バスを待っていた
いくら経っても、バスは来なかった。
スマホは遂に消えて、日が落ちた。
影一つのバス停にひとりの老人がやってきて、「若いねぇ」と呟いた。
木々の音と老人の声が響く。汗ばむ身体の気持ち悪さと苛立ちが、すうっと消えていく。
老人は「可愛い女房が待っているんだ」と自慢話を広げる。
「あいつは夕顔の花が好きでね」と聞き、あちら側に咲く浜茄子を摘むことにした。
バス停に戻ると、老人はいない。
夢中で摘んでいる間に、バスが乗せていったらしい。
間の悪さは生まれつきだった。
次こそは、とバスを待っていると、初恋のあの人がやってきた。
告白したかった。秘めたままの思いを伝えたかった。
離れ離れになっても夢を見た。連絡が取れなくなっても好きだった。
摘んだ夕顔と共に、声を掛ける。
「ずっと前から――」
途端、目を覚ます。
「意識が戻ったみたいです!」
見慣れない天井、白露の光。
ああ、いつもこうだ。
飾られた押し花は、いつまでも綺麗だった。