聞いた話と体験した話
続けて二つのお話を書いていますが、
特に繋がりはありません。
職場の大先輩Yさんから聴いた話
昼休みに大先輩のYさんとテレビを見ていた。
ニュース番組は山中で行方不明の少年発見とテロップがでて、キャスターが発見状況の説明をしている。
Yさん「見つかってよかったなぁ」
そうですねー
Yさん「山はおっかねぇからなぁ」
そうですよね、滑落とか、あと、あの辺だと熊も出そうっすもんね
Yさん「それもあるけどよぉ、子どもってのは変なもんも寄せちまうからよ」
そう言うと安堵に緩んで好々爺といったYさんの顔が翳った。
オカルトな話にありつけそうだと、私は身を乗り出し、話を聴いた。
小学生の頃、放課後いつも学友と遊びに行く小山があったそうだ。小学生が行う遊びが全て出来るこの小山を、隅から隅まで、皆知り尽くしており、一番安心して遊べる場所であった。
その日もいつもの面子で遊び、日も暮れ始めていた。
そろそろ帰ろうかと皆考えはじめ、帰宅前の恒例行事であるかくれんぼを始めた。
Yさんが鬼となり、いつもの大木に手ついて目を隠し、『もういいかい?』と、『まあだだよ』の返事聞こえなくなるまで繰り返した。【ご当地ルールらしい。】
大木から離れて周りを見回す。
一周見回し、大木に目が止まる。
枝が生えていた。
いつも見ていた大木には、大人ですら届かない高所にしか無いはずであった。
自分の背と同じ高さに、突然生えた枝におどろいて呆然と眺めた。
よく見ると枝に見えた物には肘や手があった。
枝ではない。腕だ。
Yさんは納得して安堵した。
一番親しい友人がよくこの大木の裏に隠れていたのだ。
おちゃらけて手を出しているんだ。そう思った。
少し笑いながら名前を呼ぼうとした。
また腕が生えた。
最初の腕よりかなり高い位置に、まさに『腕が生えた』のだった。
最初の腕はYさんから見て大木の左側、今生えたの右側。
子供の背丈を遙かに超えている。
そしてまた生える。
今度は左側。
大木から一直線にすーっと突き出ていく、Yさんは驚きで身動きでなかったが、その後も左右に高さをかえながら生えていく腕を目で追い続けていた。
本当の枝が生えている高さまで腕が生えたとき、変化が起きた。
真っ直ぐただ伸びていくはずの腕が、蛸や烏賊の足を思わせる、ぐにゃぐにゃした動きを始めた。
その時ようやく怖気が走り、絶叫を上げ、転げ回りながら家へと逃げ帰った。
ちなみに学友達もYさん絶叫に驚いて、蜘蛛の子を散らすように各々帰宅したそうだ。
しばらくは小山で遊ぶ事はなく、再び小山で遊ぶようになっても、以降、不思議なことは起こらなかったそうで、学友や本人に不幸なことが起こるなどもなかったし、その大木にまつわる不思議な話も聞かなかったそうだ。
Yさん「よく見知った小山ですら訳のわかんねぇもんがでるんだ。今の時代に手つかずで残ってる山なんて、どんなおっそろしいもんがでるか、なぁ?わかんねぇだろぉ?」
そうっすねぇー
同意しつつ、ノスタルジーを感じる怪異の話に、私の心はときめいていた。
友人Nくんがもってきた写真
高校時代からの友人Nくんが、変な写真が撮れたと連絡をくれた。
Nくん「いやー、こじつけっぽいけど」
Nくんから渡された写真を観る。
花火でもしてたの?
Nくん「そう思うじゃん、花火も煙草もやってない。」
んー?モックモクじゃん!?
Nくん「いやー、そうなんだよ。でもマジでしてないから!」
写真には二組のカップルらしき人物が写っているが、花火や煙草の煙と思わしき白いものが全体的に映り込み、よく見えない。
Nくん「いやー、『もろ』写ってるじゃん」
まー、写ってはいるけど、エクトプラズムって話?
Nくん「あっ、気付いてない?」
顔が付くほど近づけ、嘗め回すようにみる。
心霊写真あるあるかなと思い。
んー、手があるとか?指増えてるとか?足が無いとか?
Nくん「いやー、違う!違う!」
Nくんに目を向ける。未だにこの時のNくんの顔が忘れられない。今まで観たことの無い顰め面で手の動作も入れて。
Nくん「離して!離して!」
写真を離して観る
うーん?…はぁぁぁあっっっ!
我ながら間抜けな声を上げ、写真から目を背け、天井を仰ぐように仰け反る。写真はテーブルに落としてしまった。
これはやばい!ほんとに『もろ』だ!
全身に鳥肌が立つのを感じながら思わず叫んでしまった。
Nくん「いやー、だから言ったじゃん」
顰め面が嘘のように、肩を震わせながら我慢できず吹き出して笑っていた。
ああー、これは…だめだ…。
強烈だった。
たいしたことないだろうと、油断した瞬間に、ものすごいものをもらった。Nくんが顔を真っ赤にしながら大爆笑している様をもう一瞥してから、天井を見上げて、しばらく動けなかった。
Nくんはバイト仲間の4人と仕事終わった深夜に、バイト先の近くにある公園で遊んていた時、たまたま持っていた使い捨てカメラに残数があったので、記念に撮った一枚がこの写真だった。
Nくん「いやー、その時に気になる事があってさぁ」
彼らは深夜の公園で童心に帰り、かくれんぼをしていた。
周囲に民家が無かったので、大声を上げながら楽しんでいた。
Nくんが鬼になった時である。
十秒数え終え、もういいかい?と叫ぶ。
「はい」
即座に返され困惑した。
「もういいよ」ではなく、ただ「はい」である。
『まあ探していいって事だよな?』と、探し始める。
すぐ見つかった同僚は「ずるするなよー」と茶化してくる。
「はい」って言ってたろうと反論するが、誰も言っていないと言われる。若さもあって、くだらない、言った言わないの口論となった。全員が集まり話をするが、「はい」とは言っていない、そして聞いてもいないと口を揃えた。
Nくんは釈然としないが、場の空気を考え、聞き間違いだったと折れた。
それからすぐにかくれんぼに飽き、帰る前に撮ったのがこの写真である。
私は落ち着きを取り戻し、話聞きながら写真を眺めた。
顔だった。
白い煙全てで写真一枚分の大きな顔になっていた。
最初に観たとき、何故、気が付つかなかったのか?
性別まではっきりと判る顔だ。
白い煙は目鼻顔を完全に構築して、首筋まで見える。
そしてひとつ気になる部分を見つけた。
Nくん「いやー、こじつけっぽいけどさ、わかる?」
声とこの顔が同じ人物かなんて…
Nくん「違うよ!見覚えない?!」
遮るように言われて、思わず、Nくんを見る。
あまりにも真剣なその表情に促され記憶を辿る。
写真が撮られた公園は、私自身、子供の頃から遊んでいた場所である。そして、この顔に確かに覚えがあったがうまく出てこない。小・中学校の同級生?いや、Nくんとは高校からだからしらないよな?塾とかか?考えはするが返答に窮していた。
Nくん「公園の所にある電柱に…」
ああ!!
思わずNくんの言葉を遮り、写真を手に声をだしてしまう。
思い出した。あの公園にある電信柱に貼ってあった。
行方不明者の写真とほぼ同じ顔で同じアングル。
絶句して、写真に見入る。
私と同年代、私の実家の近所で行方不明になったので、大騒ぎになっていた事をはっきりと覚えていた。近隣学校の出来事であり、母校では、この行方不明事件がきっかけで集団登下校が義務付けされた。近所の電信柱には、情報提供を求める写真付きのビラが必ず貼ってあった。忘れようが無かった。
記憶が確かなものになり、再び全身に鳥肌が立つ。
徐にNくんが写真の一部分を指差す。
そこは私も気になっていた部分だ。
Nくん「もうこの子ってさ、この公園で…」
いや、いい、判ったから…。言わなくていいよ…。
また遮ってしまった。口に、声に出してはいけないと思った。
明確に顔があり、首筋があるが、途中で煙が消え、間をおいて再び煙が首筋をつくる。
チョーカーを付けているようにも見えるかもしれない、私には縄で首を絞められているようにしか見えない。
白い煙が消える前後が、明らかに窄んでいたからだ。
Nくん「警察に相談した方がいいかな?」
不安に揺れるNくんの眼を見て、ただ「うーん…」と唸る事しか出来なかった。
数年後、その行方不明の子は発見された。生きていた。
二人の考えは外れ、ただただ疑問だけが残った。
ひととなり。
Yさん
この話を伺った頃は、お孫さんが生まれたばかりで、
このニュースに大変心を痛めておいででした。
本当に尊敬できる好々爺。
Nくん
私がオカルト好きと知っているとはいえ、
とんでもない代物を贈ってくる。持ってくる。
恐ろしい友人。
件の写真は行方不明で(単純にNくんが無くした。)
ネガも無く、現物がないのが本当に悔やまれる。
シミュラクラ現象ではないと断言出来る。
私の今まで人生で一番鳥肌が立ち、
謎が残る写真でした。
(自分で保管は絶対にしたくなかったです。)