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夜光浴びる貴方へ  作者: 紫雪
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3.おしゃべりして互いに夜更かし

 知り合いを見かけることは想定していた。


 実際、カフェに行く前に目の合った人間は中学時代の友人で、今は疎遠になってしまった者だった。


 だけど、私であることがバレる、更には話しかけられるなんて考えもしなかった。


 「心」であるという特徴をどこか表してしまっていたのだろうか、どうであれ結局は気づかれてしまったのだ。乗り切るしかない。


 星波は中学、高校と同じ学校で、同じクラス。まあそこそこ割り切って話せる存在だ。


 服の趣味だけは言ったことがなかっただけで。


 私は先程の星波の質問に答えようとする。


「夏休みだからかな?冒険しよーって思って〜」


 いつもの「心」を見せるけど、星波の表情は変わらないままであった。嘘は言ってないのに、私の目には光が無かったのだろう。


 私は諦めることにした。


 口角を落とす。彼は一瞬驚いたようだが、またすぐに表情を戻した。


「夏休みの間、アンダーに行くの」


 できるだけ簡潔に伝えると、納得したように頷き、相手も口を開いた。


「それでその格好ね。なんで行くの」


「座っていい?」と聞かれたので頷いた。スーツケースをベンチの端に寄せて止める。星波は手提げかばんとリュックを床に置いて、私の右側に座った。


 さくっと帰る気は無さそうだ。幸い、私も1時間ほど出発までに時間があったのでサンドイッチを食べながらゆっくり話すことにする。


「学校に疲れて。夏休みの間戻る気は無いから」


「なんでアンダー?あこは危険だって朝のホームルームでも言われてたじゃん」


 固有名詞は出ていないものの、「アンダー」を表す特徴を述べられ先生に注意喚起されていた。


 彼には本当のことを言おう。


「……憧れの人がいるの」


「会いに行くのか?」


 正直、会いに行く気はなかった。頑固な兄には明確な目的を伝えなければと思い、推しに会うだなんて言ったけど、私はミラに会うつもりは無い。そりゃ会えたら嬉しいけど、本来の目的は違う。


「会いには行かない」


「じゃあなんで」


「……」


 言い出せない。いくら仲が良いとはいえ、言えないことくらいある。広められはしないだろうか。つい目を逸らして下を向いてしまう。


「言わなくてもいい」


 星波は言った。彼を見ると、今まで見たことがないほど、まっすぐな瞳を向けられていた。


「誰かに言うために聞いたわけじゃない。止めるためでもない。俺にくらい、本当の理由話してもいいんじゃないの?」


 紗奈との会話も、こいつは部活に行く準備をしながら聞いていたのだろう。


 敵わないなあ。


「……分かった。ほんとのこと言うね」


 星波は軽く頷く。


「元々、こういう服装が好きだったの。地雷系っていうやつ。でも高校入ってから、紗奈たちとズレがないようにって振る舞ってたら、MOREの反乱が起こったし。私の世界に置いていかれてる気がして、夏休みくらい私の世界に帰らせてって思って」


 初めて誰かに全ての計画を話した。さっきの不安が消えたような気がした。


 彼には分からない言葉もあったのだろう。星波は右手をあげた。


「えっと、質問いい?」


「どうぞ」


「MOREの反乱って何?」


 私がずっと追いかけていたニュース。今日の夕方、行方不明だった少年少女が肉体ごとメタバースに飛んでいることが分かった反乱。


 彼には、こう言えば分かる。


「アンダーの逆襲とも言われている事件」


 星波ははっとした顔をして「それか!」と目を見開いた。


 メタバースのコードネームが「MORE」なのでそう呼ばれている。また、首謀者がアンダーで有名人だったとか、アンダーにいた半グレ集団のトップも参加しているからとか噂が噂を呼び、「アンダーの逆襲」だなんて名前がついた。星波には後者のイメージが強かったのか、MOREの方は覚えていなかったようだ。


「そのMOREがなんで関係あんの?」


 星波は話を戻した。


「MOREの目的は国の改革。私も、それを目指している」


「国を混乱に陥れるってか?」


 そうじゃない。否定したいけど、できない。


 一度だけ、ミラが投稿でMOREについて触れたことがあった。すぐ消されたけど、鮮明に覚えている。


 MOREは、国を壊したあとの計画は立てていない。


 もっと言えば、壊すことが最終目的だって。


 ミラはMOREのメンバーじゃないからこれは彼女の憶測かもしれない。けど、もしそうだとしたら、今ここで頷けるはずがない。


「そうなるかもしれない。でも、私は今はそのつもりは無いし、もしそうなっても止めさせることに尽力する」


 彼の目を見て言う。約束する。迷惑はかけない。


「会いに行ってもいい?」


「へ?」


 突拍子もないことを言い出した。最後の一口を戻しそうになる。よく噛んでしっかり飲み込む。一体彼は何を言っているのか。


「夏休みの間、俺そこの近くでライブあるから観に行くんだけど。その時、1回だけ会いに行ってもいい?」


「なんで」


「心配だから」


 さも当たり前のように目を見てくる。悪いことをする気はないのは日々の行動から知れる。やはり、敵わない。


「いいよ」


「おけ!じゃあ泊まるホテル教えて」


「あ」


 大事なことを忘れていた。


「何?」


「ホテル予約してない」


 はぁ、持ち物の準備は完璧だったのになあ。


 今どきすぐ泊まれるとこなんかたくさんあるのだろうけど、正直微妙。3時台にとって元が取れるのか。


 これには星波も呆れる。


「心ってどっか抜けてるよね〜」


と腹を抱えて笑う。否定すると、更にわざとらしくなった。


 バスに早めに乗っておこうということで、外に移動することにした。星波は、いい電車がないからという理由で私が出発するまで一緒にいてくれることになった。


 私の乗る夜行バスはそこそこいい値段がして、カーテンで仕切りが出来るようになっている。話した途端、とても羨ましがられた。


「俺合宿でも乗ったことねー」


 合宿でそこにお金かける馬鹿がどこにいるんだ。


 しばらくしてバスがやってきた。


 完全個室化可能なバスに、まず運転手にチケットを確認してもらう。そして、許可が出たので中に乗り込んだ。先に大きな荷物を乗せておく。私の席だと、右側の壁にくぼみがあって、そこにちょうどおさまるような感じだった。


「迷惑かけるなよ、反乱とか」


「かけるつもりは無いけど、どうだろ。やる時はほんとに参加しちゃうかも」


 あのなーって諭す振りをする星波はどこか楽しそうだった。


 時間になって、いよいよ出発。


「じゃ、また今度」


「会えないとかで泣くなよ」


「んなわけ」


 いつも通りの会話をする。自然と笑えてきた。


「いってきます」


 乗り際に振り返って星波を見る。街灯に照らされて輝き、照れくさそうに笑う彼が映った。


「なんだよかしこまって。いってら」


 私も笑う。そして、前を向いて乗車した。


 ずっと待ってるほど彼氏面する暇なやつでは無い。明日も部活があって、日常が続く。私が乗り込むまで見守った星波は、駅の方へ戻って行った。

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