−第一話
「東大国が伏兵の突貫を禦ぐ為に警備を命ぜられる、と聞いていたが……」谺するのは雑音ばかり。
「居ないな、誰一人」
「金等級以上の精鋭が何十人も配備された筈です。そんな訳ない、絶対に。絶対に死ぬなんてこと――」
「知人か」
魔力の練られた金属とは異なる回廊の続く先には、微かな光と影の落ちた場の壁に凭れ掛かる人。
「っ!」
それは身分証を握りしめたまま瞳の生気が薄れゆく、俺の義兄であった。
「シオン、シオンか」
「何があった!」
掌に集約した光も闇に呑まれて途絶え、消える。
「頼む」
「動くな、今止血する」
「シオン、頼む」
限りある言葉を命を削って絞り出していく。
「あぁ、聞いている」人形のような掌を握り締め、
「復讐は復讐しか生まれない。頼む、シオン。最愛の弟よ、どうか、この悪しき因果を断ち切ってくれ」一言一句決して聞き漏らさず、違わずに胸に届けた。
「あぁ、あぁっ!」
微笑んで眠った兄の最後を見届け、俺達も行く。
「行くぞ」
「はい」
全ての国の地下に施した大魔法陣。地下から毒の魔法陣で人々の魔力を軒並み吸い上げるつもりか。
膨大な魔力による産出の障害や先天性の病気に加え、耐性の無い者の命を根こそぎ奪い取り、最後に虹龍で蹂躙する。それが自分たちの人生を奪った国への復讐――奴の真の目的か、ようやく判明した!
だが、何か引っ掛かる。
一体、何の為に……。
まさか。扉を。げ――。
「お前、これが終わったらどうするんだ?」
「え?」
もう先の事とは何とも楽観的というか、計画性の鬼にも当て嵌まる人だな。こんな状況なのに……。
「私に帰る家などありませんから」
膨らみつつある一抹の不安を拭わんと言葉を返す。
「なら一緒に住まないか」
「え?」
「他に行くところも無いんだろ?」
「それは、まぁ」
「なら、一緒に帰ろう」
「……」
思わず止まらぬ足を留め、考えに耽ってしまう。
瞬き。
無数の出来事を脳裏で流れゆく絵を嵐の如く捲るように浮かべ、別の道で手が小刻みに震え出した。
そして、ピタッ。そんな背後の天井から滴り落ちていく一滴の雫が頭を熱くさせていた俺を我に返し、「貴方は親友を殺せますか?」真剣に突き立てる。
迫った刃を切り返して。
「今でもまだ、よくわからない、な」同様に噤む。
「そう、ですよね」
「さ、行こう」
先走る先代の姿はどうしようもなく儚く見えた。
「すみません、少し宜しいでしょうか」
真っ赤に染まる燃ゆる涙を頬に伝わらせて。
幾多もの道の先へ。
行く。
「俺に、作戦があります」
★
カチャ。