弾丸は華麗に弧を描いて獲物に引き返し、無駄に鋭い直感が働き、不意に視線を促した。


 最大級のオマージュとしてフィナーレには【オルゴール(郷愁への誘い)やや先駆けで記憶だけを故郷へと幻覚作用《俺なりの優しさ》で帰還させ、無事に餌食となる。


 肉を、骨を、血管を、脾臓を、内臓を、心臓を、そして、兜とその面差し諸共ミンチに、肉塊にした。


 とても形も保てない程、失敗作の人形のように。


「死んだな。さぁ、どうする。まだ殺り合うか?」


 全てが過ぎ去り、古の魔王の牙城が瓦解寸前に、無機物が発する雑音と鼓動だけが粛々と響き渡る。


「……」


 俺が俺だという証拠がなくとも、お前がお前という真実はない。異界の人間など、価値は――無い。


 でも。


 感情な複雑を紐解いていけば答えは単純だった。俺はお前と、彼奴。何も変わらないんだよ。結局。


「……」


 一呼吸の茫然自失に浸りを終えて骸に歩み寄っていき、ただ印を結び、【魂の灯火を使用しました】


 人の為。


 自分の為に心地良い死に顔を落とし、亡者の紛い者を背に、リベンジマッチの挑戦状を叩きつける。


 お前を殺してでも、お前の隣に行くよ。その座はそんな自己犠牲で他を苦しめる奴には不似合いだ。


「死に晒せ」


【弾薬ゼロ。魔力はポーション自動補給で全回復】


 防具の内側から大小様々な無数の金属片を呼び出し、再三、築き上げられていく不条理たる光線銃。


 想像が現実を超えた超常的な攻撃手段を前に、北の掲げる象徴を振る舞いで虹龍の身体を体現する。


 死の淵から甦った者との衝突は言うまでも無く、一方的な蹂躙で咆哮荒げる頭部から順に砕け散り、絶体絶命がじわじわ迫り来る役立たずの前に出て、


「……!」狼狽えに興じ、目を血走らせながらも、

二指で雑に天照を召喚。【天照、発動――出来ません。忠誠心が、祈りが足りません】と、此処でか。


「――」

と此方にもふと思わせる、今までの無尽蔵、湯水の如く湧き出る強運をありったけ発散してしまった。


 それでも感化された奴は突き放す。死にゆく龍を。


 そして、辺り一帯の空間を見境なく呑み込んだ。


 目を覚ます、10代目。


 徐に目を向ければ、思わず腰を抜かす。


「ぁ」


 もう立つことさえままならない――異形の姿に。


 尚、寝惚けた者に痛いげな仔猫に哀愁漂わす空気を羽織り、物憂げに幸薄な微笑みを浮かべていた。


 安堵。


 真っ先に浮かび上がったのはその二文字だろう。


 心が動じずとも、勇者擬きの加害者の過去如きに殊更、憐れみを向ける余裕がないことなど、運良く残った僅かな肉体が見せる震えで見え透いていた。


 そして、「もう、此処で全て。終わりにしよう」

そう諦めが生む、謎の力が開花する。訳もなく、乱用に嵌ってただ散っていく瞬間を見届けていれば奴が、10代目が【体の意識を変える能力】を与える。


 戦慄が走る。


 満足した顔で舞いを変わる様に京介は一驚を喫し、貴方の選択に任せます――。【命の源を供給】


 全て。


 ありえない。奴が、この世の人間が、友情など。


 血塗れでも最後まで笑顔で託された眼の譲渡を。

異常なまでの馬鹿の侮蔑に対する鬼気迫る形相を。


 本物の京介の声色を。


「お前じゃない」


 眼を、俺の面影を見て、俺は一瞬の隙が生じた。


【視力を消失、空間停止の魔眼を発動されました】


 それは能力故か、あるいは――。


【弾薬製造完了、装填準備、発射OKです。自動発射】弾丸が空間を歪ませ、カートリッジを弾き飛ばす。


 それは先を行く京介には掠りもせずにすれ違い、

服を、仮面を、棚引く黄金色の光の刃で切り裂いて。


「やっぱり、お前だったか。亮太。桜木亮太くん」


 お前と離れてからずっと代わり(分身)と一人で会話や、懐かしの記憶に何度も襲われて、ずっと眠れない日々を送ってたよ。たまに頭をぶつけて見れる夢には、何百回も自分の側から消えていく二人。


 最後のお前にもどうやら手を伸ばそうとも届きそうになさそうだな。だから、拳を、振りかぶった。


 何もかもを注ぎ込んだ、一打を。


 合わせて。


 体の痛みは消えた。

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