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“野良猫”聖女は、護衛の聖騎士が気になって仕方ない。  作者: es
三章

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3-04 救国の四英雄の黄昏

────"古に封じられし災厄、復活せし時来たる

瞳に白銀の光ある聖乙女を見いだし、此を鍛えよ"


ゼラフィールの前神官長に聖女の神託が降りたのは、約十年前のことだった。

"星海"の神々は、時として地上に導きを与える。聖女の神託もその一つであった。


神託を受け、国と神殿はひそかに聖女探しに乗り出した。各地に使者を派遣し、「白銀の瞳の少女」を捜させたものの……聖女はなかなか見つからなかった。


時間がかかった理由は二つ。少女が身寄りのない孤児だったこと。そして、娼館の下働きだったこと。

「こんな場所に聖女がいるはずがない」という思いこみによって、見過ごされていたらしい。


劣悪な環境から救いだされた少女は、やがて、国を救う聖女になった。

だが、それも新たな籠に移されただけかもしれない。そう思ってしまうのは、ギルが彼女の日常をよく知っているからだろう。




++++++




…………先日の脱走後、口をきいてくれなかったリーヴェがやっと機嫌を直した。よかった……とギルが安堵したのもつかの間。


リーヴェは、「一人でメシを食うのは嫌だ」と言い出し、彼を昼食に同席させるようになった。

「そんな護衛聞いたことがありません!」と突っぱねようとしても、当然聞き入れられず。

暫くしたら飽きるだろう……とギルは諦めの境地にある。


そんなわけで今、彼はリーヴェと向かいあって食事をとっている。不本意な状況ではあるが、黙って食べるのも味気ない。なので食事の間は、他愛ない会話をかわすようにしていた。

そして今日は、聖女発見の話になった。




「…………でさぁ、うっかり使者に見つかって、ほとんど無理やり王都に連れて来られたんだわ。ほんっとに嫌だったぜ。だって、こっちに来てからずーーーっと修行だし。毎日修行、来る日も修行!」

「それはたいへんでしたねー」

「何だよその棒読みはぁ!心がこもってねえぞ!」


ガツガツと食事をかきこんでいた聖女は、キッとギルを睨んだ。同時に、彼女のフォークがビシッとこちらを向く。


「……フォークで人を指すのやめませんか。行儀悪いですよ」

「あたしは普通だ」


絶対違うと思う。

気を取り直して、ギルは話を続けた。


「……悪鬼が封印されてたのって、"迷いの砂漠"の古神殿跡でしたっけ」

「そー。あの辺って、砂漠だからクッソ暑いし、探索妨害かかってるし、辿りつくまでが結構大変でさぁ。戦う前に干からびるかと思ったぜ」


当時を思い出したのか、リーヴェは嫌そうに顔をしかめた。……だからフォークを振りまわすなと。


「そんで、どうにか古神殿跡に着いたら、ちょうど復活したての悪鬼がいて、タコ殴りにしてぶっ殺してやったんだ。どうだすげぇだろ!」

「ものすごく簡単にまとめましたね……」


胸を張った聖女に、思わず白目になる。脳筋に臨場感あふれる回想を期待してはいけない。


「うるせぇな。ちゃんとした英雄譚が聞きたきゃ、吟遊詩人に頼めよ。それか、城がまとめた史書の方が詳しいぜ。そっち読め」

「ハイそうですねそうします」


英雄本人が「吟遊詩人に聞け」と言ってしまったら身も蓋もない。


「ちなみに、悪鬼ってどんな姿なんですか。伝説どおり?」


ギルの問いに、リーヴェはデザートの果物をかじりながら首をかしげた。


「んー?そうだなぁ……蝙蝠の羽根みたいなのが背中に生えてて、皮膜の内側は深紅。頭には二本の角。手足と尻尾は黒い毛皮に覆われてて、獣みたいな鉤爪が生えてたな。……あと、女だったぜ」

「へぇ……悪鬼に男とか女があるんですね」

「そりゃあるだろ。てかあいつ、なんでかあたしを目の敵にしやがって、すげえ執念深かったぜ。女ってこえーよな」


リーヴェは軽く肩をすくめる。一応、貴女も性別女ですよ、という言葉は胸にしまっておいた。




++++++




────遥か遠い昔。

生命の楽園たる地上を慈しんだ"星海"の神々は、地上にあまねく祝福を与えた。大陸各地にたくさんの聖域がつくられ、ひとびとの祈りは奇跡となって返ってきたという。


しかし、そんな時代も終わりを迎える。

何がきっかけなのか、地上はおそろしい"災禍"に見舞われた。あちこちで天変地異が起こり、それに乗じて、冥界から魔物が押し寄せた。

大陸の国々は力を合わせて戦い、かろうじて魔物に勝利したが、地上に降り注いでいた神々の力は弱まってしまった。……それが、"神世"の終焉だ。


冥界を統べる魔物の王……悪鬼は、"星海"を呪い、地上を足掛かりにして、神々を滅ぼさんと目論んでいるという。

リーヴェたちが倒したのも、"災禍"の際に地上に現れ、封印された悪鬼だった。

復活した悪鬼と四英雄は、砂漠の真ん中で死闘を繰り広げた。その戦いは大地を揺らし、砂漠の(ほとり)の町にまで地響きが轟いたと聞く。


最後、悪鬼にとどめを刺したのは、太陽王子クラウスだった。その時、英雄に去来した感情はいかなるものだったのだろう。安堵か。それとも────




「…………そういえばこのあと、クラウス王子殿下がこちらに来られるそうですよ」

「殿下が?」


昼食をペロリと平らげ、お茶を飲んでいたリーヴェは、ぱっと顔を上げた。ギルも食事を終えて、すでに護衛の位置にもどっている。


最近、クラウス王子は頻繁に大神殿を訪れていた。ついでに、リーヴェのところにも顔を出す。

……やはり王子と神官長は、数日と開けず会っているようだ。


リーヴェは王子の訪問を歓迎しているが、ギルは少々複雑だった。

クラウスが来ると、リーヴェはいつも彼を追い出してしまうからだ。それも、「殿下が余計なことを言うから」という、よくわからない理由で。


そういう時のリーヴェは、頬を赤くして完全に乙女になっている。だから余計にもやっとする。

王子といる時は、そんなに自分が邪魔なんだろうか。

(エミリは追い出されないので、厳密にいうと、王子とリーヴェの二人きりではないが)


もう一つの懸念は、リーヴェとアドニア嬢、クラウス王子の三角関係だった。

いくら主が王子に好意を寄せても、報われる可能性は低いと思う。王子とリーヴェの仲は良好だが、あくまで仲間の絆という感じに見えた。


リーヴェが振られたら八つ当たりが怖いな……と遠い目をしていると、ノックの音が響いた。ドアの向こうから麗しい青年が姿を現す。


「やぁ、リーヴェ」

「殿下!」


主はクラウスに嬉しそうに駆け寄った。それから彼女は、はっとこちらを振り向いた。

うっすら頬を紅潮させた彼女は、大股でギルに歩み寄って手首を握ると、扉の方へぐいぐい引っ張っていく。


「聖騎士、お前は鍛練場に行ってろ!」

「……君たち、本当に仲がいいんだね」


クラウスはそんな二人を見て、にこりと笑った。

今まさに追い出されるところなのに……貴人の感性は、よくわからない。


「じゃあ後でな!」

「はぁ……」


廊下に押し出されたギルの後ろで、パタンと扉が閉められる。軽く嘆息し、彼は鍛練場へと歩きだした。



三章はここまで。

次回から四章になります。

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