自立するために勢いで「追放する」と言ってみたけど、もう遅い。すでに依存しきるどころか禁断症状が……。~それはともかく、娘を嫁がせるにはまだ早い~
しばらく上げられなかった、お題ネタ振りの作品です。
「カイ! ……貴方をこのパーティから追放します」
幼馴染みかつ【勇者】であるミアが、厳粛に宣言した。ここはギルド内にある一室。クエストを一つ消化し終えたばかりの現在、休憩を兼ねて次の方針を決めるために部屋を借りていた。
周りにはパーティメンバー。【聖女】であるエリス、【剣聖】のカンナ。ちなみに俺は【荷運び】だ。
これらは直接の職業を表しているわけではない。
十二歳の時、【託宣の儀】という儀式を経て、人は神から【役割の目安】というものを授かる。
それは安直に言ってしまえば天から与えられた才能。戦闘から生活まで、幅広く影響するものだった。ただし、必ずしも役割の内容に殉ずる必要はない。が、事実、ほとんどの人はそれをを元に職業や生き方を選択しているし、スキルや魔法というものもある。それぞれの能力の伸びも効率が良い。
「ミア? 追放って……出て行けってこと?」
「そうです。ギルド規約により貴方の私物と所持金は取り上げません。ただし、速やかに荷物をまとめて出て行ってちょうだい」
……ふーん。
「何かの冗談かな? 急すぎて頭が追いつかないんだけど、理由は? そもそも解雇通告にしては俺への意思確認もないし、普通なら話し合いか猶予期間くらいは設けるよね」
「冗談なんかじゃないよ。そこまで言われないと分からないの? 幼馴染みって事でこれまで何とか付き合ってきたけど、もう限界だって言ってるの!!」
理由を聞いた瞬間、ミアは突然、声を張り上げた。あたかも、『これまでずっと我慢していた』と言わんばかりに。
「限界って役割的にってこと? どれを指してるのか、ちょっと意味がわからないけど。それはともかく、リーダーは勇者のミアなわけだけど他の二人の意見は? とりあえず俺の意思確認の件は置いておこうか。何かを決定する際には多数決がこのパーティの基本方針なわけだし、二人とも賛成ってこと?」
「ええと……カイさんには申し訳ないんですけど……」
エリスは気まずげに顔を背けつつ言った。
「……というかそもそも何よ、荷物持ちって。ふざけてるの? まるでアタシたちが酷いみたいだけど、これはアンタのためでもあるのよ」
淡々とした表情でカンナも追従する。いつの間に話し合ったのやら、満場一致のようだ。
「俺がパーティに残るメリットはプレゼン出来るけど。交渉の余地はある? ……正直、俺を追放したら後悔するのが目に見えてるよ?」
要するに、話し合いが通じる状況かという問いだ。
「無理。そういう事じゃないの。代わりの人材についてはすでに目処をつけてます。大体、女性パーティの中に男性が一人いるというのは問題だと思わない?」
「そこは今さらだろ。これまでトラブルもなくやってきたのに。つまりは能力じゃなくて好き嫌い云々の話ってことか。まあ……全員がそういう意見なら、今この場に強引に残ってもしょうがない。わかった、これから受付に行くことにする。二人ともスマン、ミアを頼むな」
それだけ告げて、俺は席を立った。
この後どうなるか……結果は分かりきっているのに、と溜め息をつきつつ。
◯
カイが退室した直後──
途端にミアは崩れ落ちた。
「あ、うぅ~……カイ、カイィィ~。やだ、行かないで、見捨てないで~……」
ボロボロと涙を流すミア。それを白けた様子で見やるエリスとカンナ。
「はぁ~~……ですから、やめておきましょうって申しましたのに」
「率直に言って、ミアはカイの事に関しては途端におバカになるからなぁ。【追放】って何よ。もうちょっとやりようがあったでしょ……」
辛らつな二人に対して、グスグスとベソをかきながらミアは言う。
「だって……あれくらいしないと。依存しきる前に【カイ絶ち】をして耐性をつけておかなきゃ、この重さがバレて『この女、病んでるな……』なんて思われたらもう生きていけない! いわば自立するためのショック療法だよ! たぶん私、さっきカイから優しい言葉を一つでも投げかけられたら、耐えきれなかったし」
「すでに手遅れにしか見えないのですが……」
「もう十分にミアは病んでるよ……」
呆れかえる二人。
「今までなんとか我慢してたけど、幼馴染みなんて関係、もう限界だよぉ~……。このまま辛抱して告白待ちでいるにしても、もしパーティ内に泥棒猫が現れたらって思うと安心もできないし」
「……」
「……」
「ふふふ、なに? 付き合ってもないのに寝取られの心配なんて、二人とも呆れて言葉も出ないって感じ?」
「いえ……」
「よく理解してるなと」
「ほらやっぱりいたよ泥棒猫たちがここに! ああ、でもでも! 追放したらしたで追放先で鳶が油揚げを……あわわわ」
「こんなのが勇者の役割を授かってるんですものね」
「そこまで心配ならサックリと告白すればいいじゃない……」
「告白!! そんなのとっくに考えてたよ!! たぶん産まれた時くらいからね!!」
「たぶんって。じゃあなんでしないんですか。というか貴女、産まれた時からって。【前世】でもあるんですか」
「ほんとそれね。それよりアタシとしては、教会出身のエリスが【前世】なんて異教の例えを出す事にビックリだけど」
「いや、【前世】って何の話? 違うよ、それくらいの愛って事だよ。でもそうだね、もし万が一断られでもしたら──比喩じゃなく死ぬ」
「「重ッッッ!!」」
「それにしても! 二人とも追放する時のカイに対する対応、酷いんじゃない?」
ミアは自分の事を棚に上げ、二人を責めはじめる。
「えぇー……不本意な追放ですし、そりゃあ気まずい表情にもなりますよ……」
「アタシに至っては正論じゃない? パーティ内で一番強い人間が荷物持ちメインって、意味が分からないし。出て行ってほしくはないけど、カイの資質を活かしてほしいっていうのは本心」
役割など関係なくカイの戦闘力はズバ抜けていた。魔法面でも物理面でも。仮にこの三人が束になって挑んでも返り討ちにあうだろう。それでもその待遇に甘んじていたのは、本人が授かった荷物持ちと『女性に荷物持ちをさせるのは体裁が悪すぎるから……』という、フェミニストな理由だった。それならそれで、もう一人荷物持ちを増やせという話である。
「あっヤバい」
「ミアさん?」
「ん? 何か他に失念してたとか?」
「うぅん……私の中に残ってるカイ成分が早くも切れてきた……カイ……カイニウムが足りない……」
「ミアさん……」
「うん、もう中毒症状が出てる時点で終わってるからね。だいたい【カイニウム】って何よ」
◯
もうそろそろいいかな? いや、さすがにまだ早いかな。
追放を言い渡されて、体感で三十分ほど経ったころ、俺は元の部屋へと引き返していた。
いっそのこと三日くらいは留守にしようとも思ったけど、どうせそんなには保たないでしょ。そういう想いで、先ほど出て行った部屋をノックした。
……が、返事がない。
あれ、まさかそのまま出て行ったのか? それこそ、まさかだ。頭にクエスチョンマークを浮かべながら部屋の戸を開けると……。
そこには死屍累々、精魂尽き果てた様子の三人がいた。
見たところ、ミアが駄々をこねて二人が振り回されたというところかな。
「おーい、三人ともー……カイさんですよー」
机に突っ伏している面々に声をかけると──すごい勢いでミアが立ち上がった!
「カイィ~ごべんなざい~私が悪かったがら、戻ってきて~~」
これアレだ、アンデッド的なヤツ。もちろん本人には言えない。顔は涙にまみれていても綺麗だったが、セリフだけを切り取るとまさにアンデッドそのものだった。
……三日どころか三時間も保たないんじゃないの? 相変わらず重たいというか……病み具合がもうね。
「はいはい、許してあげるから。先に迷惑をかけたそっちの二人に、ごめんなさいしようか?」
涙をハンカチでぬぐってやりつつ、まるで聞き分けのない子どもに諭すように声をかける。この寸劇、すでに俺は気づいていた。バレバレ以前の問題だった。というか、俺としては自分の好意が伝わってないと思っているミアに対して驚愕を禁じ得ない。
だってさ……【託宣の儀】で【勇者】の役割を授かったミアは────
『ぇ……なんで私の役割、【カイのお嫁さん】じゃないの……? こんなの絶対おかしい……許されていいはずがない……。ユウシャ? ナニソレ』
茫然自失とした様子で、ボソッとそんなことを呟いたんだもの。その瞳からは完全に光が失われていた。本来なら『いや、なんで俺限定なんだよ!』ってツッコむべきところだが、正直ちょっと怖かった。もはや告白どころかプロポーズだよ。
これで好意に気づかないヤツがいるとしたら、アホか難聴スキル持ちである。これはミア自身の発言だから難聴などは関係ないかもしれないが、似た発言を無自覚にしまくってる時点でもうアレだ。したがって、自分の好意が未だにバレてないと思っているミアは──アホの子である。俺は勝手にそう解釈していた。
しかもそれだけではないのだ。俺以外の三人が授かったのは、奇しくも【ユニークロール】と呼ばれ、他に類を見ないものだった。
【託宣の儀】以降、世間の事情から旅に出ることになったわけだが……彼女は往生際悪く、勇者として旅に出る直前まで戦闘力ではなく【お嫁さんスキル】を磨き続けていた。それも毎日毎日、俺の家に入り浸りつつ。
ご近所さんからは『おっ! 今日も通い妻が来てるのか! 仲睦まじいねえ!』と茶化されていた。だがその当人は、持ち前の間の悪さをさし引いたとしても──アホの子なので全く気づいていなかった。
これだけ聞くと、まるで俺が好意を向ける女性を放置するクズか外道のようだろう。だが言い訳を聞いて欲しい。俺はこれまで何度もミアに好意を伝えようとした。しかし──決心した雰囲気を出した途端、ミアは逃げ出してしまう。
先述の内容に加えてのチキンっぷり。勇者なのにチキンとは、これいかに。ミアという子は属性モリモリなのだ。
「あー……エリスとカンナもお疲れ様というか、ウチの勇者がゴメンな?」
「いえ、カイさんも被害者ですし……」
「むしろ、こっちこそゴメン。資質なんかにこだわってたアタシが愚かだった。ミアのメンタルケアに勝る役割なんてないよ……」
またも二人に迷惑をかけてしまった。……そうだ、今こそミアが逃げられない状況! 本当は旅が終わるまで止めておこうと思っていたが──もうアレをやるしかないな。
「ミア、聞いてくれ」
「え、カ、カイ?」
「この旅から無事に帰れたら──結婚しよう。そして小さな店でも開こう」
そう。プロポーズを兼ねた、未来の青写真の披露だ。
これは昔、よく読み物を読んでいたら出てきたのだが……土壇場でこのセリフを言ったキャラクターは大体死ぬ。とある批評書ではその類いの発言をまとめて、【死亡フラグ】と呼称していた。ちなみにミアのような子のことは、【ヤンデレ】と総称されるらしい。
いま、実は魔王軍の四天王との戦いを目前に控えている。これを伝えるのが今というタイミングなのも、いかにも不吉な話だった。
◯
「これが魔王討伐におもむいたパパ達とボブの旅の結末だよ」
暖炉が燃える暖かな部屋の中。ロッキングチェアーに腰掛けた俺は、膝上に乗っている愛娘に昔話を語っていた。
「まだそれ旅の途中だよパパ!? 一番厄介なシーンを省いてるよ!! 【死亡フラグ】とかいうのを回避できたのは分かったけど、四天王は!? 魔王はどうなったの!? あと、さりげなく追加されてるボブって誰!?」
元気の良い子だ。この子はミアに似たのだろう。
「この旅で一番厄介なシーンはここだったんだよ」
そしてボブはその直後に雇ったナイスガイさ。道中の真の荷物持ちにして旅の立役者。彼がいなければ快適な旅は破綻していたかもしれない。後で読んだ書物によると、彼のような規格外の存在を【チート】と呼ぶらしかった。
「どれだけママは厄介者だったの!? 勇者の娘としてはむしろ恥なんだけど!!」
「四天王は雑魚だったね。魔王という男は……まぁ」
「四天王が雑魚っ!? パパが激強なのは知ってるけど……。あれ、なんで魔王のところは濁したの?」
「それはね、お前が──まあこの話は置いておこうか」
「メチャクチャ気になるよ!! 私、魔王と何か関係あるの!?」
「ところでお前と近所のハルくんの話なんだけどね」
「パパ話を誤魔化すの下手すぎるよ!! それで、ハルくんがどうしたの?」
それでもこうやって誤魔化されてくれる我が娘の可愛さよ。
「ほら……お前とハルくんって相思相愛じゃないか。すでに結婚したいとかなんとか」
「うん。私、愛情には自信があって。この先も気持ちはブレないと思う」
「そりゃあそうだろうね。なぜならヤンデレの娘はヤンデレ。そう、実はお前はねぇ~……ヤンデレだぁッ!!」
脅かすように驚愕の事実を告げる。
「うわビックリしたっ!! なんで急に怪談のオチ風に語ったの!? 違うよ、ママはともかく私は一途なだけだよ」
「ヤンデレはみんなそう言うんだよ。ともかく、『お前とハルくんが結婚するのはまだ早い』……と、言いたいところだけど」
「え、もしかして許してくれるの?」
「もしかしなくても許すよ。パパはね、お前の幸せを願ってるんだ。条件さえ満たせば明日にでも挙式することを許可しよう」
「許可は嬉しいけど、さすがに結婚はまだ早いよ!! もちろん、いずれはするけどね。ちなみに条件ってなに?」
「安心しな、とてもシンプルだよ。ハルくんがパパを倒せたらさ」
「いや安心って。今回は怪談のオチな感じというより、内容が怪談レベルなんだけど。魔王軍を蹴散らしたパパを倒せって事は……結婚の難易度、魔王討伐より高くない?」
「娘よ、いいことを教えてやろう。人間、諦めなければね──夢は必ず叶うんだ」
「パパっ、それ仮にもラスボスが言うセリフじゃないよ! お願い、もうちょっと難易度下げてよ!」
「む、仕方ない。これも可愛い娘の頼み。妥協するか……。よし、ママを倒したらでいいよ」
「ママも勇者だし無理だよ!」
「大丈夫。ママの役割は勇者だけど、そんなに強くはないから」
「まぁ……、ママって家事スキルにリソースを全振りしてるしね」
「そうだよ。でも、一つだけアドバイスしておいてあげようか。ハルくんが戦う上で、ダメージソースが一番高い技を持ってるのは実はママだから、せいぜい気をつけな」
「ダメージソース……? え、まさかパパを差し置いてママの技が一番強いってこと!?」
「ああ、味方さえも巻き込んでしまう恐ろしい技だよ」
「自爆系なのかな……? それは確かに強そう。なんて技?」
「なるほど、自爆か。我が娘ながら上手い例えだ。技名はね──【プリティプリンセス・スラッシュ】」
「あいたたた!!」
「ほらな。いま語っているパパの胸も痛んでる」
「味方を巻き込む自爆ってそういう意味!? ダメージって物理じゃないんだ……」
「さて、この精神的ダメージにハルくんは耐えられるかな……?」
「うぐ、ハルくんにドン引きされるのが何よりのダメージかも……」
「そう。これはパパが犯した【罪】──ミアに背負わせてしまった業なんだよ。あのパーティの時、パパが『お、ドレスで着飾ったミア可愛いじゃん。まるでお姫様だね』なんて迂闊に褒めたりしなければ……!」
「いやそれは安直に技名に結びつけちゃうママが悪いと思う。嬉しかったのは同じ女として理解できるけど、さすがに【プリティプリンセス】のネーミングは酷いね……。あとパパ、【罪】って」
「ま、パパやママを倒せなんて冗談だよ。大丈夫、全てはお前次第さ。お前とハルくんの【真実の愛(笑)】があれば世界も滅亡せず平和になるし、結婚も上手くいくよ」
「あっ、そうだったんだ。パパのことだからてっきり本気かと。……えっ、なんで世界の命運を私が握ってるみたいな感じなの? スケールが壮大すぎない? それから今、【真実の愛】って重大そうなワードを半笑いで言ったのもなんで?」
「別にハルくんが魔王なわけでもないのに、なんでだろうねえ? わざわざ俺たちが試練を課さなくても、一週間後にある【託宣の儀】でお前達は──」
と、言いかけた所で夕飯の食材を買いに出ていたミアが帰って来た。
「ただいま~。おっ、二人とも仲がいいね。何の話をしてたの? ママも混ぜてくれる?」
そんなミアへ、娘は無邪気に答える。
「魔王討伐の旅のお話だよ! 【追放】とか【プリティプリンセス・スラッシュ】とか」
「ぐふっ!! よりにもよって、墓まで持っていきたかった話を……」
「まあまあ。それより娘よ。【託宣の儀】で授かりたい役割って何かあるかい?」
「うん。授かりたいというか、もう決まり切ってることなんだけどね──【ハルくんのお嫁さん】だよ!」
やはり蛙の子は蛙。すでに【ハルニウム】とかいう未知の成分を摂取している我が娘は、まさしくミアの子だった。とはいえ、ミアとは違った意味でイロモノ属性持ちだが。まあ、この子たちの事だ。これから苦難が訪れようと、俺たちのようにちゃんと上手くやるに違いない。
時は流れ、歴史は繰り返す──か。
俺は感慨深い想いに浸っていた。
一方、我が妻ことミアは……娘からの無自覚な追加ダメージに、さらに身悶えていた。
「あ、そうだ。明日ハルくんに会うなら、ついでにウチでとれた野菜をボブ──ハルくんのパパに渡してくれるかい?」
「うん、それはもちろ──ボブってハルくんのパパなの!!??」
今日一番の娘の絶叫が、我が家に響き渡った。
娘よ。義理の親になる人の名前を知らないとは……お前もまだまだ青いな。
娘の正体はTS転生した魔王。
交戦する前に普通に色々交渉した。
今後展開されるであろう、前世の記憶ガーとか、生まれ変わりの葛藤ガー
とか、そういう話はおいといて
ヤンデレ娘の恋愛が成就しなければ(ハルくんと結ばれなかったら)世界は滅ぶ。
他の方も、ひろろさんからのネタ振りに応えて作品を生みだしていらっしゃいます。
ひろろさんのマイページです↓
https://mypage.syosetu.com/1682286/
お題やネタ振りって超有り難いですね!!