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第三十六話 勇者と愛者と走者

 最上位の金等級の手練れを掲げられた前振りを、綺麗に回収して幾重にも重なって振り翳された刃。


 それは廻転し、踵を返して先代へと迫っていた。


「っ!」


【死を確認――アサシンダガーを自動召喚】され、背中合わせで虚無から忽然と現れた刃が何もせずに全ての斬撃を受け切る完璧な連携をこなしたが、肝心の肉体は軽々と吹っ飛び、壁に叩きつけられた。


「ウッ!」


 及第点を凌駕した常識的な対応を逸脱した世界、ダンジョンに巣食う魔物に操られたであろう彼等。


 共に交わしたコップを平然と倒して、忍び寄る。


 溌剌とした少年の瞳にさえ一縷の光も失われ、頑として清潔を貫く仮面から最悪な形で整った素顔を露わにする青年の傍ら、翁は杖を突いて進みゆく。


「れ、殺れ」


「……」


 前から死を彷徨っていた翁の哀調を帯びた囁きは一歩、距離を伸ばしていくごとに消え入りそうに。


 強かに燃ゆる焔は微かな火種へと揺らいでいく。


 それと同時に踏み抜く一歩は大地を深く窪ませ、その身を黒々としたオーラに包み込ませていった。


「ごめん、なさい……」懺悔も躊躇も余裕はなく、影を落として尾を引く一振りを頭上に振り翳した。


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】


【Lv : 1から13まで。ステータスが急向上しました】


 踵から微かに糸を引く一条の陰りを追っていき、疾うに流れるように巡らせた魔法陣で壁を足蹴に、正体が明るみに出た瞬間、軽やかな動きは止まる。


「……っ!」


 先代の小さな掌の上でも輾転反側が容易な魔物。真っ黒で一つ目で非力な姿。そして、親子だった。


 戦慄きつつも咄嗟に子らを自らの背に覆い隠し、眼下の己の影から先の一手が足元に繰り出された。


 そんな命乞いを難なく軸足の回転たるごく僅か、最小限の動きで避けて、そのまま刃を突き立てた。


 軟骨を貫くかの如く、あっさりと身も心も黒く染まった血飛沫を噴き出し、視界が真っ先に迎えた子どもらを【重力波を拳に加算 MP : 50消費します】


【レベルが上がりました】


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


【計6Lv : +されました】


 何度も何度も何度も何度も大地に拳を振り下ろす。

絶えず囂々たる地響きが轟かせ、やがてそれは天を揺るがし、立ち所に背後の逃げ道が崩れていった。


 もう、進む先は前にしかない。


 ただ、勇者は傀儡のように走り続ける。


 終わりなき終わりを求めて。


【レベルが足りません ???の部屋】

 人ならざるものの課した結界か、将又、過保護なステータスによって、目と鼻の先の絢爛豪華に満たされた横道をみすみす見逃し、ただ只管に前へと。


【幻石 一度切りのセーブ・リターンが可能です】


 懸念材料で構成された保証と元の場への帰還を頻りに提示する度、見えざる手が背中を押していく。


【注意*使用後、数日間はステータスが激減し――魔物を検知。動物系???】などと視界とそう大差ない朧げな当たりを取って、ナイフを構えさせた。


【魔力により、ステータスの開示を拒まれました。神器の欠片を使用しますか? 入手難易度 S + 入手場所 神殿 相手の一部情報を強制的に開示させます】


「頼むよ」


 折良く初期装備に備えられていた神々しい魔石を掌に召喚し、得体の知れない化け物に放り投げる。


「っ!」


「……」四肢を麻痺させるばかりに礫を躱すかと思われていたが、あっさりと横ステップで身を掠め、光が地に衝突したように儚く弾け散ってしまった。


「え」


【神秘の欠片 : 残り1 ダンジョン内での強さC+】


 だが、尾に付けし一紙にも満たぬ刃が壁を砕き、雄々しい額のツノは周囲の魔力を吸い込み始めた。


「あー。うん。そっか」華麗に身を翻して、疾駆。


 文字通り命懸けの鬼ごっこを開催し、背を振り向く間も無く体を振るっても尚、しめやかな足音は次第に影を伸ばしてゆき、一瞥すれば、「ええっ⁉︎」飛び込みの参加で馳せ参じる大小様々な魔物とともに天国と地獄の狭間が広がる回廊を駆け巡っていく。


 虹を描ける血飛沫に肉吹雪、爪と牙と魔法の刃がありとあらゆる方から飛び交い、貧者は逃げ惑う。


【此処から数m先の分かれ道を左へ進んでください】


 まるで感情の欠落したサポートの甲斐あってか、背の挑戦者を切り離して一人旅とは行かぬものの、一縷の光明と茫漠たる闇が交互に垣間見えていた。


【先頭に立つ魔物の弱点は光です。この暗闇の中でも獲物を捕食できるよう進化した瞳ですが、冒険者であれば、初級魔法での対処可能です。次に二番煎じと三番手の両者の鬩ぎ合っている魔物達ですが――】


「言ってる場合かぁーーッッ……‼︎」


 競争率の高い魔物らの案内者の悠長な助言も虚しく、既に切らした息がため息程度にまで落ちながらも、分かれ道への大きな第一歩を踏み出していた。


「うわぁぁっっ!」


 そして、正に断崖絶壁な試練に突き落とされた。

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