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異世界の婚約者  作者: 真白 悟
1章
13/16

13

 ◇



「――それにしてもどこも塩対応だな」


 最初は僕の見た目で住人たちが態度を変えているのだとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。僕はシアと話す雑貨屋の目を見てそのことに気が付いた。


「私にはこの国の貴族と、大陸人の血が流れているからね。あんまりいい気はしないんでしょうね。貴族絶対主義の国民からすれば……逆に言えば、貴族の血が流れているから無下にも扱えないんだけどね」


 そう言ってシアは笑った。

 冗談としては笑えない部類のものだ。やはり彼女には冗談の才能はこれっぽっちもないらしい。コミュニケーション能力がかなり高いだけに意外だ。

 

「ふうん。まあ、それなら誰も興味すら持ってくれない僕より全然マシだってことだな」

「あなたの冗談も笑えないわよ」


 別に笑わせようと思ったわけじゃなくて、慰めるつもりで言ったつもりだったが、ちょっと卑下しすぎたらしい。異国人をあまり好まないこの国の人々でも、さすがに黒髪が珍しいのか横目でちらちらとこちらを見てくる程度には、僕のことに関心を持っているらしい。それに僕と同じ異国人らしき人たちからはたまに話しかけられることもあったし、それほど不満も感じていない。

 黒髪のおかげで仕事にありつけるわけだしな。


「そんなことより、さすがに買いすぎじゃないか?」


 荷物運びについて来ただけの僕だったが、もうすでに僕の両手は荷物で埋まっている。それどころか、すでにシアの両手すら埋まっている始末だ。これ以上買い物を続けるにせよ、一度家に戻った方がいいだろう。

 シアも僕と同意見らしく、「そうね」と首を縦に振った。


「異世界らしく『アイテムボックス』的なものがあればいいんだけどな……」


 あまりにもファンタジーからかけ離れた世界に愚痴をこぼす。

 節々には魔法の要素もあるのだが、それも日本での生活を彷彿とさせるものばかりだ。街の中で許可なしに魔法を発動するのが禁止されているとはいえ、あまりにもファンタジーっぽさがない。何か便利な魔法があれば話は別だが、そんなものは今のところ一切ない。


「アイテムボックス? 何それ?」


 聞きなれない言葉だったのか、シアが不可思議そうな顔で聞き返す。

 聞きなれないということは存在しないということ。まあそんな便利なものがあれば、みんな使っているはずだし、最初から期待していないから精神的なダメージもない。


「異空間とかに荷物を入れて持って歩いたりするやつだよ」

「異空間……ああ『空間魔法』ね!?」


 僕の言葉にシアが聞き返して「アイテムボックスなんて言い方もあるんだ」と続けた。

 その瞬間に僕の心は高揚する。今のところ口では魔法という言葉を何度も聞いたが、ほとんど存在が噂程度だった魔法にようやく向き合えるかもしれないと思えばそれも当たり前のことだ。

 

「あるのか!?」


 思わずそんな言葉が僕の口から零れた。

 しかし、シアはそんな僕の反応とは裏腹に首を横に振る。


「確かこの国の初代ギルドマスターがそう言った能力の使い手だったらしいけど……」

「けど?」

「その魔法は今となってはその属性すらわからないと言われているわ……」

「属性? 神聖魔法ってことか?」

「古い本によればそうらしいけど。大地を操る規模の土魔法は聞いたことがあるけど、空間を操るとなるとね?」


 そんなものは神話みたいなものだと、シアは静かに笑った。

 僕にとっては魔法そのものが神話みたいなものだけど。彼女にとっての空間魔法は、僕にとってのタイムマシンなんだろう。機械が存在しない世界では、機械という物そのものが神話みたいに思えて何でも出来るように思えてしまうが、実際には出来ないことの方が多い。

 どうやら僕は魔法という物に夢を見すぎていたようだ。

 魔法なんていかにもファンタジー的なものであっても、それが万能であるなんてことはない。むしろ現時点では機械の方が優れていたようにすら感じる。


「時間を操ったり、空間そのものをどうにかしたりするのは無理ってことか」

「そうね。未来を読む魔法はあるけど、操るのは難しそうね……そもそも、時間を操ることが出来たしても、時間が変わったという事を人は認識できるのかしら?」

「わからない。時間は今のところ前にしか進んでいないからな。誰かが時間を操っていたとしても、それを僕たちが感じ取っているかどうかはわからないし――」


 いや、ちょっと待ってほしい。シアの問いかけに当たり前に返答しているが、それより前に彼女はとてつもないことを口にした気がする。

『未来を読む?』

 いやいや、それは僕の世界にも存在していたと記憶にある。占い師とかそう言うたぐいのもののことを言っているのなら、何ら問題はないはずだ。


「ちょっといいか?」

「なに?」

「未来を読む魔法って、たとえばどんなことがわかるんだ?」


 そんな僕の質問に対して、彼女は首を傾げる。


「聞きたいことがいまいちわからないのだけれど……未来を読むっていえば、未来を読むことでしょ?」

「いや、そういうことじゃなくて……たとえば、明日自分に起きることがわかったりするのか?」

「流石にそこまでは……」


 苦笑いをするシアを見て、僕は自分の予想が正しかったと確信を持つ。だけど、それは次の彼女が口にした言葉によってすぐに否定された。


「私の場合は1時間後が少しわかるくらいね。まあ、対価があるけどね。流石に1日後は無理よ。魔法史でもそんな魔法は習ったことないわ」

「いや、未来が見えるのかよ」


 思わず心の声が飛び出す。

 未来が見えるのなら、それはとんでもない魔法だ。それが1時間先の未来とはいえ、かなり強力な魔法には違いないだろう。

 なんとなくわかっていたことではあるが、僕の世界における常識と、この世界における常識はかけ離れているようだ。

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