第三十話 本音
唐突に教会の皆が出揃う、大食堂に並べられた「新たなる仲間の歓迎を祝し、今日は特別に」垂涎もののご馳走を前に合掌の傍らに祈りを捧げる中、その怒涛の波に気乗りせずに当意即妙に流された。
そして、我先にと言わんばかりに喰らい付いた。
「そんなに慌てずとも、まだまだありますから。決して品を失ってはいけません。主は見ていますよ」
「「「「「「「はーい」」」」」」」
疾うに無数の肉を脳裏に何度と咀嚼した先代は、中々、眼前一面に広がる食が喉に通らず、隣人へと。
「あげるよ」
「それはどうも」
それでも飢えは時と場も考え無しに襲い掛かり、紛らわせようと口に水を含めば、問い掛けられる。
「なぁ、お前って斥候兵?」
それすらも許さぬ、両手に肉の隣人によって。
「っ」
「おいおい、噴き出すなよ!」
「ゲホゲホッ!」
激しく咽せ返って、陸地で溺れる無様な羽目に。
「ち、違うよ。僕は勇者としてこの東の大国に」
「勇者はもういるじゃねぇか」
「え?」
「8代目勇者、ユリ・アイル・ヒース。此処の守護神とも言えるな」
「そ、そうなんだ。じな、じゃあなんで僕が――」
「女だからよ」
「え?」
「あの人が女だから。たったそれだけの理由で、他のむさ苦しい男ばっかの勇者様方とは違って、他の三大国もちゃんとした対価を払ってくれないのよ」
「でも、何で盗賊は此処を狙うの?」
「それは」
「襲撃! 襲撃ー!」
「皆さんは子どもたちを避難させて下さい。我々は防衛に向かいます」と、唯一、壁に身を任せていた先々代が修道院らとともに外へ駆け出して行った。
シスターはまだ齢3つにも満たぬ稚児達を連れ、不安げな眼差しを頻りに移ろわせながらも、退く。
そして。
鐘が鳴り響く真っ只中に一斉に皆が立ち上がり、真っ先に向けられる視線は無論、先代一直線へと。
「やっぱり、盗賊の斥候だったんだな」
視界の片隅に映る先の少年は颯とナイフを握りしめながら緩やかに後ずさり、鋒を胸に差し向ける。
「ち、違う」
「こんなに怪しい事が続け様に起こるんですもの。懐疑的になるのも当然よ」
「だからずっと怪しいと思ってたんだ」
「シスター様を欺くなんてっ、許せないわ!」
「若いからって懐柔されると思うなよ!」
「俺たちだって戦えるんだからな!」
とても非力な子らには見えぬばかりか、自らが率先して星を囲うようにじりじりと距離を詰めていく。
手当たり次第に出来損ないの魔道具を手にして。
「僕には人質の価値すら無いんだよ」
「だったら、暫くは牢獄で暮らしてもらおうか!」
また、好いた檻に誘われ、先代に沈黙が訪れる。
シスターが舞い戻られる淡い期待も堅牢無比なる扉に閉ざされて敢え無く打ち砕かれ、TPも未だ【0】と万策尽きたが、声を重なるように震わせて、零す。
「誰が好きで、こんな場所に来ると思ってるんだ」
己が身に見え隠れする無数の刃を備えていながらも、オルゴールの音が微かに残った掌を握りしめ、ただ心情を赤裸々に吐露し、訴えることであった。
だが、投げ掛けた想いは思わぬ方へ形骸化され、心打たれるさながら、もろに受け取ってしまった。
「だったら、だったらその意志を証明して見せろ‼︎」
「え?」
そう刃毀れの悪目立ちする武器を差し出された。
「俺と一緒に最前線に行くぞ」
「ぇぇ」
肉を求める隣人とともに戦場に歩みを進まされた。