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ショートショート2月~

うちのにおい

作者: たかさば

あ、人んちの、におい。


マンションのエレベーターに乗り込んだ私は、鼻をスンと鳴らした。


日常生活において、時折香る、自分の家とは違う、におい。


化粧品?芳香剤?香水?アロマ?

木造建築のにおいに、落ち着くにおいに、畳のにおいに、太陽のにおい?


はっきりと、これは何のにおいだと断言はできない、人のうちの、におい。

いうなれば、人んちのにおい群に属する、いろんなにおい。


私はひとのうちのにおいが、まあまあ、好きだ。


いろんな人がいっぱいいて、一人一人違う生活を送っている安心感?

しみつくようなにおいがある、家がある幸せに気付く感じ?


あまり突き詰めて考えたことはないが、ふわりと香る、人のうちのにおいに、平和を感じているとでもいえばいいのか。


わりと子供の頃から、人のうちのにおいに敏感だった。


お寺さんの子の家は、線香と畳のにおいがした。

…家に仏壇のある子は、大体線香の香りが少しミックスされていた気がする。


ピアノがある子の家は、上品なにおいがした。

…なんというか、においに♪がトッピングされているような子が多かった気がする。


猫を飼っている子の家は、猫のにおいがした。

…家のにおいとはまた違う、猫フェロモンが加算されるのだ。


そういえば私は…昔、猫を飼っている子を当てることができたのだ。

実に百発百中で、自慢げにその技を披露していた時代もあったのだけど。


猫を飼い始めたころから?

あの独特の猫臭が、わからなくなったようなのだな。


あの、猫を飼ってる人特有の、におい。


私は猫飼いになってしまったから、あの匂いを身にまとっているに違いない。


においが私を包み込んでいるから、混じってしまって…嗅ぎ分けることができなくなったのだ、おそらく。


それとも…消臭剤がきっちり役目を果たしている?


私が猫のいる家をかぎ分けていた時代は、消臭剤など存在していなかった、はず。

文明というのはすごいなあ、そんなことをぼんやりと考えながら、家路を急ぐ。


「あ、まだ帰ってきてないな、間に合ってよかった。」


家の鍵が二本玄関に残っているのを発見してしまった私は、仕事を早めに切り上げて帰宅せざるを得なくてですね。


なんで言われないとカギを持って行かないのかなあ、子どもたちっていうのは…。

まあ、持ってけって言わなかった私も大概だけどさあ…。


玄関のカギを開け、上着を脱いで…リビングのソファに沈み込む。


いつもより早い私の帰宅に、猫たちがわらわらと寄ってきて、しっぽを足に巻き付け、膝に乗り、横に座り込み頭をごしごし…。


そうだなあ、これだけにおいを擦り込んでくるんだもん、猫のにおいもつくよね、相当猫くさいよね。


…でも猫そのものをにおってみても、クンクン・・・全然猫くさくないんだけどなあ。

丸い猫の背中も、年寄り猫のおなかも、若い猫の頭も…クンクン、何もにおわない。


消臭剤が効いている?いやでも直接猫に振りかけてるわけではないからなあ…。


そんなことを思いつつ、ソファ横の超お徳用サイズの消臭ビーズを見つめて…あ、中身減ってるから補充しておかないと。


「ねえ!なんかうち猫くさいって言われた!!」


やけにプンプンした様子で、娘が帰ってきた。

なんだやけにタイムリーな話題だぞ、いったいどうした。


「そりゃあ6匹も猫がいれば、ねえ…。なに、いじめ的な?」

「なんか猫嫌いの子がさあ!うちと友達四人指差して猫くさいって言ってさ!めっちゃ友達怒っちゃっててんやわんやよwww」


今は猫飼ってる家多いからなあ、そういう事もあるわな。


「まあねえ、嫌いなもんの臭いってのは気になるからね。婆さんもペット飼ってる人見つけてはクサイクサイ言って嫌われてたよ。」


クサイクサイと喚いていた人が、近所の鼻つまみもんになるとかさ、全然笑えなかった結末がですね。


「ペルシャ飼ってる子が一番くさくて、うちは田舎くさいんだって!!ゆいのとこは軽くにおって、梶浦んとこはマタタビくさくて、しげちゃんとこは掃除が行き届いていないにおいがするって!」


過去の猫飼い嗅ぎわけの血が騒ぐというか、言ってることの意味がすごく理解できてしまう私がここに。

だが、私と娘の友達?と違うのは、猫が好きか嫌いかという点に尽きる。


「私だってねのつくアイツがいる部屋は、入ったら一発でわかるもん。嫌いなもんの臭いってのはすぐにわかるんだよ。ついつい分析しちゃうんだよ、多分…。」


そう、嫌いなもんの臭いっていうのは、実に鼻粘膜が敏感に反応するのですよ。


例えば、ねのつくあいつのいる厨房は実に狡賢いにおいがするし、ねのつくあいつのいる旦那の実家は実に不愉快極まりないにおいがするし、ねのつくあいつのいる動物園の一角は実にせせこましいにおいがするし、ねのつくあいつのいる下水道は実に腐れ外道のにおいがするのだ!!!


「まあねえ、猫飼ってない人だったら、気になることもあるかもね。他人の鼻に優しくありたいと願うのであれば、消臭スプレーかけといたら?」

「うん、そうする!!!」


娘が上着やら服やらかばんやらに消臭スプレーをぷしゅぷしゅやっている。


それを猫たちがじっと見つめているぞ。

…せっかく付けたにおいを消すとは何事かと思っているのではあるまいか。


「ただいま。…スプレー?」

「あんたもスプレーしといたほうがいいよ!!猫くさいって言われるから!!!」


娘はランドセルを背負ったままの弟にもぷしゅぷしゅとやっている。実に面倒見のいい姉だ、素晴らしい。




私が夕食の準備を始めると、猫くさい我が家のリビングはニンニク臭でいっぱいになった。


我が家のリビングはキッチンと隣接しているので、調理中及び食事中は大変に香しくなるのである!


明日は土曜日、においを気にしなくてもいい日なので、ニンニクメニューを作ったのさ~♪


ニンニクチャーハンにニンニクたっぷりから揚げ、ニンニクたっぷりペペロンチーノにニンニクチップ入りサラダ、とんてきにニンニクの芽の炒め物―!


なお、我が家を猫くさくしている猫の皆さんは、ものすごいニンニク臭に辟易したのか…揃いも揃って二階へと避難中。


猫すら逃げ出すとかどれだけ攻撃性の高い匂いなのか、いやしかしうまいものはウマいのだ!!!


・・・ん?まてよ、ということは。


「ああ、わかった!猫くさいのが気になるなら毎日ニンニクかじって顔に塗りたくって学校行けばいいんじゃん!なんだ、解決したね!!」


「ダメに決まってんじゃん!!!」

「だめすぎる。」


おかしいな、名案だと思ったんだけど、娘も息子も否定しているぞ。


「ただいまー!あ、今日ニンニクの日?!わーい!!!」


旦那はニンニクが大好きなのだな。今日も大喜びで食らいつくすに違いない。




すっかりおなかいっぱいになって、片づけをすませ、お風呂に入って、さあ寝るかと思って玄関に鍵をかけに行った私は…黒い影を、見た。


…この薄暗い玄関で、誰が何をしているのだと目を凝らしてみると。


猫が数匹…娘のカバンや上着に…必死に頭を塗り付けてる!!!

よく見ると息子のランドセルにもごつごつと頭をぶつけてる…若い猫!!!

総勢四匹で、消えた猫臭を再び付与しているとでもいうのか!!


さらにリビングに行くと、いつもは二階で鎮座しているみかん色の猫と気の強い猫が…ソファーの上で体をごしごしやっている。


普段動かぬ猫二匹で、ニンニク臭に汚染されたソファに猫臭を再び付与しているとでもいうのか!!


さらにさらにキッチンに行くと!!!面倒見の良すぎる姐さん猫がテーブルの上で体をぐねぐね、椅子の足にしっぽをまきつけまきつけ!!!


どう見てもニンニク臭を消すために尽力しているご様子です、御見それしました勘弁してください…。


なんかさあ、もう猫臭、絶対に取れないわ、うち…。

猫を飼わなくなったら、猫臭はなくなるかもしれないけどさ。


多分さあ、もう猫飼い当てること、多分ないわ、私…。

猫を飼わなくなったら、また見分けることができるようになるのかもしれないけどさ。


今のところ、猫を飼わなくなる予定は、ないわけで。


私は、消臭スプレーを玄関に置いた。

さすがの猫どもも、まさかテレポートしてにおいをつけに行くことはできまい。家を出る直前に消臭すれば、多少猫臭は消えるはず。


明日、娘が猫くさいと言われるかどうかは、消臭スプレーの力にかかっている。


消臭スプレーの威力が発揮されると良いなあ、そんな事を思いながら、寝室に向かったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夫可愛いですね~ いつも楽しく見せてもらってます!応援してます!
[一言] 自分の家の匂いってわからないんですよねー。 ニンニク料理をしたら、ニンニクの匂いが服にもつくのでしょうが……。自分ではわからない……。 あいつクセェよとか指をさされていないことを祈るばかりで…
[良い点] なーるほど。猫のマーキングですか。そうかそうかそう思うんですか。 [気になる点] ちょっとシシハちゃんの行動パターンを変える必要ありますね。 [一言] スプレーで取れるんかいな
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