ラジオネーム:死神さんからのお便りです。
初めまして、日野萬田リンと申します。ホラー作品は初なので、そこまで怖くはないと思います。気軽に読んでいただけたらと思います。
一日の疲れを感じながら、ベッドへと倒れこむ。僕はとある高校の1年生。高校に入ってから勉強に部活に忙しく、このようにベッドへ倒れこむのが毎日の日課になっている。
そんな僕の数少ない趣味の一つが"ラジオ"を聞くことだ。本当はテレビを見たりしたかったが、僕の家庭ではリビングのテレビを父が独占しているため、見たい番組を見ることができない。だから、部屋で一人で自由に聞くことのできる"ラジオ"が趣味になるのは自然な事であった。
枕元に置いてあるラジオの電源を入れる。ザーザーという雑音を聞きながら、チャンネルを目的の数字に合わせる。はじめはノイズでしかなかった音が次第にクリアに、話し声や音楽に聞こえてきた。
「次は"私の選ぶ今週の一曲"のコーナーです。今週は少ししっとりと、落ち着いた音楽を選びました。お聞きください、○○の△△です。」
今日は△△か。好きな曲だけど、疲れてベッドに倒れてる今それを聞くと眠くなってくるな……。
このラジオ番組は最近の僕のお気に入りだ。MCも有名というわけではなく、どちらかというとマイナーな番組だが、だからこそ時に踏み込んだ話をしていたりするので結構はまってしまっている。
閉じそうになる瞼をこすりながら、ラジオを聴く。最悪このまま寝てしまっても良いよう、すでに風呂にも入っている。
今週の音楽のコーナーも終わり、次のコーナーへと移る。
「では次のコーナー。大人気!お便りの時間です。」
もうそんな時間か。このお便りコーナーは特に良い。こういうマイナー番組にお便りを送るような人は変わっている人も多く、MCがその変なお便りを華麗に捌ききるのを僕は楽しみにしていた。
「では、最初のお便り。ラジオネーム:死神さんからのお便りです。ありがとうございます。」
あれ、いつもより声のトーンが少し低い気がする。調子が悪いのだろうか、それとも気のせいだろうか?
「夢を見ました。一人の高校生の夢です。通学路の途中、黒猫が目の前を横切りました。何だか不吉な予感がしたんです。学校で勉強に部活に頑張って放課後になりました。帰り道、普段は大人しくしている犬に吠えられてしまいまいました。ゴミ捨て場近くの烏も何だかこっちを見ている気すらしてきます。ほんの少し嫌な気分になりながら、横断歩道を渡ろうとしたところ居眠り運転をしていたトラックにひかれてしまいました。そこで目が覚めました。」
何でこんな妙なお便りを呼んだんだろうか?それにいつもならお便りにMCがコメントしたりしているのに、待っていても沈黙のまま時間が過ぎていく。そして、1分程度だろうか、経過したところで急に。
「ということでお便りありがとうございました!続いてのお便りです。」
何事もなかったかのようにMCは次のお便りを読み始めた。僕はなぜかさっきのお便りが頭の片隅に残り続けていて、それからの内容は全然頭に入ってこなかった。
翌日、僕はいつも通り学校に行く準備をして家を出発した。早く行かないと、部活の朝練に遅れてしまう。僕は少し駆け足で通学路を走る。そんな僕の進む先に一つの黒い影。
目を凝らしてみると、一匹の黒猫が道の真ん中でこちらを見ていた。僕が見ていることに気づいたのか、黒猫はそっぽを向いて道を横切っていった。
僕は昨日のラジオの奇妙なお便りを思い出して、少し不気味さを感じた。
学校に着いてからはいつも通り。朝練をして、授業を受け、放課後の部活にいそしむ。そうしている間に朝起きた出来事なんか忘れてしまっていた。
放課後、校門を出て帰路へ着く。
帰り道の途中の家の庭に、大きな犬がつながれている。普段から温厚で、おっとりしている性格。人に向かって吠えているなど見たこともない。
だが、その日だけは違った。温厚なはずの犬がものすごい形相で僕に向かって吠え始めたのだ。あまりの剣幕に僕は驚いて数歩後ずさる。
そこでようやく昨日のラジオと今朝の黒猫を思い出した。
僕はこれ以上犬を刺激しないようこっそりと先を進む。頭の中ではこの先の展開のことでいっぱいだった。
(確か昨日のお便りでは、この後……。いや、そんなことあるはずない。)
自分に言い聞かせるようにして、さらに帰路を進む。ただの偶然の一致。きっとそうだ。
ゴミ捨て場が見える。そこに烏が数羽。ゴミをつついていたはずの烏たちが、僕に気づいて一斉にこちらを向く。
「ひっ。」
情けない悲鳴がこぼれ出る。烏が急にこちらを向いたからというのもあるが、それ以上に昨日のお便り通りに物事が進んでいるのが恐ろしかったからだ。
僕は踵を返し、家とは反対方向に走り出す。お便りでは確か横断歩道を渡ろうとして車に引かれていた。だったら横断歩道を渡らないルートを選べば、お便りのような結末は回避できるはず。
「にゃーん。」
猫の泣き声が聞こえる。鳴き声の方を見ると、今朝見かけた黒猫が僕の方をじっと見ている。
なぜだか分からない。その黒猫に見つめられた瞬間、僕の体は動かなくなった。
「あっ……。」
声が出ない。体が動かない。先ほど逃げ出してきたゴミ捨て場の方からエンジン音が聞こえてくる。
迫りくるエンジン音、それでも体を動かすことができない。
運転手は寝てしまっているのだろうか、ブレーキをかけることなく、トラックは僕の体を弾き飛ばした。鈍い音が鳴り響いてようやくブレーキの甲高い音が周囲へと異常を伝える。
体中が痛い。目の前が真っ赤になる。もう指一本も動かせない。それなのにどうしてだろう、意識だけはなぜかはっきりとしている。
黒猫がゆっくりと近寄ってくる。そして、僕の耳元で。
「運命からは逃げられないんだよ。魂、ごちそうさま。」
猫がそんなこと話すはずがない。でも、確かに、そんな声が、聞こえた気がした。
「次のお便りは、ラジオネーム:死神さんからのお便りです。」
読んでいただきありがとうございます。評価・感想など全部お待ちしております。
普段は異世界転生物の小説を連載しております。気になった方がいらっしゃれば、そちらも読んでいただけたら私は泣いて喜びます。