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序章:異界人類

 暗き空に掲げられた蒼き一本の刀――正確に言えば「機械のような形の刀」――が、常に浴び続けている月光を反射し、周囲に散らしている。その蒼き刀の切先は、ゆっくりと、目の前にいる「もの」へ向けられる。その「もの」の動きはまったりとしており、誰がどう見ても生物の正常な動きとはかけ離れていることが分かるだろう。

 蒼き刀を持つ者の唇が、ゆっくりと開く。


「……最後に、言い残す言葉はありますか……?」


 切先を向けられたままの「もの」は、低く、鈍い声で、こう、呟いた。


「覚えておけ」




「……げっ! 6円足りねぇ!? ……つーことはあれか。昼抜きでこれから7時までの死闘を潜り抜けなきゃならねぇってかぁー!?」


 誰に問いかけてるわけでもないのに、弁当を売っているコンビニの中でひとりの少年が叫ぶ。周囲から不審そうな目を向けられるが、本人は事の重大さのあまり、その視線にすら気がつかない。

 彼の名は影代良治かげしろりょうじ。東京都のある地域の一角に住んでいる。一本一本が針のようにツンツンと立った髪と、やる気ナシの目が特徴な何の変哲もない高校生だ。

 その何の特徴もない少年は、現在進行形で、修羅場に立たされている。その理由は、


「……調子こいて弁当しかないコンビニなんて来るんじゃなかった……」


 彼は、一学期の間、必要最低限度の授業数カリキュラムをこなさなかったりして、この夏休み、地獄の補習を受けている。そして、今、彼は休憩の合間の昼食に質を求めた余り、高い弁当ばかりが並ぶ高級度満点のコンビニへと訪れてしまったのである。その中でも最も安い物を選んだのだが……。


「最安で1200円の弁当しかねぇって……どんなコンビニだよ……」


 明らかに自業自得なのだが、コンビニの所為にする器の小さい影代。いや、そうでもなけてばやってられないのである。この光景を見た者は殆どが『別の店寄ればいいじゃん』と答えるだろうが、残念ながら、それは叶わないのである。


「えっと……現在12:45分。補習開始は13:05分……。こっから一番近いとこでも確か2.5kmくらい先のとこのコンビニだったから……ああーっ! 走り回る時間と食べる時間を合わせたら確実に間に合わねぇ!」


 東京と言ったら、日本一の大都市であり、コンビニのような店はそこら中にある、と思う人がいるかもしれないが、寧ろ、最近は大型のビルが増えてきているため、少ない。

 地味に緻密ちみつな計算も、実行することができなければ何の意味もない。

 結局、影代は昼抜きで地獄の6時間を過ごすこととなったのであった……。




 学生寮に着いた頃には、もう8時を回っていた。

 あれから6時間もの死闘を終え、体中の何もかもを根こそぎ絞り抜かれた影代は体力・精神ともにもはや虫の域に達していた。意識も朦朧とする中、やっとの思いで自分の部屋の扉の前まで辿り着いた。その扉には鍵が掛けられているのだが、それにも気付かずガチャガチャとドアノブを回し、『あ、あれー……?』と呟いている。

 そんな少年の哀れな姿を、後ろで見ている者がいた。


「……お前、何してんの?」

「お……おお、虎介こすけ。何でかな、扉がビクともしねーんだよ……」

「何故にそんなにやつれてんだ……お前」


 速峰虎介はやみねこすけ。それが現在影代の後ろにいる人物の名前である。影代の隣部屋に住む、保育園の頃からの幼馴染だったりする。だが、影代とはまるで正反対。学問・スポーツ共に言うことが無いほどの文武両道な少年である。

 そして、速峰の右手には、スーパーの買い物袋が提げられている。


「……ん? これから夕飯か?」

「ああ。色々とあってね。お前もその様子じゃ食ってないみたいだし、良かったら一緒に食

「頂きますッ!!」


 まだ聞いている途中なのに、目を大きく開き、口元から涎を流しまくる影代。その光景を見て、速峰の顔はかなり引き攣っていた。まあ、ここまでの反応は予想していなかったが、自分で誘ったんだし一緒に食うか。と速峰は拒絶したい気持ちを抑え、影代を部屋へ入れた。




「……てなことがあった訳でさ、結局朝8時から今まで、12時間以上何も口へ入れてなかったんだよ」

「ははっ、そりゃ災難だったな」


 速峰の心のこもった温かい料理によって、影代は心身ともに満腹になった。そして、現在、先程まで続いていた地獄の体験談を話している。

 話している最中、時間が気になった影代は、ふと顔を時計に向けた。時刻はいつの間にか9時半を回っていた。


「……っと、もうこんな時間か。そんじゃ、俺、自室に戻るよ。今日は本当にサンキューな」

「どういたしまして。明日はしっかり計画性のある補修にしろよー」


 計画性のある補習ってどんな補修だ、と心の中でツッコミを放ちながら、速峰の部屋から出る影代。そして、自分の部屋の鍵を解き、入ろうとした。

 だが、扉を開ける寸前、何かを忘れていることに気が付いた。


(あれ……。何だっけ……。この調子で行くと今日の二の舞になりそうな重大な事を忘れている気が……)


 そして、思い出した。


「そうだ……。もう食材がねぇんだ! 買っとかなきゃ、明日の朝も抜きになっちまう!」


 彼は、普段は家で弁当を作り、それを学校に持っていくという生活を送っている。だが、今日だけは食材が無く、仕方なく、ということでコンビニで買うつもりだった。だが、それも失敗に終わった。


「もう暗いけど……しょうがないか」


 そう呟くと、とりあえず鞄から財布を取り出し、夜の街を歩きだした。



 

 街灯の光が全く当たらないほどに狭い路地裏の道を、一人の女性が歩いていた。金髪の長い髪をポニーテールにしている碧眼へきがんの女性は、羽織っているジャケットのポケットから一つの通信機を取り出した。

 通信機の表示に出されている場所は、こことほぼ一致していることを確かめた彼女は、通信機の電源を消し、再び仕舞った。そして、腰に掛けてある刀のつかへと手を添え、小さな声で呟いた。

「早いお着きですね……」


 その瞬間、路地裏の暗闇の中から一つの影が現れた。だが、その影の主は、見たところ、戸惑っているようだった。

 何だか様子がおかしい。そう気づいた外国人の女性は、ポーチの中から懐中電灯を取り出し、目の前を照らした。

 そこにいたのは、標的などではなく、一人の少年だった。

 突然、明りにあてられた少年は、驚いたようなポーズをとっていた。


「……は、人間!?」

「な、な、何ですかアナタはぁッ!? それにこの国は拳銃・刀などの危険物の持ち込みは一切禁じられている筈のことですよ!?」


 少年は、泣きそうな顔をしながら叫んだ。その光景を見た女性は、驚いた顔をした。

 

「なっ……このタイミングで一般人がここに来るなんて……! さては、人間の形になり済ました新型の異界人類ミュータントですね!?」


 そして、再び女性は柄に手を掛け、相手を鋭い目つきで見据えた。

 しかし、一方の買い物に行こうとしている途中の少年、影代良治には何のことかさっぱり不明である。


「はぁ、ミュータント? 何だそりゃ? つーか、とりあえずその刀を持っている手を離して! 怖くて普通の会話もできないから!」


 最後の確認のため、女性は再びジャケットから通信機を取り出して、周囲の状況を確認した。しかし、それにはまだターゲットが示されていなかった。

 

「と、いうことは……貴方は本当に、一般人なのですか?」


 女性は刀に触れている手をゆっくりと話しながら、恐る恐る聞いた。


「喋ってることの意味が分かんねぇんだよ! 誰がどう見ても一般人、誰がどう見りゃ不審者に見えるんだ!?」

「も、申し訳ございません! こちらにもそれなりの用が―――」


 怒る少年に女性は事情を説明しようとした。だが、それは一瞬で遮られた。何故なら―――



突然、巨大な影が現れたからである。


「ッ!!」


 その瞬間、女性は上を向き、刀に再び手を添えた。その眼光は、先ほどまでとは一転しており、まるで、人を殺める目そのものだった。 

 女性の鋭い眼光に怖じ気づいた影代は、小さな悲鳴を上げながら、後ろに身を引いた。そして、気付けば、大きな影は、自分の目の前に立っていた。


 そして、次の瞬間――影代目がけて、一筋の閃光が突っ込んできた。

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