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第二十四話 意志と意志

 無事に絶えず催した吐き気とともに小刻みに震わせながら口に運ばんとする最悪なご馳走を平らげ、異なる形で腹部を支えながら足を引き摺る道すがら、ようやっといつもながらに厳かな面持ちに微かな苛立ちを浮かべる友人との邂逅を果たした開口一番。


「お前、ちゃんと俺の話聞いてたか?」


「え? な、何のこと?」


 真っ先に触れた逆鱗に鋭い睨みと毒突く言葉を吐くも、惚けた先代は更なる逆撫でで友人を刺激し、最早、呆れて言葉も出ずに深ーく嘆息を漏らした。


「ハァァァ……」


「あ、あぁっ! そうだ! 伝えなきゃいけないと思っていたんだ」話を逸らしているのか、漸く思い当たる節にぶつかり、我に返ったのかは定かでは無いが、流されるまま大図書館へと足を運ぶことに。


「何だ?」


「実は武器の製作が後少しの佳境で難航していて」


「待て待て、初耳の情報ばかりだ。前提から話せ」


「うん」そう事の顛末を淡々と説いていき、頷く。


「そうか、状況は解った。夜間制度が無くなってからめっきり姿を見なくなったと思えば、こんなことを。だがな、お前の思考には具体性に欠けている」


「え?」


「お前は一体、どうしたいんだ?」


「えーと、だから――」


「『様々な環境に適応し、自動変形を可能とした武器。そして、如何なる状況に於いても自身が有利な上に片手くらいの持ち運び可能な軽量型』だろ?」


「うん、その通り……です」


「だったら、元となる物質の構築、構成が先決だ。それが終わってるんなら、変化に対する設定だ」


「設定?」


「お前が初めに作り出した武器には魔力が付属しているのか?」


「うーん、まぁ、なんかおまけくらいには」


「それじゃ正規品には遠く及ばないだろう。そうだな、元は何か、魔道、魔導、杖、ステッキ、あぁ、スポーツで使ってるようなステッキにすればいい」


「あれか」


「あぁ、あれだ」


 あれの謎の存在のお陰で此方は完全に蚊帳の外。


「それで魔力は変形時にステッキ内部に内蔵した、各々の武器の一部の召喚と環境による魔力変化を付属させる。……破壊、刃の研磨、盾用具とかにな」


「盲点だった」


「今の言葉を基に試しに作ってみろ」


「うん、あ、でも素材が無いや。オリケーさんから貰ってこなきゃ」


「そうか、なら行ってこい」


「付いてきては、くれないんだね」


「当たり前だ、ガキじゃあるまいし」


「まぁ、それもそうだけど」


「あぁ、もし可能なら火薬と鉱物も頼んでみてくれ」


 先代が仄暗さで誰かの置きっぱなしの分厚い本に痛いげな小指を犠牲にしながらも背を向けた途端、友人は一瞥せずに窓辺を覗き、囁くように告げた。


「わかった」

視界は唐突に眩い光に照らされた自室に招かれる。


 寝巻きなのか風変わりなファッションセンスの私服の大魔導士が本を畳み、微笑みながら口を開く。


「では、此処を出て突き当たりの鍵の開いた倉庫に一式揃っておりますので、危ない代物もありますので、十分に注意して下さいね、ランタンは必須ですよ」片手間にアルベリカの寝相の悪さが起こした、捲れに捲れた毛布を正しながら、手を差し出した。


「ご丁寧にありがとうございます」


「いえいえ、ですが、夜も遅いので程々に」


「はい、気を付けます。そ、それと」


 爪先と視界の大半をを影に満たされた扉に向け、恐る恐る鼓膜に響く生唾を呑んでも尚、続きを告ぐ。


「そ、その、も、もしも何ですが」


「はい、どうされました」


「その倉庫か、あ、あるいは貴方の知っている中で、鉱物とか火薬って在りますかね」


 当然ながらにその場を覆い尽くした、深き沈黙。


「……」


「……」


「いえ、残念ながら此処にも何処にも存在し得ません」


「そう、ですか、では、失礼致します」


「待ってください」


 逃げるようにドアノブに手を添えた先代の背を、容赦なく鷲掴みにするかの如く、引き留めた一言。


「な、何ですか」意を決して緩慢に振り返れば――其処には、燦々たるランタンが差し出されていた。


「廊下は暗いですから、此れを」


「ど、どうも」


「では、お休みなさい」


「お休みなさい」


 騒々しく扉を開いて、無駄に肩を窄めてしまうような軋みを上げる真っ暗闇に閉ざされた廊下には、一縷の燦々とした燃ゆる灯火が先代のゆらゆらと揺らぐ影を壁に大きく映し出し、次第に止まりゆく。


 そして、倉庫から無数の素材を抱えて帰路に辿っていく頃には、その見る影もなく夜明けを迎えようとしていた。


「もう、朝か」

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