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この国では人間を、魔法使いと人とに分ける。魔法使いと人との違いは体内に魔力を持っており、魔法を使えるかどうかである。そして魔法使いの中には魔術師と魔女と呼ばれるものがおり、その違いは魔法を使うときのオーラの違いである。オーラとは魔法使いが魔法を使う際に発生する光のことで、その色は黄と白と黒があり、黄と白のオーラをもつものが魔術師、黒のオーラをもつものが魔女とされている。魔術師も魔女も使える魔法はほとんど同じで、属性としては水、火、木、金、土の魔法があり、魔法をかける対象と組合せ、また魔法をかける魔法使いの思考により効果は変化する。また魔術師や魔女はそれぞれ得意属性を持っており、得意属性以外の魔法を習得するには相当の努力が必要になると言われる。特殊な魔法として、黄の魔術師は身体強化魔法が使え、また回復魔法は白の魔術師のみが使えると言われている。色々な過去があり、魔術師は好かれ、魔女は嫌われている。何年か前に差別でありあまり良くないとされたものの、その考え方は未だに根強く残っている。
ウォルフは黄のオーラをもつ魔術師、そしてアマンダは黒のオーラをもつ魔女と世間的には分類されている。だが、ウォルフは黄のオーラを持ちながらも身体強化魔法以外は使えない。また、アマンダは黒のオーラをもっているが回復魔法が使える。皆が知っている国の常識と事実の間には大きな隔たりがある。だがそれを知っている者は少数しかいない。
2人は演劇の輪から抜け出し、飴屋に並んでいた。アマンダが最後にどうしても欲しいとウォルフにせがんだからだ。安価で売られている出店の商品は、通常であればその値の2倍はする。聖女が現れたという吉報に、今はどの店も商品の値段を下げている状態だった。ウォルフは日頃小言をたくさん言ってはいるものの、なんやかんやでアマンダのことを大切にしており、ついつい甘やかしてしまうのだった。
「ほういえばウォルフ。どうだった?」
「何がですか?」
アマンダは買っていた団子をもぐもぐとほおばりながら聞いた。
「何がって私の最近開発した『身代わり風人形』」
ウォルフはその言葉を聞き思い出す。店の商品を倒さんばかりの強風を起こし、近所中に響き渡るほど大きくまぬけな音を出しながらはじけたアマンダの身代わりのことを。魔法が失敗したときのための防音・防御魔法がかかっていなければ店は大惨事。今頃、あの閑静な住宅街では近所迷惑だと騒がれていたかもしれない。
「確かに身代わりではありましたが、あれは大失敗ですね。あのうるさい音と強風ではクレームがくる予感しかしません」
「うそ!プッポの鳴き声使ったのにうるさかったの?」
プッポとは人気の癒やしペットである。小さく丸い、愛らしいフォルムに、かわいいつぶれた鼻が特徴で、その手触りは想像通りふわふわとしている。歩くたびに「プッポ、プッポ」と鳴くその愛くるしい姿が人気の動物であった。そこでアマンダはふと思い出す。そういえば、木属性魔法を応用した風のカプセルで声のサンプルをとった時、あのプッポはびっくりとした顔をしていたような気がする。プッポは愛くるしい鳴き声が人気の動物だが、そのくしゃみは鳴き声と違いとても大きいと聞く。もしやあの時、プッポはくしゃみをしていたのだろうか。風の強度は吐息と連動するようにしていたので強風になってしまったのだろうか。
「あー、それはごめんなさい…計算外だったわ」
アマンダはうなだれながら自分の失敗を正直に謝った。アマンダの商品は有能なものが多いが、なにかしら欠点をもっているものも多い。今回は完璧だと思ったのだが、上手くいっていなかったらしい。
「まあ、アマンダ様の感謝の気持ちは伝わりました」
ウォルフは眼下に見えるアマンダの頭を撫でた。ウォルフは分かっていた。いつもは外に出ないアマンダが、自分の商品を使ってまで今日のような人の多い日に外に出たのかを。あの時、『身代わり風人形』が弾けた時に見えた花弁の意味を。
今日はアマンダとウォルフが初めて出会った記念日だ。そして毎年、アマンダはこの記念日を何かしらの形で祝ってくれる。今回のように花をプレゼントしてくれる時もあった。だからこそウォルフも、奔放で身勝手なアマンダのことを好きにこそなれ、嫌いにはなれないのだ。
「だからといって店番をさぼるのは見過ごせませんが」
「うっ…ごめん」
ウォルフに撫でられ上機嫌になっていたアマンダは、その後の言葉でまたうなだれることとなった。
「じゃあちゃんとする」
そういって、アマンダは顔を上げた。ウォルフは飴を注文し、袋を受け取っている。
「私もウォルフもここにいるってことはお店には今、誰もいないんだもんね」
「そうですね」
ウォルフは袋を受け取り、中の飴を確認した。
「誰か来てるよ」
「っ!それを早く言ってください!」
ウォルフは焦った。ここからお店までは走ってもまだ5分ほどかかる。防音・防御魔法がかかってはいるものの、魔法具の中には使い方を誤れば大惨事につながりかねない商品もある。ウォルフは支払った代金のおつりも忘れるほどに焦っていた。出店の店主はおつりをつり銭トレーの上に乗せた。だが、目の前には誰もおらず大勢の人が行きかっているのみだ。はて、自分は誰から代金をもらい、誰に返す予定だったのだろうか。だが確かに、飴袋は一つ渡したはずだ。はたして…。
「アマンダ様!なぜそんなに遅いのですか!」
「『よいブーツ』は走るように作られてないんだよ!」
アマンダとウォルフは魔法屋への道を急ぐ。とはいっても、アマンダは千鳥足でまっすぐとはすすめていない。人にはぶつからないが、急ぐのにはとても不向きなブーツである。
「ああもう!仕方ないですね!」
ウォルフはそういうと、ひょいと片手でアマンダを抱き上げた。
両手で綿あめの袋を持っていたアマンダはウォルフにつかまれない。いつもの自分より高い目線で、不安定な体勢…恐怖しかない。そんなアマンダにかまわず、ウォルフは走り出した。人々を避けながら進んでいるにもかかわらず、常人よりも素早い走りであった。
「うわ!怖い!」
「落としませんから動かないでください」
もしや店番をさぼったことの意趣返しかと、アマンダは恐怖の中で考えるのであった。




