第四十三話 残存と残酷
そして、俺が絶えず揺らぐ先、奴の面影を捉えると時同じくして、先代は大地に膝から崩れ落ちる、
互いに、城に燃え上がる真っ赤な焔を前にして。
「なん、で……」
虚しさが全身を覆い尽くすより早く、原型の残った骸を探しに死の禍根に足を踏み入れれば、見る。
漂う、絶望の二文字を。多くの者の非業の姿を。
この世界はまともな別れを告げることさえ許されない。粉々に打ち砕かれても尚、打つ。出る杭を。
悉く。
そして、焼け焦げた遺体に紛れて際立つ、形見。
たった五つの金属、十字架を。
「なんて、ひどいことを……」
大方、放火魔の検討が付いていたであろう先代であったが、その半ば問いにも捉えられる一言には依然として想いも吐けない程に口を大きく開き続け、ただ、沈みゆく、その惨状を目に焼き付けていた。
「行こ――ぅ」
「…………」
絶え間なく滴り落ちていく焼け古城に水を浸し、大粒の雫が弾けたとともに一欠片も同じく爆ぜる。
そして、「京介、本当にすまなかったな」深々と清々しく頭を垂れて、生徒らは異様な様変わりに。
変貌を遂げていた。
「あの時はすまなかった」
皆を代表した心からの言葉に偽りはなく、「もう、良いんだよ」受け取るのに迷いは要さなかった。
たった10本の指の謝意を持ってしての出迎えに、脳を介さずにふと覚えた疑問を漏らしてしまった。
「他のみんなは?」
「もう。死んだよ」
間。一言を吐くのと同等の一呼吸を済ませ、告ぐ。
「え?」
瞬く間に下ろされた暗雲立ち込める静寂が脳裏に漠然と漂っていた断片を探り、彼の面影が過ぎる。
「な、何番。まで?」
心無き一言。だが、それ以上に、必ず端数たちが折られていく定めはあまりにも常軌を逸していた。
母が身籠る以前から人に在らず、業を背負う者ら。
4代目勇者。
「まだ届いていない」
「っ!」
有象無象を排斥し、意思疎通を最大限極小化した親友との意志の交差。それは胸を撫で下ろさせ――久しい深呼吸にしてため息にも取れる安堵する。
その時、初めてまじまじと人の顔を目にした。
「何だよ」照れくさそうに頬が弛み、「今までまともに見ていなかったんだな」そう言った気がした。
本来、目に付属する色が僅かに取り戻されていく。その実感を損なわせんが如く、玉座が、映る。
王の不遜なる面を示し、王冠を見せびらかして。
「此度の件、オリケーの計らいに免じ、不問と致す。だが」解けゆく緊張に戦慄が走る。矢継ぎ早に、「我が国に忠誠を捧げる意志を示すのであれば。の話、だがな」気まぐれに固唾を呑んで見守る一同。
「は?」
一切の躊躇なく、突き立てる叛意に染まる刃を。
「此処での拒絶《応え》は万死に値すると心に留めよ」
「……俺は、まだこの場にいる」
「そうか。では、早々に去ね」
傍らのオリケーが一歩、前に微かに前進する。
「明日からは貴様にも我の命を与えよう」
「勝手にしろ」
「っ、ハァァァ」
爪痕の兵士に同情を余儀なくされる姿の尻目に、過去の姿が見えぬほどに泰然と闊歩し、後にした。
その場を。




