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夜光浴びる貴方へ  作者: 紫雪
24/27

24.穏やかな朝

 起きたのは9時頃だった。寝るのに随分時間がかかると思っていたが、動いたおかげかそうでも無かった。でも、ぐっすりという訳でもない。眠りは浅い気もするが、昨日のことを思い出すせいで頭は冴えている。


 ベッドから起き上がる。そっとドアを開けてみるが、リビングは明るくないようだ。カーテンは閉まっていて、電気も付いていない。


 宵くんはまだ寝ているのかもしれない。シューもこっちに来ていないので、私はどうしようかとスマホを開く。強い光に目を掠めながら、SNSをのぞく。


 昨日あったことに、現実味が感じられない。ずっと夢を見ていたような気分だ。


 私は、昨日の記憶を取り戻しながら、リビングに出た。人の家なので、家主に一応声をかける。


「宵くん、起きてる?」


 返事はない。ノックをしてみると、「んんん」と咳払いのような声が聞こえた。


 しばらくして、ドアが開いた。


「……おはよう心ちゃん」


 白っぽい髪はもじゃっとしている。目を擦りながら、大きくあくびをした。


「おはよう」


「心ちゃん、髪やばすぎ」


 人のことなど言えなかったようだ。自分でも、なんとなく分け目がおかしいことを認識する。宵くんはリビングに出てきて、カーテンを開けた。開けっぱなしのドアから、シューがとことこ出てくる。


「閉めといて」


 言われたのでその通りにする。


 続いて、宵くんは冷蔵庫を開けた。


「次から好きに開けて作っていいからね」


 そう言ってブルーベリージャムを取り出した。


「食パン2枚焼いてくんない?」


 食パンが入った袋を渡してくる。


「なんだかんだ朝ごはん食べるの初めてだね」


 私が言うと、ぼさっとした髪のまま宵くんは頷いた。グラスを用意し、コーヒー牛乳を作る。濃いコーヒーの素を牛乳で割るらしい。


 ゆっくりしながらも朝ごはんは完成する。ダイニングテーブルに向かい合うように座っていただきます。


「今日の予定を発表します」


 食べながら、宵くんは言った。机の下では、カリカリとシューがご飯を食べる音がする。


「はい」


「今日は、家にいようかなって、俺」


「うん」


「心ちゃんどうする?」


「家出ていいの?」


 選択肢なんてあるんだ。


「もちろん」


「もし跡つけられても、私気づかないよ?」


「それはちょっと困る」


 何より、自分の家じゃない。外出したとして、帰って来れるか分からない。


「けど、俺は心ちゃんを拘束するつもりはない」


 そう言ってパンを一口。そっか、私にも自由時間はあるのか。


「じゃあ私も家にいていい?」


「いいけど」


 正直、買い物をするのはミラと会う時でいい。貴重な夏休みとはいえ、ぐでっとする日も必要だ。


「夜になったらスーパー行くかも。ついてくる?」


 私が頷くと、「よし決まり」と宵くんはコーヒー牛乳を飲み干した。


「今日は何する?」


「宵くんはいつも何してるの?」


 私がきくと、お皿を持って立ち上がりながら、宵くんは「うーん」と唸った。


「いつもは掃除屋のための情報集めとか、基本仕事かも。たまに日比のとこでバイトしたり。日比連れてきてゲームもする」


 またこき使われてる日比さん。慣れすぎてかわいそうとも思わなくなってきてしまった。


「バイト?」


 日比さんってお店でもやっているのか。


「うん。あいつ一応クリエイターだから、動画の編集とかちょくちょく頼まれてんの。納期がやばいと俺が駆り出される」


 宵くんが言うには、日比さんは断れない性格らしい。そして、宵くんはそんな日比さんに文句を言いながら、1時間あたり1000円ではたらくそうだ。


「私ゲームしたい」


「いいじゃん。ちょっと待って」


 朝ごはんを食べ終え、シンクに食器を持っていくと、宵くんが皿洗いを始めようとした。


「私がする。分担するんでしょ」


 宵くんからスポンジを奪うと、驚いた顔をされた。


「そんなお手伝いさんみたいに立ち回んなくていいよ」


 宵くんはそう言うが、彼がそうなってしまいそうなのでやめさせる。何回か瞬きをした後、「ありがとね」と頭を手を置いた。


「あ」


 声を発したのは私ではない。宵くんだ。昨日の今日で、とでも思っているんだろう。


「……感謝されて嫌な気分はしないから」


 一応言っておくと、宵くんはくしゃっと笑った。


「じゃ俺洗濯するから。心ちゃんも自分のタイミングでやっといて」


「分かった」


 そう言うと、宵くんは自室に戻ってしまった。そういえば、着替えとかするのかな。部屋着一応持ってきたけど。今日はメイクする必要ないし、家主に合わせることにしよう。


 お皿を洗いながら考える。特に変わったことはないように会話をしたけど、私はずっと考えていた。


 昨日の夜言った、MOREについて。


 明日話そうって言っていたけど、今のところそんな気配はない。私から話題を振らなきゃ話してくれなさそうだ。そもそも、MORE自体に乗り気な感じがしない。


 けど、知りたいものは仕方がない。ガタガタっと音がする宵くんの部屋をちらっと見つつ、私は水で洗剤を流した。

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