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ステータスブレイク〜レベル1でも敵対勇者と真実の旅へ〜  作者: 緑川
過去編

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第三十二話 聖霊と先々代

 共に最前線を生き抜いた子らは黙々と虚ろな瞳で、細やかな道具と魔法で後始末に徹していた。


「っ!」だが、中には舞い上がる魔素と血肉の腐敗臭に喉をやられ、酷くご馳走を溢れ落としていた。


「ぼ、僕は何を」


「お前は先に行け」そんな口元を押さえながらとめどなく涙を流す少年の傍らで徐に背中を摩る者が、怪訝な眼差しで一瞥しつつも、教会へ差し向けた。


 トントン拍子で部屋へ舞い戻るも、地面に臥す、深傷を負う者に心許ない治癒魔法を施すのを目にし、果てなく眠りに落ちた弱冠7歳に覆い被さる少女。


 凄惨言い表せない様で、若き芽が摘まれていた。


 己には無関係。そう欺くように言い聞かせて尚、自らでさえ何処か不信感を募らせる数多の疑問を抱えながらも、目を背けつつ長き道を辿り、着いた。


 真っ赤な衣類を持つシスターが扉を閉ざす場へ。


「よ、容体は?」


 視線が交差した瞬間、ほんの僅かな安堵とあながち違わぬ杞憂の入り混じった面持ちを浮かべ、直様、馴染みの満面の笑みと薄ら影を落とした頬に切り替え、消え入りそうな囁き声で心情を吐露する。


「あまり芳しくありません。恐らく、かなり強力な毒か何かを仕込まれた武器に斬られたのでしょう。薬草と低級治癒魔法程度では、傷口さえも塞がらず、あるいは――今日にも」と告げ、その場を後にした。


「あっ、あの‼︎」そそくさと爪先を巡らせて振り返ったが、彼女の過ぎ去った背中を追うことさえ出来ず、狐疑逡巡の微かな間を置き、取っ手に手をやった。


「おい!」と、同時に阻まれる。視線を向けた先、「……」先の死線を共に潜り抜けた戦友の一人が。


「お前はまだ信用出来ない、悪いが入るんなら牢にしてくれると、こっちも大変助かるんだが」


「それは僕が生きて、この場に居るから?」


「そう聞こえたならすまないな。だが、訂正はしないぞ」


「僕にも何か」


「何もしなくていい。どうせ、碌な結末を辿らないんだからな」


「よせ!」


 一方的に鋭い眼光を血走らせていた最中、暗闇に覆われた回廊からゆっくりと姿を現していく、身を緋色の血生臭さを多分に含んだ汚水で汚した隣人。


 そして、どさくさに紛れて淡く艶やかな緑光を帯びた鱗粉を放ちながら、視界の片隅に居座り続け、いつの間にか姿を消していた精霊も遅れてご登場。


 それでも誰も気に留めず、勇ましく言葉を馳せた。


「お互いに心の底を見せ合い、戦場を駆け抜けてきた仲間……家族に向かって、お前、口が過ぎるぞ」


「で、でもよ!」


「いいから、お前は少し奥の部屋で頭冷やせ」


「っ!」


 大袈裟な喉に詰まらせた心情を振る舞いで表し、必死な訴えも虚しく頬を引き攣らせながらも渋々、呆然と立ち尽くす先代を瞬く事なく睨みながら、黒き影に足を伸ばしていき、静かに呑まれていった。


「悪かったな」


「いや、別にあの人もおかしくないよ」


「そうか、ありがとな」


 家族の二文字を口にする際の刹那の間。

 それは自らを言い包める為のまやかしを齎したのか、あるいは、慈愛の精神の表れかは定かでない。


「彼奴――彼女もきっと色々辛いだろうから、あんまり長居はしないでくれ」


「うん、わかった」


 遠回しに深々と釘を打たれ、寝室へ上がり込む。


 静寂。


 それは余りにも生と死の狭間の虚しさを漂わせ、今にも死神が降り立つ姿が見えそうでならない。


「何の用だ?」


「っ!」


 足音を忍ばせながら歩み寄っていけば、包帯で閉ざされた眼に頼らずとも恐らく魔力の波を触れ、その存在を手探りで知り、身を低く跳ね上がらせる。


「夜這いか?」


「ごめんなさい。面白く、ありません」


 満身創痍でもユーモアを忘れず冗談めかしたその場の気分転換を訴えるも、先代の前では泡沫に無に帰した上、苦痛に歪みながら一蹴されてしまった。


「な、何で僕なんかを……」


「その話か」既視感のある波風を立てぬように釘を刺す姿は隣人との繋がりを想起せざるを得ず、血の滲む布から垣間見える微々たる差ではあるものの口元が緩み、代表格たる発言を嬉々として言い連ねる。


「弱き者を守り、強き悪を挫くのが勇者としての務めだ。不満があるなら強くなるといい」今出来得る最大限の笑みを浮かべての、余計な一言を除いて。


 ……。

初耳にしては聞き心地が良い、是非参考にしよう。


 そんな痛ましくも雄々しい姿を目の当たりにし、「なんで、なんで僕には誰かを守る力も、救う力も無いんだ」そうつぶさな雫を頬から溢れんばかりに滴らせ、遂に精霊が頭上から華々しく舞い降りた。


 過去に例を見ない黄金色の神々しさを放って。美の織り混ざりし魔力が先々代を優しく包み込んだ。


 単なる無邪気な稚児が真の聖霊に昇華し、この頃はまだ淀みのなき先代の意志に呼応したのだろうか。だが、立ち所に人ならざる者に変色した唇が真っ赤な血の巡りとともに生気を取り戻していった。


「っ‼︎ こ、これが聖霊の力、か」


 然も、この未来を意図していたような一挙動。


 神の御許にあらせられるが故、なのだろうか。


 けれど、ご丁寧に包帯も弛ませた聖霊は枕元、それでも髪先一つ触れぬ距離を保って、降り立った。

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